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浦和地方裁判所川越支部 昭和55年(わ)506号 判決 1988年1月28日

《本籍・住居》《省略》

無職(元医療法人役員) 北野早苗

右の者に対する医師法違反被告事件について、当裁判所は、検察官松宮崇、同坂井靖出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

この裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四二年八月医療法人芙蓉会富士見産婦人科病院(以下、「富士見産婦人科病院」という)を開設し、同法人の理事長に就任していたものであるが、医師の免許がないのに、別表記載のとおり、昭和五三年一月四日から同五四年一一月二日までの間、六六回にわたり、埼玉県所沢市西所沢二丁目一番一三号所在の富士見産婦人科病院本院において、六六名の患者に対し、担当医師の指示により実施した超音波検査(以下、「ME検査」ともいう)の結果から、同患者らについて、それぞれ子宮筋腫、卵巣のう腫等の疾病があり、入院、手術を要する旨判定・診断したうえ、これを同患者らに告知し、もって、医業をなしたものである。

(証拠の標目)《省略》

(争点についての判断)

本件事案にかんがみ、主な争点に対する当裁判所の判断と事実認定に関する若干の補足的説明を加えることとする。

第一訴因不特定の主張について

弁護士は、(一)検察官は、本件犯行の既遂時期に関し、昭和五六年四月一七日の第一回準備手続期日における裁判長の求釈明に対し、「被告人がME検査をして判定、診断をし、もしくはポラロイド写真台紙に自己の所見を記載した時点で既遂となり、患者に対し被告人が自己の所見を告知してもしなくても既遂であることに変りはない。」と述べ、他方同年五月二九日の第二回準備手続期日においては、「被告人が患者に対しME検査を開始した時点が犯行の着手時期であり、その結果に基づき被告人が独自の判断で患者の疾病等について判定、判断しこれを患者らに告知したことにより既遂となる。」と述べているが、右検察官の本件犯行の既遂時期に関する主張は相互に食違っていて明らかでないので、本件訴因は特定していないというべきである。(二)検察官は、本件公訴事実中の判定、診断、告知につき、昭和五五年一一月二一日の第一回公判期日において、弁護人からの、「起訴状中の判定とは独立した医行為であるか。」との求釈明に対し、「判定とは広い意味で医業であるが、独立した医行為とまでは考えていない。ME検査の結果、ブラウン管に投影された映像に対する解読、判断であり、医学的な評価の前提としての客観的状況に対する判断であり、また判定と診断とは一体をなしたものである。」と釈明し、次いで前記第一回準備手続期日において、弁護人からの、「ME検査の判定、診断をもって医療行為があったというのか。」との求釈明に対し、「判定・診断は広義の医行為である。」と釈明し、第二回準備手続期日においても同様の釈明をしているが、他方、右第一回準備手続期日において、「(ME検査の結果を)告知した場合であっても、判定・診断、告知が一体として医行為となる。」とも述べており、本件においては、広義の医行為、判定・診断、告知のそれぞれの持つ意味と関連して、医行為の範囲についての本件訴因は極めて曖昧かつ不透明であり、特定していない、と主張する。

そこで先ず所論(一)についてみると、検察官は本件犯行の既遂時期等に関し、所論指摘のとおりそれぞれ釈明しているが、右は本件犯行の既遂時期等についての検察官の意見を表明したにすぎないものであって、そのこと自体本件訴因の特定に何ら影響を及ぼすものではない。本件公訴事実は、犯行の日時、場所、犯行の内容等について具体的に明示して記載されており、その特定に欠けるところはない。所論は理由がない。

次に所論(二)についてみると、起訴状記載の公訴事実及び検察官の釈明によれば、本件公訴事実の内容をなす医行為は、ME検査結果から、患者に特定の疾病があり、入院、手術を要する旨判定・診断し、これを患者に告知したというものであり、右判定、診断、告知は一体として医行為を構成するものとして起訴されたことが明らかである。また、判定、診断、告知はそれ自体抽象的な概念であるといっても、通常の判断力を有する一般人がその意味内容を確定するのにそれほど困難を感ずることがないのみならず、本件においては、検察官の釈明により、判定はME検査の結果ブラウン管に投影された断層映像に対する解読、判断であって、医学的評価の前提としての客観的状況についての認識、判断であり、また診断は右認識判断に対する医学的評価であり、告知についても公訴事実別表記載の各患者に対する告知内容によりそれぞれ具体的に明らかにされているものであって、本件医行為の訴因の記載として特定性に欠けるところはないということができる。所論はとうてい採用できない。

第二富士見産婦人科病院について

一  富士見産婦人科病院の開設と構成

被告人の当公判廷における供述、被告人の検察官(昭和五五年九月二〇日付)及び司法警察員(同月一六日付)に対する各供述調書、証人北野千賀子の公判調書中の各供述部分、検察官沖田章作成の昭和五五年一一月一七日付捜査報告書、川村耕治作成の登記簿謄本等によれば、富士見産婦人科病院は、医療法人芙蓉会の開設にかかる病院であるが、被告人の妻である北野千賀子医師(以下、「北野医師」あるいは「北野院長」という)が勤務していた埼玉県所沢市西所沢二丁目一番一三号所在の医療法人芙蓉会第一診療所が昭和三八年ころ閉鎖されたため、被告人が同第一診療所の建物と土地を買い取り、これに隣接土地を買し増したうえ、同四二年八月同所に新たに開設された病院が右富士見産婦人科病院(本院)であり、また同四三年九月には北野医師が以前より同市緑町一丁目一八番二号において個人で開設していた芙蓉会産院が右富士見産婦人科病院の分院となったが、このとき被告人が医療法人芙蓉会の理事長に、A医師が富士見産婦人科病院の院長に、北野医師が同分院長にそれぞれ就任している。

また、医療法人芙蓉会富士見産婦人科病院には、診療に関し、院長、副院長、分院長のほか、医師の所属する医局のもとに、看護課、検査室、秘書課が設置され、また右診療以外の業務に関しては、理事長、副理事長、事務局長のもとに、医事課、庶務課、経理課、厨房課、管理課等がおかれ、看護婦、准看護婦、検査技師、事務職員等が配置されていたが、昭和五五年八月現在、医師五名、看護婦、准看護婦約二五名、臨床検査技師一名、事務職員約一〇名、給食関係者等約一五名が勤務していた。

二  富士見産婦人科病院の運営

被告人の当公判廷における供述、被告人の検察官に対する昭和五五年九月二一日付供述調書、証人B、同北野千賀子の各公判調書中の供述部分、同C子に対する当裁判所の尋問調書、同D子に対する受命裁判官の尋問調書、E、北野千賀子の検察官に対する各供述調書、医局会議々事録写三冊等によれば、被告人は、前記のとおり、富士見産婦人科病院の開設以来、医療法人芙蓉会の理事長として同法人の運営に関する業務を統轄し、主として富士見産婦人科病院の経営に関する資金繰り、人事に関する任免、賞罰、給与等について権限を有していたものであり、他方富士見産婦人科病院における診療義務に関しては、昭和四六年以降、北野医師が院長として医療上の統轄者となり、同病院における医師、看護婦その他診療に従事する者を指導監督する立場にあったものである。そして、富士見産婦人科病院においては、右院長のもとに原則として週一回開催される医師たる医局員を構成員とする医局会議が設置され、医局長を議長とし、診療に関する一切の事項が協議され決定されることとなっていたが、後述するとおり、医局会議には医局員のほか、医療法人芙蓉会の理事長、専務理事、事務局長らが出席し、要望や意見を述べることができた。

三  富士見産婦人科病院における外来患者に対する診療システム

関係証拠によれば、新規外来患者は、富士見産婦人科病院において、おおむね次のような順序で診療を受けていたことが認められる。すなわち、①新規外来患者は、先ず事務局の窓口へ行き、事務局員に診療を申し込み、保険証を差し出す。事務局員は患者からの説明あるいは保険証によって、外来患者受付簿に患者の氏名その他所定事項を記入するとともに、患者に初診カードを渡して必要事項を記入させたうえ、患者のカルテを作成する。カルテは保険カルテと自費カルテの二種類があり、保険証を有する患者については自費カルテのほか保険カルテを作成したうえ(保険カルテは保険適用の処置をした場合に記入されるものであり、自費カルテは保険適用外の処置をした場合に記入されるものである)、患者を外来待合室へ同行する。②患者は、外来医務室において、予め担当医師の指示を受けた看護婦(准看護婦を含む。以下同じ)より、検尿、血圧測定、身長・体重等の測定を受けるが、その結果は看護婦によって自費カルテに記入され、担当医師のもとに届けられる。担当医師は右カルテに目をとおしたうえ、患者と面接し、問診・視診・触診などの必要な診察をし、その所見を自費カルテに記入する。③ところで、担当医師が診察の結果、当該患者についてはME検査あるいはコンサルが必要と判断した場合には、ME指示表(当初は「連絡票」であったが、昭和五三年末ころより「ME指示表」となる。以下、いずれをも、「ME指示表」と表示する)あるいは医事相談指示用紙(以下、「医事相談指示票」という)の指示欄に要項を記入して、ME指示あるいはコンサル指示を出す(担当医師がME検査とコンサルの双方が必要と判断すれば、ME検査指示とコンサル指示が同時に出されるが、本件起訴にかかる患者については、後述するとおり、訴因番号38の患者を除き、すべて予め担当医師より被告人に対しME検査指示とコンサル指示が同時に出されている)。看護婦は患者のカルテとともに、ME指示表あるいは医師相談指示票を事務局に届けるが、その間患者は外来待合室(喫茶室)に待機する。事務局員は、秘書課に連絡をとって、担当秘書を呼び出し、右看護婦から受けとったカルテとME指示表あるいは医事相談指示票を渡し、担当秘書をして患者をME室へ同行させる(なお、分院においてME検査指示あるいはコンサル指示をうけた患者は、車で本院へ運ばれ、ME室へ同行される)。そこで、ME室の担当者は、右担当秘書が持参したME指示表あるいは医事相談指示票によりME検査又はコンサルを実施することになるが、ME検査結果についてはME写真コピーを作成して保険カルテの末尾に貼付し、コンサルについては医事相談指示票の相談課説明内容欄に必要事項を記入する。そして、右ME指示表、医事相談指示票、カルテは、担当秘書により事務局を経て後述するME主任管理医師、担当医師の許へ回付され、その後ME指示表、医事相談指示票については秘書課において、カルテについては医事課においてそれぞれ保管される。他方、ME検査あるいはコンサルを終えた患者は、看護婦に誘導されて事務局へ行き、カルテにより計算された当日の現金負担分を支払い帰宅する。④医師がME検査もコンサルも必要がないと判断した患者については、その日の診療を終了するが、引き続き後日に診察又は治療が必要な患者については、担当医師から次回来院日を指定されたうえ、前同様看護婦に誘導されて事務局へ行き、その日の精算をして帰宅する。以上が富士見産婦人科病院における新規外来患者についての通常の診療の概要である。

ところで、本件は、被告人が医師の資格はもとより何ら医療法上の資格がないのに、右に述べたME検査及びコンサルの担当者としてこれに関与し、その際の被告人の行為が医師法一七条に違反するとして起訴されたものである。そこで以下富士見産婦人科病院におけるME検査及びコンサルの実態について検討を加えることとする。

第三ME検査について

一  ME装置

被告人の検察官に対する昭和五五年九月二一日付、同年一〇月一五日付、同月二四日付各供述調書、押収してある取扱説明書六冊、カタログ三部、取扱説明書及び仕様書二冊、超音波診断技術入門テキスト一冊、図解産婦人科超音波検査法一冊、モダンメディシン一冊等によれば、ME装置は、レーダーに使用されている超音波の原理を応用したものであるが、超音波を患者の身体にあてることにより体内の臓器等の断層面をブラウン管に投影させる機器であって、医療上この断層映像によって患者の体内の状態を観察するために考案されたものである。ME装置が診断機器であるか検査機器であるかはさておき、体内の臓器等の状態を種々の角度から視覚により観察することができることから、医師の内診所見や従来の検査によっては発見できなかった患者の体内の病状、病変の有無、その程度等を明らかにするのに役立っている。そして、産婦人科の分野においても、超音波がX線とは違って母体や胎児に害がないことから、婦人生殖器の位置及び形状、子宮筋腫、卵巣のう腫、胞状奇胎等の病状、病変の有無・程度、胎児の状態、妊娠期間、着床、正常妊娠と異常妊娠等を判定・診断するのに利用されているものである。

二  富士見産婦人科病院におけるME検査の採用と被告人がME検査を実施するようになった経緯等

関係証拠によれば、次のとおり認められる。すなわち、被告人は、昭和四六年六月ころ、埼玉県所沢市内の医療器具販売会社のセールスマンからME装置の購入を勧められ、北野院長と相談のうえ、当時としては開発されたばかりでまだもの珍しかったME装置(SSD―三〇B)を購入したが、当初はB医師が中心となり、これにF医師、G臨床検査技師が加わってME検査を実施していたが、同年一〇月ころF医師が退職し、その後G臨床検査技師も本来の検査の仕事が忙しくなったため、ME検査から離れ、以後、B医師一人がME検査を担当するようになった。その後本院の二階南側の部屋がME検査室として確保され、同四八年六月ころには新式のME装置(SSD―六〇B)が購入されたが、同年八月ころ外来患者の診察をしながらME検査を担当していたB医師より、診療業務が多忙であるからME検査の担当を外してほしいとの申し出があり、他方、被告人自身において、以前に電気関係の仕事をしていたことからME検査に興味を持っていたうえ、B医師をME検査から外して外来患者の診療に専念させた方が富士見産婦人科病院における患者の流れもよくなると判断し、北野院長と相談のうえ、医局会議において、自らME検査を担当することを各医師に伝え、ME検査を実施するようになったものである(北野院長作成の昭和四八年八月二五日以降の医師勤務表のME検査担当者欄には、月曜から金曜までの週五日間「北野(理)」と記入され、被告人が毎週五日間ME検査を担当するようになった)。被告人は、当初B医師から、実際に患者に対しME検査を実施しながら、ME装置の操作の仕方や断層映像を見て患者の病状・病名等を判断する方法について指導を受けていたが、同年一〇月ころ以降、被告人が単独でME検査を実施するようになり、その後、被告人において超音波やME検査に関する参考文献を読んで研究したり、経験を積んだため、同五〇年一〇月ころには断層映像やME写真をみてほぼどのような患者の病状・病名等についても判断するようになり、以後同五五年九月本件により逮捕されるまでME検査を継続して実施していたものである。なお、富士見産婦人科病院においては、右被告人のME検査に関し、ME主任管理医師の制度が設けられ、その開始時期や実態については後述するとおりであるが、当初はB医師が、同五四年六月一八日以降はH医師がそれぞれME主任管理医師に任命されている。

三  被告人が実施していた本件ME検査の概要

関係証拠によれば、被告人が本件において行っていたME検査の概要は次のとおりである。すなわち、被告人は前記のとおり担当医師から回付されてきたME指示表の指示により、ME検査を実施していたものであるが、カルテ(診療録)、ME指示表、医事相談指示票が廻されてくると、先ずME指示表及び医事相談指示票にひととおり目をとおし、担当医師の意向を把握したうえ(被告人は、ME検査や後述のコンサルの実施にあたり、カルテは一切見なかったと述べている)、患者をME室に入れてべッドに仰臥させ、補助者として同席していた担当秘書をして着衣を脱がせて患者の下腹部を露出させ、下腹部にアクアソニックを塗布させた後、被告人においてME装置のスウィッチを入れて画像や超音波の届く深度の目盛りなどを調節して準備したうえ、超音波を発する探触子を患者の下腹部に密着させてこれを上下、左右に移動走査させ、下腹部内の臓器等の断層面をブラウン管に投影させながら(探触子を走査させると、ブラウン管に映し出される画像もこれに応じて絶えず変化する)、通常一五分から三〇分位の時間をかけてその断層映像を観察したが、その間、鮮明な病状、胎児等が映し出されると、その影像を固定させたうえ、担当秘書に指示をしてポラロイドカメラでその映像を写させた(なお、昭和五四年三月購入したオクトソンの場合は、探触子を手に持って走査させる必要はなく、患者をベッドの上に伏臥させ患部に照準を合わせるだけで断層影像をブラウン管に映し出すことができた)。そして、担当秘書が右のようにして撮影した影像写真をB四判の大きさのコピー用紙に貼付し、これをコピーしたうえ、患者の氏名、年齢、作成日付等を記入して被告人のところへ持参すると、被告人は右ME写真のコピー用紙の余白に、ME装置を操作して自ら観察し、認識した患者の具体的病状・病名等を、必要な場合には臓器の図解をして記入し(以下、被告人がME写真のコピーの余白に記入した所見を「ME所見」という)、その後これを担当秘書において、再びコピーにとり、その下欄に「ME参考要検討乞」とのゴム印を押したうえこれを保険カルテの末尾に貼付し、前記カルテ、ME指示表、医事相談指示票等とともに、事務局を経て、ME主任管理医師、担当医師に回付していたものである。

四  弁護人の主張に対する当裁判所の判断

ところで、弁護人は、(一)右ME装置は、検査機器であって、患者を診断するための機器ではない。被告人が右ME装置を使用して実施したME検査は、担当医師から指示を受けてその診断の資料を提供するために行った検査であり、被告人において患者を診察・診断した事実はない。被告人がME写真のコピーの余白に記載したME所見も、医師の診断の参考に供する目的で撮影した患者の臓器の断層影像写真を、担当医師のために説明したものであり、被告人がME装置により患者を診察・診断した内容を記載したものではない。(二)被告人が実施していた本件ME検査は、人体に危害を及ぼすおそれはなく、しかも担当医師が患者の検査部位を具体的に特定してその実施を指示し、ME主任管理医師の指導監督のもとに行われたものであるから、医師法一七条に違反しないと主張する。

そこで、先ず所論(一)について検討すると、被告人が担当医師の指示を受けてME検査を実施し、その結果を報告するため、患者の臓器の断層映像の数コマを写真にとり、これをコピーにしたものを保険カルテの末尾に貼付し医師に回付していたこと、被告人は担当医師の参考のためME写真のコピーの余白にME所見を記載していたことは所論のとおりである。

しかしながら、被告人が実施していた本件を含むME検査の実態を関係証拠に照らし仔細に検討してみると、被告人は所論指摘のように、医師が診断するための資料を提供するためにのみME検査をしていたのではなく、併せてME装置を使用して自ら独自に患者の具体的病状・病名そのものを判定・診断していたものと認められる。すなわち、被告人はME装置を操作して患者の体内の臓器の断層映像を映し出し、そのうち病状・病変、胎児の状態等がよく映しだされた映像部分を静止させてこれを写真にとるとともに、ブラウン管に映し出されていく映像を自ら直接観察しながら、独自に患者の具体的病状・病名そのものを読み取りこれを判定・診断していたことは、ME所見、医事相談指示票の相談課説明内容欄の記載内容、各患者の証言、被告人の操作段階における供述等に照らし明らかである。そして、被告人が右のようにME装置を使用して自ら患者の具体的病状・病名そのものを判定しこれを診断するようになったのは、被告人が捜査段階で供述しているように、被告人自身においてME装置の操作に相当の興味をもって研究を重ね、経験も積んで患者の病状・病名等を判断できるようになったことのほか、富士見産婦人科病院の医師において断層映像写真の解読能力が殆どなかったために、前任者の医師であるBが実施していた方法をそのまま引き継いだことによるものである。また、ME所見や医事相談指示票の指示欄及び相談課説明内容欄各記載の内容、C子医師の供述内容等をみると、担当医師においても被告人に対しME装置による患者の病状・病名等の判断を期待し、また被告人がこれを患者に告げて入院をすすめることを当然のこととして受け止めていたことが認められる。更には、後述するとおり、被告人が医局会議において再三医師に対しコンサルの指示(医事相談指示票の指示)内容を明確に記載するよう要求していることからも明らかなように、担当医師からのコンサル指示の内容が杜撰かつ曖昧であったことから、被告人がコンサルを実施し患者に入院を勧めるうえでME装置を使用して自ら患者の病状・病名等を読み取り、これを判断せざるを得なかったことも否定できない。加えて、ME写真のコピーは、前叙のとおり、もともとME検査の結果を担当医師に報告するために作成されたものはであるが、その内容を見ると、患者の臓器の断層映像のうち、担当医師の診断資料として必要と思われる数コマを写真にし、これに映像の客観的な状態についての説明を付したというだけのものではなく、医師が患者を診察・診断した結果をカルテに記載するのと同様に、被告人がME装置を操作して自ら読み取った患者の具体的病状・病名等を患部を図解し医学的用語を駆使しながら詳細な説明を加えたものであり(被告人は、捜査段階において、探触子を実際に走査しながら納得のいくまで直接映像を見なければ、患者の病名や病状等の判断はできず、ブラウン管に映し出された患者の臓器の病状・病変等の映像が自己の頭の中に残っている間にME所見を記載したと述べ、自らの患者の具体的病状・病名等の判断の過程を明確に供述している)、しかも被告人は、後述するコンサルにおいて、右ME所見を含むME検査の結果判明した病状・病名等を自ら患者に告知しながら精密検査又は手術のための入院を慫慂していた(以下、「入院外交」という)ものである。以上のほか、被告人からME写真のコピーの回付を受けた医師が実際に参考にしたのは、ME写真そのものではなく(被告人は、捜査段階において、ME写真は医師に報告するためではなく、保険請求をする関係でME検査を実施したという証拠を残すためにとっていたにすぎないとも述べている)、ME所見として記載された患者の具体的病状・病名等であり、保険カルテに記載されたその日の患者の診断病名も、担当医師が内診所見により診察・診断したものではなく、右被告人がME所見として記載した病名をそのまま記入したものが相当数あり、しかもその中には医師自身がそのまま移記したものさえあること、ME検査は被告人が実施する以前はG臨床検査技師を除けばすべて医師が行っていた等の事実をも併せ考えると、被告人は、本件ME検査において、医師の指導や専門医学書により得た自己の医学的知識と経験を基に、独自に患者の具体的病状・病名等を読み取り、これを判定・診断していたことは明らかである。

以上のとおりであって、被告人の本件を含むME検査は、担当医師の指示により実施され、その結果についても担当医師に回付されていて、一応医師の診断資料を提供するための検査という形式がとられてはいるが、その実態をみると、被告人は単に医師の診療の補助としてME検査を実施していたというだけではなく、併せてME装置を使用して患者の具体的病状・病名等を独自に判定・診断し、その結果をME写真のコピーの余白に所見として記載するとともに、後述するコンサルにおいてこれを自ら直接患者に告げながら入院外交を行っていたものであって、右被告人の一連の行為が本来医師の行うべき診察・診断にあたり、医師法一七条により医師の資格のない者には禁止されたいわゆる医行為に該当することは明らかである(なお、患者の具体的病状・病変の有無、その程度等を読み取り、自らこれを判定診断する目的で、ME装置により映し出された患者の臓器の状態等を観察することも、診察行為の一種として医行為にあたるものと解されるが、本件においては、被告人の医師法一七条違反行為を、判示のとおり、検察官が釈明する公訴事実の範囲内で認定した)。

次に所論(二)について検討する。

(1) 担当医師の被告人のME検査に対する指示について

ME検査自体がX線のように人体に害を及ぼすものではないこと、被告人が担当医師からのME指示表による指示(医事相談指示票の指示欄に記載されたME指示を含む。以下同じ)により、本件各ME検査を実施していたことは所論のとおりである。なお、弁護人は、被告人は担当医師から右ME指示表による指示のほか、口頭、電話その他の方法による指示又は連絡を受けながらME検査を実施していたと主張し、被告人、北野、B各医師、I子らも公判廷において右主張に沿う供述をしているが、被告人自身捜査段階において、本件について担当医師からのME検査指示は右ME指示表による指示のみであった旨一貫して供述しているものであり、北野、B各医師、I子らの公判供述も曖昧なもので、これを裏付けるに十分な証拠がないのみならず、北野、B各医師と同様の立場にあったC子、H、D子(以下、「D子医師」という)各医師はいずれも被告人に対する本件ME検査の指示はME指示表によってのみ行われていた旨明確に供述しており、前叙被告人がME検査を担当するに至った経緯等に照らしても、右被告人らの公判供述は措信できない。

ところで、弁護人は、ME検査は人体に危険を及ぼすおそれがないので、医師の指示があれば、被告人のような医療法上の無資格者がこれに従事しても、医師法一七条に違反しないと主張するが、被告人は、前認定のとおり、担当医師の指示を受けて実施していたME検査において、ME装置を操作して患者の具体的病状・病名等を独自に判定・診断し、これを自ら後述するコンサルで患者に告知しながら入院外交を行っていたものであって、医師の行う診断資料を収集するための検査だけを行っていたとか、あるいは医師の行う診察・診断において単にその手足として関与していたにすぎないというものではない。そして、右のようにME装置の操作により患者の具体的病状・病名等を判定・診断するためには、ME装置の操作技術に加え、人体の臓器の形状等に関する解剖学的知識と経験が必要であり、また各臓器の正常時の状態等を予め知悉したうえ多種多様の病変に対応してこれを的確に判定する生理学的、病理学的知識と経験が必要であって、医師としての資格を有する者が自ら行うのでなければ保健衛生上危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれが存することも明らかである。

以上のとおりで、被告人はME装置を使用し自ら主体となって独自に患者の病状・病名等を判定・診断していたものであり、かかる行為は、使用した機器自体が患者の身体、生命に何ら危害を及ぼすおそれがなく、しかも医師による指示によって行われたとしても、無資格診療となり、医師法一七条に違反することはいうまでもない。

(2) 主任管理医師の被告人のME検査に対する指導・監督について

B、H各医師がそれぞれ富士見産婦人科病院においてME主任管理医師に就任していたことは所論のとおりである。

そこで、右両医師のME主任管理医師として被告人のME検査に対し行っていた指導・監督の実態について検討すると、弁護人は、右の点に関し、B医師は昭和四八年ころME主任管理医師となり、また同五三年一一月からはME指示表の最終管理者となり、被告人の行うME検査を指導・監督していたものであり、また同五四年六月一八日以降は、H医師がME主任管理医師としてME室に常駐し、被告人を指揮してME検査を実施していた旨主張し、被告人、北野医師、I子らも公判定において右主張に沿う供述をしている。しかしながら、関係証拠によれば、B医師がME主任管理医師に就任したのは昭和五三年一一月末ころであり、それまでは昭和四六年六月ころから同四八年八月ころまで専門のME担当医師として自らME検査を実施していたが、右ME担当を免除されて一、二ヵ月間、被告人に対しME検査の方法などについて指導したが、以後は本来の仕事である外来患者の診療業務に追われ、所論主張のようなME主任管理医師の立場から、被告人の行うME検査の指導・監督はもとより、その立ち会いさえしたことがないこと(B医師自身、右昭和四八年から同五五年までの約七年間に、自分の担当した患者で重大な病気が疑われた患者について、映像を自ら確認する必要があったためME室に行ったことはあるが、その回数はせいぜい一五回以内にすぎないと述べている)、また、ME主任管理医師の仕事の内容として、ME検査を受ける患者の診断は含まれていなかったので、被告人が実施するME検査を受ける患者に対するME検査の要否やME検査の内容についての実質的な検討は何ら行っておらず、そもそもこれができない状況にあったものと認められる。またH医師も、「昭和五四年六月一八日からME主任管理医師となったが、北野院長から、ME検査は医師の立ち会いがないと具合が悪い、立ち会うだけでよいからME検査室に入って下さいと言われ、それまでME検査の経験がほとんどなく、その能力もなかったが、被告人に対し特に指導・監督する必要はなく、単にME検査室で被告人がME検査を実施するのをみているだけでよいということで、ME主任管理医師を引き受け、以後本件により被告人が逮捕されるまでME主任管理医師に就任していたものの、その間実際にも、被告人に対しME検査の指導をしたことは全くなく、また、被告人のME検査を受ける患者をME主任管理医師の立場から診察・診断したこともなく、ただME指示表に目を通したことを確認する意味のサインをしていたにすぎない。」旨明確に述べており、右H医師の供述内容は、被告人の捜査段階における供述、C子、D子各医師の供述とも符合するものであって、前記被告人らの公判供述はとうてい措信できないのみならず、富士見産婦人科病院におけるME主任管理医師の被告人のME検査に対する指導・監督なるものの実態は、実体のない名目的なものにすぎなかったものと認められる。そうすると、被告人の本件ME検査がME主任管理医師の指導・監督のもとに実施されていたとの前記弁護人の主張は、その前提において失当であるというべきである。

所論はいずれも理由がない。

第四医事相談(コンサル)について

一  富士見産婦人科病院におけるコンサル制度と被告人がこれに関与するようになった経緯等

関係証拠によれば、富士見産婦人科病院において実施されていたコンサルは、いわゆる患者の治療のための助言や指導ではなく、専ら入院や手術をすることに難色を示す患者を説得しこれを承諾させることを目的として始められたものである。すなわち、富士見産婦人科病院においては、当初担当医師が患者について精密検査ないし手術のために入院が必要であると診断すると、担当医師において直接患者に説明し承諾をとっていたが、医師が診察に忙殺され患者に十分説明するだけの時間がとれないことから患者を説得し切れず、そのため患者との間に問題が生じるケースがあった。しかるところ、昭和四六年一〇月ころ、B、F両医師が担当した手術がうまくいかず、再手術が必要となったが、医師の説得では患者の承諾が得られず、緊急事態となったが、これを知った被告人が説得をして患者の了承をとり、ことなきを得たという事件があり、このことが契機となり、患者に対し入院や手術をすすめるについても、被告人が担当医師に代わって行えば、時間も十分とれることから、患者の経済的な問題、家庭問題などをも含めて相談に乗ることができ、そのため、患者との間も円滑に行くのではないかという考えのもとに、医師の要望もあって、同年末ころから相談課を新たに設置し、被告人がこれを担当することになったものである。なお、前記ME主任管理医師に就任したH医師らも、コンサルを担当していたものである。

二  被告人が実施していた本件コンサルの概要

被告人が本件において実施していたコンサルの概要は、関係証拠により次のとおり認めることができる。すなわち、被告人は、前記のとおり、担当医師より、看護婦、事務局員、担当秘書等の手を経て回付されてきた前記医事相談指示票の指示欄記載の指示を受けて、ME室又は理事長室において患者と面接し、コンサルを実施していたが、本件各患者についての担当医師から被告人に対するコンサル指示の内容は、後記のとおりである。また、右コンサル指示はいずれも前記ME指示と同時になされているうえ(たゞし、訴因番号38の患者を除く。以下同じ)、本件コンサルの殆どが、ME検査終了直後の前記ME写真コピーを担当医師に回付する前に、ME室で実施されている。そして、被告人は、コンサルが終了すると、その結果等を医事相談指示票の相談課説明内容欄に記入し(なお、同票の最下欄の医事課指示欄は、入院の手続きなどで被告人らコンサル担当者から医事課に指示することがある場合に記入されていたものである)、これをおおむねその日のうちに、前記カルテ、ME指示表とともに、事務局、ME主任管理医師を経て、担当医師に回付していたものであるが、本件各患者に対する右相談課説明内容欄記載の内容は後記のとおりである。

三  弁護人の主張に対する当裁判所の判断

1 被告人の本件コンサルと医師の指示等について

ところで、弁護人は、被告人は本件各患者に対するコンサルにおいて、いずれも担当医師の指示に基づき、その指示の範囲内で、担当医師が診断した患者の病状・病名等を医師の補助者として告げていたものであるから、医師法一七条に違反しないと主張し、被告人も公判廷において右主張に沿う供述をしている。

そこで検討すると、被告人が担当医師から各患者に対するコンサル指示を受けてコンサルを実施し、その状況等を医事相談指示票の相談課説明内容欄に記載し、これを担当医師に報告していたこと、ME検査とコンサルはもともと別のものであり、被告人がME検査の結果を記入したME所見は担当医師に対しME検査結果を説明し報告するために行われていたものであって、被告人がコンサルにおいて患者に告知する内容を記載したものでも、告知した内容を備忘のために記載したものでもないことは所論のとおりである。

しかしながら、関係証拠によれば、被告人は、本件各コンサルにおいて、担当医師からのコンサル指示の内容にとらわれずに、前認定のとおり、ME装置を操作して自ら独自に診察・診断した患者の具体的病状・病名等をそのまま患者に告げて入院外交を行っていたものと認められる。すなわち、医事相談指示票の相談課説明内容欄において被告人が患者に告げたと明確に記載している患者の病状・病名等の中には、後述するとおり、被告人のME所見には記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME指示表記載の各指示はもとより、内診所見にもないものが相当数認められ、右の事実は被告人が担当医師の診断やコンサル指示にとらわれずに、ME検査によって自ら独自に判定し診断した患者の病状・病名等を患者に告げていたことを示す明らかな事例である。弁護人は、右の点に関し、ME検査の結果、担当医師の指示にない患者の病状・病名等が判明したときには、被告人はそのことを担当医師に連絡し、担当医師から右病状・病名等についての追加指示あるいは再指示を受けてコンサルを実施していたと主張するが、後に個別的に詳述するとおり、本件各患者について所論主張のような追加指示あるいは再指示がなされていたものとは認め難い。またC子医師は、富士見産婦人科病院では、被告人がME検査を実施しコンサルを行うにあたり、ME検査により新たに判明した患者の病状・病名等を担当医師に連絡したり相談することなく、被告人の判断によりそのまま直接患者に告げて入院外交をすすめることは、当然のこととして容認されていたと明確に供述し、H、D子各医師もこれに符合する供述をしている。更に、被告人自身が、捜査段階において、一人前にME検査ができるようになった前記昭和五〇年一〇月ころよりかなり前の医局会議の席上などで、医師達から、ME検査で医事相談指示票の指示欄に書いていない病名・病状等がでたら、コンサルで患者に説明するように言われていたこと、本件すべての患者につき、担当医師のコンサル指示にとらわれず、従ってまた医師に連絡したり相談することもなく、ME検査により独自に診察・診断した病状・病名や入院・手術の必要があること等をそのまま患者に告げて入院外交を実施していたことを明確にかつ一貫して供述しているものであって、その供述内容は後述するとおり十分信用できるものと認められる。以上のほか、本件各患者についてはいずれもME検査指示と同時にコンサル指示がなされ、おおむねME検査直後にその場でコンサルが実施されていること、富士見産婦人科病院において実施されていたコンサルは、被告人を除けばいずれも医師が担当していたものであるが、被告人が実施していたコンサルの内容は医師が行っていたものと特に変わりがなかったこと、その他ME所見、医事相談指示票の相談課説明内容欄の記載内容、各患者の証言等をも併せ考えると、被告人は本件コンサルにおいて、各患者に対し、単に担当医師からの指示に基づき医師の診断した患者の病状・病名等をいわば医師の補助者あるいは手足としてそのまま告知していたにすぎないというものではなく、担当医師からの指示内容については一応念頭におきながらも、これにとらわれることなく、患者に対しては専ら被告人が実施したME検査により独自に診察・診断した具体的病状・病名や検査治療方法等を告げながらコンサルを実施していたことは明らかであって、右被告人の行為がME検査を通して自ら独自に診察・診断した内容の告知として医行為の一部を構成することはいうまでもない。なお、医局会議議事録によれば、被告人が医局会議に出席し、その席上、「ME検査及びコンサルはあくまで主治医が主体ですから、きちんとした自分の指示を表示して下さい。」(昭和五四年二月二〇日)、「コンサル制度があるけれども、それだけに全面的に頼ることなく各自の受け持ちとの関係をもっとみつにとるように。」(昭和五五年二月一九日)等と発言した記載があり、被告人が担当医師からのME指示ないしコンサル指示の内容が不明確なことから、医師に対し指示内容を明らかにするよう注文をつけるとともに、ME検査及びコンサルの主体が担当医師であることについての認識を促していることが認められるが、担当医師の指示内容が右医局会議の前後を通じて特に改善されたり、被告人のME検査及びコンサルのやり方が変更された形跡は関係証拠上全く認められないのであって、右被告人の医局会議における発言は、前記認定を何ら左右するものではない。所論はいずれにしても理由がない。

また、弁護人は、被告人の本件コンサルは、ME主任管理医師の指導・監督のもとに実施されていたのであるから、医師法一七条に違反しないとも主張するようであるが、ME主任管理医師に任命されていたB、H各医師の指導・監督の実態は前叙のとおりであって、所論はその前提において失当であり、とうてい採用できない。

2 被告人の本件コンサルにおける各患者に対する告知内容等について

弁護人は、検察官主張にかかる別表記載の各患者に対する告知内容等について、個別的に争っているので、関係証拠について若干の説明をしたうえ、順次検討を加えることとする。

(一) 告知内容等に関する証拠の若干の検討

(1) はじめに

被告人が、本件コンサルにおいて、各患者に対しいかなる資料に基づきいかなることを告知したかについては、当事者である被告人及び各患者の供述が重要な証拠となることはいうまでもないが、本件では後に個別的に検討するとおり、双方の供述ことに被告人の公判供述と患者の供述との間にかなり大きな相違がみられることから、右被告人及び患者の供述のみをもって、告知内容を確定することは困難であり、当時作成された医事相談指示票、ME指示表、ME所見、診療録等の客観的資料を基本に据え、被告人の捜査段階における各供述調書、B、北野、H、C子、D子各担当医師、その他本件関係者の各公判供述及び捜査段階における各供述調書をも併せ考慮しながら慎重に検討する必要があるが、弁護人が特に被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、被告人及び各患者の公判供述について詳細な主張をしているので、右各証拠についての当裁判所の基本的な考えを示すこととする。

(2) 被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書

ア 任意性について

弁護人は、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書につき任意性に疑いがあるので証拠として採用されるべきではないと主張するが、その主なものの要旨は、①被告人は、本件取調べにあたっていた捜査官から、上申書を書いて警察署長に出せばすぐに出られるといわれ、上申書の書き方について教えを乞うたところ、捜査官において真実に反する事実をどんどん書き入れ捜査官代筆による上申書を作成させられたが、その後面会に来た弁護人から事実でないことをあるようにいうことはいけない、本当のことをいうべきだと諭されて大変なことをしたと思い、捜査官に右上申書の返還を求めたところ、被告人の面前で破棄されたが、このように本件では被告人を取調べるにあたり、捜査官によって常識では考えられないようなことがなされている。②被告人の捜査段階における供述調書の中には、捜査官において被告人の供述を十分聞かないで、患者の述べているところをうのみにして勝手に書き上げたものが相当数ある。通常の一日の調書作成限度をはるかに超える枚数の調書が存在することはその証左である。③被告人は本件取調べにおいて、捜査官から、被疑事実を否認し続けるならば、医師をも逮捕することになるし、被告人の釈放も遅れる。もし事実を認めるならばそのようなことはないなどと威迫、誘導されたために自供するに至ったものであって、これらの事実を合せると、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書はその任意性に疑いがあるというのである。

そこで先ず、本件捜査の経緯、被告人に対する取調べ状況等についてみると、関係証拠によれば次のとおり認められる。すなわち、所沢警察署では、埼玉県警保安課の応援をうけて、昭和五五年春ころから、富士見産婦人科病院の被告人ら関係者について、保健婦助産婦看護婦法(以下、「保助看法」という)違反、医師法違反等の容疑で内偵をはじめ、患者から事情聴取をするなどとしていたが、同年九月一〇日被告人を一二名の患者に対する保助看法違反、医師法違反の被疑事実で逮捕したうえ取調べたところ、被告人はME検査を実施したことは認めたが、ME検査結果による診断及び診断内容の患者に対する告知の事実を否認した。また翌一一日検察官の弁解録取において、当初診断という言葉の意味についてこだわりを示したが、検察官より逮捕状の被疑事実として記載されたようなことをしておれば、それは診断行為にあたると説明されて診断の事実を認め、同月一二日勾留されたうえ、司法警察員及び検察官の取調べが進められたが、一貫して逮捕状の被疑事実を含む本件事実を認める供述をし、同年一〇月一日には三〇名の患者についての医師法違反により起訴され、その後同年一一月六日三六名の患者について訴因追加がなされるとともに、同日被告人は保釈されるに至ったこと、以上の事実が認められる。

ところで、被告人は、公判廷において、前記弁護人の主張にほぼ沿う供述をし、これに対し証人J、同K、同Lはこれらの事実を否定する趣旨の供述をしている。そこで、右認定の捜査の経緯等を他の関係証拠と対比しながら、前記弁護人の各主張について順次検討を加えることとする。

所論①について

昭和五五年九月一五日ころ、被告人を取調べていた吉沢警部補の立会をしていた出店巡査部長が、被告人から上申書はどのようにして書けばよいか聞かれ、同巡査部長において上申書を記載し、被告人がこれに署名したこと、被告人は翌日弁護人と接見し、弁護人から右上申書の作成について忠告を受け上申書の返還を吉沢警部補に求めたこと、上申書が破棄されたことは関係証拠上明らかである。

ところで、弁護人は、被告人で内容を記載して作成すべき上申書を捜査官において勝手に代書し、被告人に署名させて被告人の上申書とすることは常識では考えられないと主張するが、被告人が上申書の書き方がわからず、出店巡査部長に聞いたことは被告人も認めているところであり、また吉沢警部補の取調べに立会い、被告人が供述するのを聞いていた出店巡査部長が、被告人の求めに応じて右被告人の供述していた内容をそのまま上申書にまとめて記載してやり、被告人がこれに自署して自己の作成した上申書としたこと自体何ら違法、不当な点はない。

また、被告人は、公判廷において、出店巡査部長と吉沢警部補から体を押さえられながら上申書を破棄されたと述べるが、右上申書は吉沢警部補が預り保管していたものであり、これが被告人のいる場所で破棄されていることを考えると、同警部補が被告人に返還するためわざわざ持ち出したものと認められるが、その上上申書が所論主張のように被告人の面前で右吉沢らの手によって、被告人の体を押さえながら破棄されたというのはいかにも不自然であり、吉沢警部補が供述するように、被告人に返還された後、被告人の手によって破棄されたものと認められる。

更に、被告人は、吉沢警部補から上申書を書けばすぐに出られるといわれ、上申書を作成することにしたとも供述しているが、吉沢警部補は右事実を明確に否定しているのみならず、前記のとおり上申書が作成されたのは九月一五日ころのことであり、右は被疑事実からみても被告人に対する取調べが開始されたばかりの時期であること等を考えると、右被告人の供述は措信できない。

所論はいずれも採用できない。

所論②について

被告人の吉沢警部補に対する各供述調書の頁数が、昭和五五年九月二二日付が六二頁、同月二三日付が五四頁、同月二四日付が二通で合計七一頁、同月二八日付が四七頁であり、出店巡査部長に対するもののうち、同年一〇月五日付が四三頁、仲田検察官に対するもののうち、同年九月二〇日付が四三頁、同月二一日付が六六頁、同月二六日付が四九頁、同月二七日付が六九頁、同月二八日付が五七頁、同月三〇日付が五三頁であること、吉沢警部補は公判廷において、通常調書の作成は一時間四、五頁であり、一日の取調べが延べ五、六時間であるから、一日に出来上る調書の枚数は三〇頁位であると述べていることは所論指摘のとおりである。

しかしながら、吉沢警部補自身、他方において、被告人の供述を得て調書を作成したものであり、勝手に書きあげた事実はない。被告人に対する一日の調書の枚数は右に述べたより多く作成できたと述べているうえ、右各調書の内容を仔細に検討してみると、被告人は取調べに際し、捜査官から各患者についてのME指示表、ME写真コピー写、医事相談指示票、診療録等の資料を示され、これを検討し記憶を呼び戻しながら患者ごとに内容の異なる供述をしているものであり、そもそも所論主張のように捜査官において勝手に記載できるような事柄についての供述内容ではない。ことに右ME写真コピーの余白に被告人自身が記載しているME所見は、かなり癖のある乱雑な字で書かれていて、本人以外の者が正確に判読することは極めて困難であって、被告人の説明がなければ調書を作成して行くことが不可能であることは明らかである。所論はとうてい採用できない。

所論③について

吉沢警部補及び仲田検察官は、いずれも公判廷において、被告人の取調べにあたり、所論主張のような事実はないと明確に否定しているばかりでなく、被告人は前認定のとおり、逮捕後間もなく本件被疑事実を認め、その後一貫してこれを認める供述をしているものであって、特に捜査官において、被疑事実を認めなければ医師を逮捕したり、被告人の釈放が遅れることになるなどと告げて取調べを行う必要があったとは認められない。また、被告人は捜査段階において、仲田検察官に対し、「富士見産婦人科病院の医師達も、被告人が実施していた本件ME検査及びコンサルの実情を知りながらこれを容認していたものであり、被告人と同様に責任があり、そのため医師達が免許を取り消されたり、一定期間免許停止になったとしても仕方がないと思う。医師達がかわいそうであるということと医師達の責任とは別のことで、本当のことは本当のこととしてどこへ出ても今迄話してきたとおりのことは話すつもりである。」等と供述しているものであり、これらの事実を合せ考えると、被告人の公判供述は措信できない。所論は採用できない。

その他弁護人が任意性に関し指摘する諸点を十分検討するも、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書の任意性に欠けるところはない。

イ 信用性について

本件においては、捜査段階において、被告人を取調べるとともに、患者に対する取調べも行われていたことから、本件コンサルの際の告知内容についての被告人の取調べは特に慎重になされており、後述するように、患者が捜査官に供述した告知内容をそのまま質問し確認しながら被告人に供述を求めているものであるが、被告人はその際患者が述べている告知内容をそのまま認めているものではなく、自己の記憶、経験のほか関係証拠を検討したうえ納得できない点については司法警察員に対しても、検察官に対してもこれを明確に否認し、捜査官の意向や患者の供述内容に迎合して供述したような形跡は全く存しない。また被告人はすべての患者について、当時被告人や担当医師が作成した医事相談指示票、ME検査指示表、診療録、ME写真コピー(ME所見を含む)などの客観的資料を遂一検討しながら記憶を喚起し、また各患者についてのME写真コピーの映像に、当時被告人が診察・診断した患者の病状・病名等をME所見等により再確認しこれを赤ボールペンで記入しながら供述しているものであり、しかも被告人の供述態度も極めて慎重であって、明確に記憶がよみがえった事実と、当時の自己の実施していたコンサルの実情や関係証拠にてらしてほぼ事実とを明確に意識し、これを使い分けて供述し、その供述内容も具体的かつ詳細であり、C子、H、D子各担当医師らの関係者の供述ともほぼ符合するものである。以上のほか、被告人の捜査段階における供述内容は殆ど変わることなく終始一貫していること、前叙任意性の判断において述べた事情などをも併せると、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書の信用性は、本件各患者に対する告知内容に関する部分を含め、全体として極めて高いものと評価できる。

なお、被告人は右司法警察員及び検察官に対する各供述調書において、本件を含むすべての患者につき、専らME検査により独自に判定し診断した病状・病名等を患者に告げて入院外交をした、担当医師が内診所見を記載したカルテについては、独語で書かれていて読めず、これを見ずにコンサルを実施した旨一貫して供述しているが、公判廷においては、担当医師からのコンサル指示に基づき、その指示内容にある患者の病状・病名等だけを告げてコンサルしたものであって、ME検査の結果については患者に告げていないと述べ、右捜査段階における供述を真向から否認するに至っているが、前叙のとおり、被告人がコンサルの状況等を自ら記載した医事相談指示票の相談課説明内容欄の患者の病状・病名等の中に、医師のME及びコンサルの各指示にも内診所見にもないが(担当医師自身も、公判廷において、右は内診では診断できなかった病状・病名等であると明確に述べている)、ME所見に明記されているものが相当数あり、右の事実は被告人がコンサルにおいてME検査の結果を患者に告げていたことを明らかに示すのみならず、右相談課説明内容欄の記載中にはME検査の結果をそのまま患者に告げたと明記しているものもあること、本件各患者についてはいずれも担当医師より被告人に対し、ME指示と同時にコンサル指示が出され、右コンサルの殆どがME検査終了直後でME写真コピーを担当医師に回付する前にその場で実施されていること等を総合すると、被告人が前記捜査段階で供述しているところは十分信用できるものであって、本件各患者に対するコンサルにおいて、ME所見を含むME検査結果を各患者に告げて入院外交を行っていたことは間違いのない事実として確定することができる。

(3) 被告人の公判供述

被告人の公判供述を仔細に検討してみると、公訴事実についての認否の段階における供述とその後の公判供述との間に後述するようにかなりの変遷がみられるのみならず、医事相談指示票の相談課説明内容欄の記載からME所見の患者の病状・病名を告げていることが明らかであるのにこれを告げていないと述べている等客観的資料に明らかに反する供述部分も認められる。弁護人は、右の点につき、公訴事実の認否の段階では、被告人は保釈後間もなくのことで、時間的にも精神的にも余裕のない状況にあり、しかも検討する証拠も十分なかったが、その後の公判供述は、医事相談指示票、ME指示表、診療録のみならず、各患者、各担当医師の証言などを検討し記憶が正確によみがえったものであると主張するが、公訴事実に対する認否後の公判供述にも、後述するとおり、右相談課説明内容欄の記載内容、C子、H、D子、B各医師らの各供述内容とは、コンサルの追加指示ないし再指示等基本的事実に関する部分について、真向から相反するのみならず、全体としても不自然かつ不合理な点が存する。すなわち、被告人は公訴事実についての認否の際には、本件いずれの患者についても、担当医師からの追加指示ないし再指示があったという供述はなかったものであるが、その後の公判供述では、相談課説明内容欄に被告人が患者に告げたと明記してある病状・病名等のうち、医事相談指示票の指示欄にも医師の内診所見にも記載がないがME所見に記載されているものについては担当医師に連絡をとり医師から追加指示あるいは再指示を受けたと供述し、他方ME所見に記載されていて医事相談指示票の指示欄や内診所見に記載されていない病状・病名でも、相談課説明内容欄に患者に告げたとの明確な記載のない場合には担当医師からの追加指示あるいは再指示はなかったと供述している結果となっているが、被告人が前者に該当する患者について右のように供述を変えるに至った理由ないし事情について明確に供述していないのみならず、C子、H、D子各医師はいずれも本件を含むすべての患者についてコンサルの追加指示あるいは再指示をしたことはないと明確に述べていること、他方B医師は、公判廷において被告人に対し追加指示あるいは再指示をしたことがあると述べているが、相談課説明内容欄に患者に告げたと明記してあるか否かを問わず、自己の内診所見や医事相談指示票の指示欄にない病状・病名がME所見に記載されている場合には被告人に追加指示あるいは再指示をしたと供述していること(ただし、右B医師の公判供述もにわかに措信できないことは後述するとおりである)を考えると、検察官が指摘するように、相談課説明内容欄において被告人が患者に告げたと明記してある病状・病名について自己の行為を正当化するための弁解として右のとおり追加指示あるいは再指示を受けたと供述をするに至ったのではないかとの疑念を抱かせるものであり、被告人の妻である北野院長が、右追加指示あるいは再指示に関して、右B医師の供述とも異なる、被告人の前記公判供述に沿った供述をしていることをも併せ考えると、被告人の公判供述は、B医師、北野院長の公判供述と同様に、それぞれおかれた立場の利害から、公判廷に提出された証拠に合わせて適宜弁解をしているとの感を払拭できない。以上のとおり、被告人の公判供述はにわかに措信できないものがあるといわざるを得ない。

(4) 各患者の公判供述

各患者にとって、被告人は加害者の立場にあるのみならず、本件事案にかんがみ、患者の供述の信用性については特に慎重な検討を要する。確かに本件が各患者において自己の健康上の問題という生活の中で最大関心事の一つにかかわる事柄であり、忘れがたい体験であったことは検察官も指摘するところであるが、反面、各患者が供述したのは本件コンサルから数年も経過した後のことであり、記憶が薄れていることは当然考慮されて然るべきであり、しかも本件患者の中には、起訴にかかるコンサルのほかに被告人から同様のコンサルをうけているのみならず、他の医師の診察や手術の際にも自己の病状・病名を告げられており、患者が本件とは別の機会に医師や被告人から告げられたことを本件コンサルで告げられたものと混同して述べていることも十分考えられるところであって、患者の公判供述を検討するについては、医事相談指示票、ME指示表、診療録等の資料の裏付けの有無を考慮し、被告人の捜査及び公判における供述とも対比させながら、その真偽を慎重に確定する必要がある。被告人は、捜査段階において、本件コンサルにおいて、患者の病状・病名を誇張して告げたり、医事相談指示票の指示にもME所見にもない病状・病名も告げて入院外交をしたと述べており、患者の供述の中に右被告人の供述に符合すると思われるものも看取されるが、刑事裁判の厳格性にかんがみ、本件コンサルにおける告知内容についての各患者の供述のうち、関係証拠による具体的な裏付けのないものについては、供述自体の信用性が特に高く合理的な疑いの余地がないと認められる場合は格別、被告人の本件コンサルにおける告知内容として認定することを差し控えることとした。

(二) 各患者についての個別的検討

(1) 訴因番号1の患者について

ア 訴因番号1の患者(別表番号1の患者、以下単に、「患者」という)は、人工妊娠中絶手術の可否について相談するため、昭和五三年一月四日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その所見は、「子宮は前傾前屈、超手拳大、固く筋腫様。両側附属器は触知し得ない。子宮膣部肥大びらん高度(file_2.jpg)。」(以下、病名・病状・治療方法等に関する外国語による記載は日本語に翻訳したもので表示する)というものであり、同医師は、患者の子宮に筋腫様の触診を得たことから、人工妊娠中絶手術の可否等を判断する前提として、筋腫の有無及びその状態を確認する必要があると認め、医事相談指示票に、「①妊娠三か月(中)、人工妊娠中絶希望して来院しました。②避妊手術も希望しておりますが、筋腫があるようですし、よろしくお話し下さいませ。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、妊娠。子宮筋腫、合併した妊娠、妊は双胎の様ですから御配慮下さい。※(うまく出せればそのまま出して下さい)」などと記載し、また右ME検査終了後、患者を喫茶室で二時間位待たせた上、同病院理事長室において、患者に対し、本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に「明日午前一〇時入院、アウス後状況を見て全摘か否か定めると申してある。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、翌一月五日同病院に入院し、翌六日D子医師から妊娠中絶手術を、また、同月一三日には北野医師から子宮及び卵管の全摘手術を受け、その後も同年一〇月ころまで同病院に通院して治療を受けた。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「子宮に穴があいていて血がにじんで腹膜をおこしている、おなかの子供は二、三日したら死ぬ、あなたの命も三、四日しかない、卵巣は途中のところがちぎれていて悪い、子宮筋腫と卵巣嚢腫だと告げられ、掻爬して身体が悪くなるようなら子供を生むが、掻爬できるようなら子供ができないよう結んで欲しいと申し出ると、とても結ぶところではない、あなたのおなかの子供は二日もすれば死ぬよ、産みたいと言っても子供の命はもたない、手術をして子宮と卵巣を全部取ってしまいなさいなどと告げられ、入院承諾用紙を渡されて、翌日の午前に同病院に入院するよう指示された。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、人工妊娠中絶希望なので中絶しますが、筋腫があります。中絶后、検査の結果全摘するかどうか担当医とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、また、その後の公判においては、「C子医師の指示は、患者が人工妊娠中絶手術と避妊手術を希望しており、筋腫もあるので、入院させた上で避妊手術をし、さらに検査してどう処置するか検討する必要があるので、入院するように勧めて欲しいというものであった。ME検査の結果、子宮筋腫、双胎のようだとの結論を得ているが、この結果を直接患者に告げてはいない。この患者についてはME検査後二時間ほど待たせているようで、その間にC子医師と連絡をとって再指示を受けたものと思う。患者には、C子医師の再指示にしたがい、先ず中絶の手続をする、その上で検査をし、その状況を見て筋腫の治療、それから避妊手術をするか、あるいは全摘ということになるかどうかは、医師の検査結果を見て決めると話しただけである。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一月四日付相談課説明内容欄には前記の記載しかないので、右相談課説明内容のみから被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様にME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであって、右患者のME所見記載の病状・病名等のうち子宮筋腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の記載にも、又内診所見にも、「子宮は固く筋腫様」、「筋腫があるようです」としか記載がなく、右ME所見記載のように子宮筋腫があると断定までしていないし、双子の疑いについては全く記載がないので、これらは被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

なお、弁護人は、被告人はME検査後コンサル前に、ME検査結果をC子医師に報告し、同医師から追加コンサル指示を受けて本件コンサルを実施した、患者もME検査後コンサルまで二時間待たされたと証言していることから、そのように推認されると主張し、被告人も前記のとおり、右主張に沿う供述をしているが、被告人は捜査段階において、「MEの予約の患者がたて混んでいるときや、来客があったときなどは超音波検査をしただけで、コンサルするまでの間一~二時間、長いときで三時間位待ってもらうときがありましたから、この甲野という患者の場合も、そのような理由で待ってもらったのだと思います。その間超音波検査の結果のことで、医師のところへ相談に行っていたという訳ではありません。コンサル用紙を見ても超音波検査の結果のことで、担当医のところへ相談に行ったというような形跡は何もありません。」と明確に述べ(検察官に対する昭和五五年一〇月二二日付供述調書)、またC子医師も、被告人に対するコンサル指示は、医事相談指示票(コンサル用紙)の指示記載だけであって所論のような再指示をしたことはないと供述しているものであって、右被告人の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者について超音波の検査結果は医師の判定を受けないで、私の判断だけで病状や病名を説明しておりますが、所見から見て患者に対し、子宮筋腫と合併妊娠しているという事、双子の可能性があるという事を説明したと思います。問 患者は検査中に理事長から、これは赤ちゃんだ、これは双子ですよと云われたというがどうか。答 双子ですと、はっきり云ったのではなく、双子のようですと云っているはずです。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二七日付供述調書)、また「超音波検査の結果、この患者は、C子医師の診断通り、一〇週半ば位の妊娠中で、私の超音波検査の結果では双胎(ふたご)の可能性があり、又、子宮が妊娠四か月位にまで大きくなった子宮筋腫があることが判りました。C子医師は、子宮筋腫の方は、ハッキリ診断が下せなかったようですが、私が超音波検査した結果、このようにハッキリ判ったのです。そこで、私は、ひきつづき行われたコンサルの際、この患者に、ふたごの可能性があることと子宮筋腫のあることを説明し、避妊手術をするくらいなら、子宮の全摘手術をした方が良いとすすめているハズです。問 そのような手術をすすめた理由は何か。答 避妊手術もやはり開腹手術ですから、子宮筋腫がある以上、子宮の全摘した方が、てっとり早いと思ったからです。問 この患者に卵巣の手術をすすめていないか。答 超音波検査では、この患者の場合、妊娠のため卵巣が見えませんので、卵巣のことは患者には、何も言っていないと思います。このように超音波検査の結果ハッキリと子宮筋腫を発見し、それを患者に告げて、避妊手術をするくらいなら子宮全摘手術をした方が良いとすすめたのも、私独自の判断によるもので、C子先生などの医師に相談したうえでのことではありませんでした。コンサル用紙の指示欄を見ても、子宮筋腫だとハッキリ書いておらず、私が超音波検査をした結果を基にして、患者に妊娠の状態や子宮筋腫のことを教え、子宮全摘手術をすすめたのです。結局、この患者は、翌五日に入院し、カルテによれば六日に中絶手術をしています。一月四日のコンサルのときに、まず、中絶手術をすることで、私と患者との話し合いで、翌日から入院を決めたのです。」と述べている(検察官に対する同日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・病状等につき、子宮筋腫の疾患があり、双子の可能性があるなどと診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫がある。双子の可能性がある。避妊手術をするくらいなら、子宮の全摘手術をした方がよい。すぐ入院して手術を受けなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(2) 訴因番号2の患者について

ア 患者(別表番号2の患者)は、少量の不正出血があったため、昭和五三年一月六日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、超鵞卵大、圧痛なし。両側附属器は触知困難。頸管分泌物は出血性、粘液性。」というものであり、同医師は、切迫流産のおそれがあると考えて、ME指示及びコンサル指示をした。患者は、同日被告人のコンサルを受けて入院した後、翌七日に被告人からME検査及びコンサルを実施されたが、被告人のME所見は、「胎児稽留流産の疑い。内容は流産の状況です。活動は全く見当たらない。胎のうのようなものがやや薄くありますが、胎児の活動は全くない。胞状奇胎の疑いも濃い。」というものであり、患者は八日被告人に対し手術の承諾書及び同意書を提出し、同月一〇日D子医師から人工妊娠中絶手術を受け、更に、同日C子医師から再掻爬を受けた。

C子医師は、翌一一日、患者を再びME検査及びコンサルに回したが、医事相談指示票には、「①一月一〇日深夜出血し、稽留流産、輸血二本しました。子宮内腔凹凸で筋腫様でした。②ME上所見ありましたら今後の事御相談下さいませ。」と記載した。

被告人は、右C子医師のME指示により、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「卵巣嚢腫、子宮筋腫、右卵巣は鶏卵大に近いのう腫、水胞性、左一般的のう腫、肥大量は右の1/3です。子宮は凸状の筋腫。」などと記載し、また右ME検査後、引き続き、同病院理事長室において、患者とその夫に対し、本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「一応は卵巣、筋腫のことを申しておいたが、あと外来にて様子をみてと申しておきました。今手術と申しても駄目ですから外来通院とす。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同月一四日、通院することを条件に退院したが、同月末ころ、防衛医大附属病院でME検査等の診察を受けたところ、何ら異常はない旨の診断結果であったことから、以後富士見産婦人科病院へは通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「右の卵巣が卵大になっている、子宮筋腫があるし、全摘しないと癌になりやすいし、心臓にもよくない、卵巣と子宮の両方を取った方がよい、このまま入院しなさいなどと告げられ、子宮と卵巣の全摘手術を受けるよう強く勧められたが、退院したいからどうしても出してくれと懇願したところ、結局、被告人から、外来で通ってくれば退院してもよいといわれた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、深夜出血し、流産で輸血二本しました、子宮は筋腫あるようですが、流産后なので外来通院して少し様子をみて下さい、いずれ卵巣の手術などした方がよいと思うが、外来で先生とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と供述し、またその後の公判においては、「ME検査の結果、ME写真コピーの余白に記載したとおりの所見があったので、C子医師に相談したところ、同医師が、MEの結果やはり子宮筋腫それに卵巣嚢腫もあるようだから、本人は退院したがっているが、何とか入院継続を勧めて欲しいと指示したので、その指示にしたがい、患者に対し、子宮筋腫、卵巣嚢腫もあるようだから、入院を継続してよく検査し、その結果によっては手術をした方がよいと話した。患者に全摘しないと癌になりやすいし、心臓にも悪いなどと言っていない。」などと述べ患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一月一一日付相談課説明内容欄には、前記のとおり被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、卵巣、筋腫のことを告げた旨記載されているところ、右患者の病状・病名については、被告人のME所見に記載があるが、担当医師の診断としては子宮については筋腫の疑いがあるというのみであり、また卵巣の疾患については何らの所見もないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、弁護人は、被告人はME検査を実施したところ、ME写真コピーの余白に記載したとおりの所見があったので、コンサル指示にあるとおり、C子医師に今後のことを相談するため、すぐにコンサルしないで、患者を一度病室に返したうえ、ME検査の結果などについて同医師に相談し、同医師からコンサルの再指示を受けて本件コンサルを実施したと主張し、被告人も公判廷において右主張に沿う供述をしているが、被告人自身捜査段階において、C子医師から再指示を受けたことはないと繰り返し明確に述べているのみならず、C子医師も、被告人からME検査の結果の連絡等をうけ、コンサルの再指示をした事実はないと証言しており、右被告人の公判供述は措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「問 この患者は入院して数日後ME検査を行い、そのとき、右側の卵巣が卵大になっている。手術しなければ心臓によくない。癌になりやすいから全摘手術をした方がよいと言われたと言うがどうか。答 私が記載した昭和五三年一月一一日付のコンサル用紙などを見せてもらっていますが、それからも、卵巣のう腫があり、子宮筋腫もありますからしばらく様子を見ましょう、外来で通って下さいと言うことなどを説明していると思います。癌になりますから全摘手術をした方がよいとその日には言ってないと思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月一六日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・病状等につき、子宮筋腫及び卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣嚢腫があり、子宮筋腫もある。入院して手術をした方がよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(3) 訴因番号3の患者について

ア 患者(別表番号3の患者)は、前夜から下腹部に痛みを感じたため、昭和五三年二月一三日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮は後傾後屈、やや大きめ、圧痛あり。腹緊著明にて、大きさはっきりしない事がある。両側附属器は触れない。子宮膣部ほぼ正常。膣内容物異常なし。」というものであり、同医師は、腹痛の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①下腹痛file_3.jpgで来院しました。②腹キン強く子宮後屈あって、大きさはっきりしません。よろしくお願い申し上げます。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮筋腫で後屈。両側卵巣は炎症的で腹水多い。卵巣は悪性的要素あり、腹水多いため子宮の輪郭が明白でないが、筋腫です。」と記載し、また右ME検査終了後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「相談して来る様申し伝えました。入院検査する様特に申しておいた。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、一旦帰宅したところ腹痛が治まったため、以後、同病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「子宮筋腫もあるし、お腹に水がたまっているからすぐ手術をしなければ命が危ない、このまま放っておけば膨れて死ぬ、手術するからすぐ入院しなさいなどと告げられたため、驚愕し、夫と相談した上で再度来院したい旨申し出たところと、相談しなくてよいからすぐ入院しなさいといわれ、入院の上手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮後屈がある、入院検査した方がよいと思うが、御主人とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師のコンサル指示は、入院検査を勧めてほしいことだと理解し、認否書記載のように話しただけである。ME検査の結果、子宮筋腫と卵巣嚢腫を認めたが、その結果をそのまま患者には伝えていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年二月一三日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、右患者のME所見記載の病状・病名のうち、子宮筋腫及び卵巣のう腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票記載の内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この超音波検査結果は、医師の判定をうけないで私だけの判定でコンサルという形で患者さんに説明したのです。この患者さんの所見からみてこの患者に子宮筋腫がある事、子宮が後屈している事、腹水がある事、卵巣も悪い事、このままにしておいてはよくないという事を患者に説明しているはずです。問 患者は理事長から、子宮が悪い、お腹に水が溜まるところがあってそこが悪い、このままにしておけばふくれて死んでしまう、だんだん大きくなって妊娠した様になる、命にかかわる事だからすぐ入院しなさい、調べてから手術をしますからと説明されたというがどうか。答 この患者さんに死んでしまうということは云っていないと思いますが、その他は患者さんの云っているとおりの事を云っています。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二七日付供述調書)、また「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、子宮後屈、両側卵巣嚢腫、腹水が多い、という異常が発見されたことが判ります。」「そこで私は、ひきつづいて行ったコンサルの際、この患者にこれらの病名を告げたうえ、子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめているハズです。問 そのような手術をすすめた理由は何か、答 この患者の子宮筋腫の大きさは、直径六・五センチメートル位、卵巣嚢腫の大きさは両方ともピンポン玉位であることが、今この写真を見ただけでも判りますので、当時この患者が四三歳であったということを考慮すれば、このような手術をするのは当然だと思います。このように超音波検査の結果判明した病名や病状を患者に告げたうえ、入院・手術をすすめたのも私独自の判断によるもので、C子先生などの医師に相談したうえでのことではありませんでした。コンサル用紙の指示を見ても、病名や治療方針などは何も書いてありませんから、私が超音波検査した結果だけを基にして、私が独自に判断して患者に今申したような病名や病状を教え、入院・手術をすすめたものです。」と述べている(検察官に対する同日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・病状等につき、子宮筋腫及び卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫がある。腹に水がたまるところがあってもそこが悪い。このままにしておけばだんだん大きくなって妊娠したようになる。命にかかわることだからすぐ入院して手術を受けなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(4) 訴因番号4の患者について

ア 患者(別表番号4の患者)は、不妊の原因を診察してもらうため、昭和五三年三月六日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮は前傾前屈、ほぼ正常の大きさ、圧痛なし。両側附属器は触知し得ない。頸管分泌物は白色性、少量。子宮膣部ややビラン状。」というものであり、同医師は、不妊原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①結婚后(五~六年)妊娠しないとの事で来院。一年半前に川越の集医で諸ケンサしたらしいのですが要領得ません。(二世との事、ブラジル)、②不妊精査及び治療の目的で入院すすめて下さいませ。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮は筋腫状で丸く、右卵巣は鶏卵大に近い嚢腫。左は右よりやや小型ですが血溜腫。」と記載し、また右検査終了直後、同室において、患者に対しコンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「主人と近日来院する様申しておきました。卵巣手術について。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同年四月四日同病院に入院し、同月七日C子医師から右卵巣嚢腫及び子宮後壁の筋腫部分の摘出手術を受けた。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「その場で黒板に女性内性器の絵を画いて図解しながら、子宮筋腫と子宮後屈が見える。卵巣嚢腫で右の方がはれて見える、卵巣は大きくはれて膿んでいる、子宮も大きい、精子がきても妊娠しない、だから夫婦生活をしても妊娠しない、手術しないと子供はできないですよ、すぐ手術した方がいいなどと告げられた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、不妊精査と治療のため入院して下さい、積極的な方法として、卵巣手術ということも考えてみて下さい。ご主人ともよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「一般的には不妊の原因は、女性の場合卵管卵巣にあることが多いので、検査次第であるいは手術ということも考えてみて下さい、ご主人と一緒に近いうちに来るように話した。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年三月六日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、右患者のME所見記載の病状・病名のうち子宮筋腫及び卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんに対しては、ME検査の結果から、左右の卵巣が悪いから子宮筋腫もあり卵巣の手術をした方がよいということなどを告げていると思います。そして検査の為入院した方がよいと言う事などもつけ加えていると思います。」「問 この甲谷四子さんは、理事長から黒板に絵を書いて、卵巣嚢腫で卵巣が大きく腫れている、子宮筋腫もある、右は炎症している、すぐ手術しなければだめだから入院しなくてはだめだなどと言われたと言っているが、この点についてはどうですか。答 だいたいそのとおりのことを言っております。この女はブラジルの女だったので記憶しています。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月六日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・病状等につき、子宮筋腫及び卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少くとも、「卵巣嚢腫で、卵巣が大きく腫れている。右の方は炎症を起こしている。子宮筋腫もある。すぐ入院して手術しなければだめだ。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(5) 訴因番号5の患者について

ア 患者(別表番号5の患者)は、性器から不正出血が続いたため、昭和五三年三月一三日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮は前傾前屈、約鵞卵大、まるくて硬い。子宮膣部小さめでビランなし。子宮頸管内より暗赤色なる出血あり。」というものであり、同医師は、右所見から子宮筋腫の疑いを持ち、これを明らかにするため、医事相談指示票に、「①S四六年、S五二、と二回帝切分娩(他医)しております。九日から不正子宮出血訴え来院。腹痛止。②子宮はまるくて大きめでかたく圧痛file_4.jpgです。③精査必要と思われますので入院すすめて下さいませ。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同月一四日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫及び両側卵巣嚢腫、右卵巣は鶏卵大に近い肥大で、左は右より半型小さく皮胞硬い上炎症している。膀胱から子宮下部に伴って癒着多い。」などと記載し、また右ME検査終了後、同室において、患者と同人の夫に対し、本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「できる限り早く入院と告げておいた。3/午前一〇時入院、全摘目的四週間内とす。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、直ちに同病院への入院手続きをとり、同月一六日に入院の上、同月三一日には、北野医師から卵巣及び膣上部切断摘出手術を受けた。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「黒板に図解しながら、子宮筋腫があって、卵巣も嚢腫で帝王切開の癒着もかなりひどくなっている、このまま放っておくと下半身が不随になってしまうから、すぐ手術をする必要がありますなどと告げられ、入院した上、子宮及び卵巣の全摘手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、不正出血のため、又、子宮が大きくかたいから入院精査の上、場合によって全摘した方がよいと思うが、入院した上で手術については担当医とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「患者にC子医師から指示されたことを話して、できる限り早く入院、検査し、もし全摘ということになれば、入院四週間以内であるから、入院した上で手術については担当医とよく相談して下さいと告げた。子宮筋腫、卵巣嚢腫などとのME検査結果は、患者に告げていない。」などと述べて患者に対する告知内容を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年三月一四日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、右患者のME所見記載の病状・病名のうち子宮筋腫及び両側卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも右疾患が認められるとまでの記載がないので、被告人がME検査により独自に診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんには、所見からみて、子宮筋腫のある事、左右の卵巣嚢腫のある事、癒着が多い事を説明したはずです。又症状からみて卵巣と子宮を摘出した方がいい事も説明しているはずです。問 患者は理事長から、子宮筋腫である、左右の卵巣も嚢腫で、癒着もひどくメチャメチャだ、手術して全部取った方がいいと説明されたというがどうか。答 その様な事を患者に説明しているはずです。症状からみてもそのとおりです。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二八日付供述調書)、また、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、両側卵巣のう種、卵管肥大溜水、前回手術の癒着という異常が発見されたことがわかります。そこで、私はひきつづいて行われたコンサルの際、この患者にこれらの病名や症状を告げたうえ、子宮と両方の卵巣嚢腫の全摘手術をすすめているハズです。このように超音波検査の結果判明した病名や病状を患者に告げたり、入院、手術をすすめたのも、私独自の判断によるもので、医師などと相談したうえでのことではありませんでした。コンサルの際、この患者に入院をすすめ、二日後の一六日午前一〇時に、全摘を目的として、入院することを承諾してもらい、その期間も四週間内にするということで、このときは、この侭帰ってもらったと思います。このコンサル用紙の説明内容を見ればわかります。」と述べている(検察官に対する同日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・病状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫があるし、左右の卵巣も嚢腫で悪い。癒着もひどい。手術をして全部取った方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(6) 訴因番号6の患者について

ア 患者(別表番号6の患者)は、妊娠の疑いがあったため、昭和五三年三月一五日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者として北野医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮後傾後屈、大きさ手拳大、硬さ柔らかい。両側附属器触れない。分泌物出血性。ビラン高度にあり、子宮口開大。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「妊娠三か月、切迫流産、出血、要入院、胎児が無事かどうかもたしかめる必要があります。ME、もしだめなら患者の都合により分院でアウスも可の症例です。」と記載して患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右北野医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫及両側卵巣嚢腫あり、左卵巣は炎症性血溜腫、右は一般的file_5.jpg胞硬い嚢腫、胎児は成長不可。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果は担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「良く現状の事説明し、中絶するなら(一般的中絶)分院、入院中絶の場は当本院、入院一月中絶の方法を説明す。入院中絶をしてほしいとの事にて明日午前一〇時入院、四日間にてと申し込みあり、その様とす。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、被告人の指示に従い、翌一六日、同病院に入院し、同月一七日、人工妊娠中絶手術を受けたが、その後国立西埼玉病院で診察を受けたところ、子宮及び卵巣に異常はないとの診断結果であったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「赤ちゃんはもう駄目です、すぐ処置しないと大変なことになる、早くしないと救急車で運ばれるような大変なことになるので、今すぐにでも処置しなさい、二、三日で大出血をおこす、卵巣嚢腫と子宮筋腫があり、それは処置したあとの具合でもう一度検査してみましょうなどと告げられ、早く入院して手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、出血もしているし、胎児が無事かどうか確かめなくてはいけないので、すぐ入院して下さい、もし外来で一般中絶するなら、分院でもできるという医師の意見です、入院すれば中絶后子宮や卵巣についての検査をして、それについては担当医と御相談下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME写真コピーの記載は、医師に対する私の報告であり、ME検査の結果をそのまま患者に告げたのではない。患者には、よく切迫流産の現状のことを話し、入院中絶するなら本院で、入院しないで中絶するなら分院でもできる、それについてはよく担当医と相談して下さいと説明しただけである。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年三月一五日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したのものであり、右患者のME所見記載の病状・病名のうち卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんの所見からみて、子宮筋腫があって、両側の卵巣が悪い、子供の成長は止まっているからほっておけば出血を起す、入院して子宮内容除去術をした方がいいという事を説明しているはずです。問 患者は理事長から、お腹の赤ちゃんはだめだ、九割方放っておけば二~三日で大出血を起こす、今日か明日のうち入院した方がよい、卵巣が腐っている、筋腫もあると説明を受けたというが。答 ずばり腐っているとは云っていないと思います。説明の中でわかりやすく云う為にその様な事を言ったのじゃないかと思います。その他の事は患者の云っている様な事を説明していると思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月八日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・病状等につき子宮筋腫及び卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「おなかの赤ちゃんはだめだ。放っておけば二、三日で大出血を起こす。今日か明日のうちに入院した方がよい。子宮筋腫や卵巣嚢腫がある。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(7) 訴因番号7の患者について

ア 患者(別表番号7の患者)は、不正出血があったため、昭和五三年三月一七日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてD子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮後傾後屈、鵞卵大、硬さ正常、大きなビランあり。分泌物粘液性。」というものであり、同医師は、子宮や卵巣の状態を明らかにするため、医事相談指示票に、「①二月より生理不規則となり、三週間、二週間と間隔が接近したそうです。卵巣の状態は如何でしょうか。②ビランよりパンチ採取、ガーゼ一枚挿入してあります。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右D子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、非常に内容の悪い筋腫、肥大量は少ないが、左に後屈し、左右卵巣も筋腫、左卵巣と推考される肥大物腹部やや左中央に在り、これが悪性映像を行う、重要検査、子宮も同様。」などと記載し、また、右ME検査終了直後、同室において、患者に対し、本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「明日分院と申してたが、分院に行かず明日入院(A・M10:00)する様申しておきました。重要検査必要です。御配慮下さい。入院して来たら可」と記載しこれを医師に回付した。なお、患者は、翌日、念のため三楽病院で診察を受けたところ、癌の疑いはほとんどないが、子宮筋腫があるとの診断結果であったため、同月二〇日、同病院で子宮と卵巣の摘出手術を受けたと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「黒板に図解しながら、大変だよ、大手術だよと告げられ、癌ですかと尋ねると、うなずき、さらに、筋腫と卵巣嚢腫は完全にあるね、この他に卵巣に水が溜まっている、自覚症状が出てからでは手遅れ、精密検査の上手術した方がいい、ともかく大手術だから、明日御主人と一緒にきてすぐ入院するようになどと告げられて、入院の上手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、不正出血の原因を確かめるため、入院検査した方がいいでしょうと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「D子医師の指示にしたがって、不正出血の理由を検査するために入院するように説明しただけで、それ以上のことは話していない。卵巣癌があるなどと、D子医師の指示にもなく、ME検査の結果にも現れていないことを患者に言う訳がないし、大手術が必要だとか、筋腫があるなどとは言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年三月一七日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、右患者のME所見記載の病状・病名のうち卵巣癌の疑い、子宮筋腫及び卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、右卵巣嚢腫、左卵巣がんの疑い、という病気や異常が発見されたことがわかります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、この患者に病気などの名前や症状を説明したうえ子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめているハズです。ただ検査の結果、がんであることが判明すれば、私の病院では手術をせずに大塚の癌研にこの患者を送る心算でした。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病名や症状を患者に説明したり、入院・手術をすすめたのも私独自の判断によるもので医師などと相談したうえでのことではありませんでした。コンサルの際、この患者は入院することを承諾しその侭入院手続きを済ませて帰ったハズですが、翌日三楽病院へ入院することにしたという連絡がきました。」と述べている(検察官に対する昭和五五年九月三〇日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・症状等につき、卵巣癌の疑いがあり、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察。診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫も卵巣嚢腫もある。すぐ入院するように、精密検査のうえ手術した方がよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(8) 訴因番号8の患者について

ア 患者(別表番号8の患者)は、月経が止まったことから、もし妊娠していれば人工妊娠中絶手術を受けようと考え、昭和五三年二月一四日富士見産婦人科病院を訪れ、D子医師の診察を受けたが、同医師の内診所見は、「妊娠六週六日目、子宮は前傾前屈、超鶏卵大、硬さ柔らかい、子宮膣部リビド色プラス」というものであり、患者は、同月二二日に入院し、翌二三日にC子医師から人工妊娠中絶手術を受けて、同月二七日退院し、以後性器出血等の治療を受けるため外来通院していた。そして同年三月六日からはC子医師の診察・治療を受けていたが、同医師は、同日、患者をME検査とコンサルに回したところ、被告人のME所見は、「子宮は筋腫がある、右卵巣に外妊の状況あり。」などというものであり、医事相談指示票の相談課説明内容欄にも、子宮外妊娠の可能性に注意すべき旨の記載がなされた。その後の同月一三日における同医師の内診所見は、「性器出血なし、腹痛なし、子宮は、後傾後屈、ほぼ正常の大きさ、圧痛なし、面側附属器は触知し得ず。全く異常なし。頸管分泌物は出血性ではない。」というものであり、同医師の同月一七日での診察でも性器出血は認められず、同月二四日までの診察においても性器出血及び腹痛はなく、この時の同医師の内診所見では患者の性器出血等の症状は治癒したものと認められた。

しかるに、C子医師は、自己の内診では子宮外妊娠の徴候は全く見当たらなかったものの、前記のとおり被告人のME所見にはその状況が認められたことから、子宮外妊娠の有無を被告人のME検査によって再度確認しようと考え、同月二四日の内診後、医事相談指示票に、「①前回ME(3月/6日)で外妊の疑いとの事でその后外来で経過をみて来ました。出血も腹痛もなく、内診所見も特別変化ないようです。基礎体温下降しています。②本日再MEお願いします。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同月二四日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮は左程に肥してないが、筋腫で強く、右卵巣は鶏卵大はある水性腫、そのよう鳩卵大の血溜状の肥大物、左は一般やや大きく丸く肥大している。」などと記載し、また右ME検査終了後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「卵巣嚢腫のこと説明す。出来れば、卵巣手術する事が可と申しておきましたが、良く理解できない状況ですから相手も来院する事が望ましいと申し当分外来通院とす。来週(金)と定めておきました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、二週間位後に、藤枝病院で診察を受けたところ、貧血性のほかには何の異常もないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院へは通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「右側の卵巣が卵ぐらいの大きさになって破裂して、あと二度と子供が産めなくなるから、このままだと手術するようになる、来週の金曜日に来なさいなどと告げられた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「卵巣がはれているようなので、手術も考えられるが、中絶のあとだから、当分外来通院して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「患者には、卵巣が腫れているようなので手術も考えられますが、同年二月二三日に中絶をした後だから来週金曜日から当分外来通院して下さいと告げただけであり、右側の卵巣が卵ぐらいの大きさになって破裂して、あと二度と子供が産めなくなるから、このままだと手術するようになるなどとは言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年三月二四日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、卵巣嚢腫のことを説明し、出来れば卵巣手術をしたほうがよいと告げた旨記載されているところ、右患者の病状・病名については、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また、内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「超音波検査の結果、この患者には、子宮外妊娠の疑いはなくなった代わりに、両側卵巣のう腫という病気が発見されたことがわかります。」「そこで、私は、ひきつづいて行なわれたコンサルの際、患者に、この病気や症状を告げたうえ、右卵巣のう腫の部分切除手術をすすめたハズです。又、このコンサルでは、外来通院ということにして、その侭帰ってもらったと思います。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病気や症状を患者に説明したり、入院・手術をすすめたのも、私独自の判断によるもので、医師などと相談したうえでのことではありませんでした。」と述べている(検察官に対する昭和五五年九月二八日付供述調書)こと等をも合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣のう腫の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「右卵巣が卵ぐらいの大きさになっている。出来れば卵巣手術をしたほうがよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(9) 訴因番号9の患者について

ア 患者(別表番号9の患者)は、不正出血と腹痛があったため、昭和五三年三月二八日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてB医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮筋腫、子宮膣部ビラン、子宮後傾後屈、大きさ手拳大、両側附属器触知困難、リビド色(-)、ビランfile_6.jpg、分泌物薄赤色、出血性。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「(1)子宮筋腫及子宮膣部ビラン症(外来スメアー済)、(2)ME御依頼、(3)上記の上、入院手術の御相談御願いいたします。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右B医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮筋腫で両側卵巣嚢腫、左卵巣付近は二段の肥大で、外妊の状態に肥大している。右卵巣ものう腫、鶏卵大の(子宮は肥大し後屈状況)炎症性肥大。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し、本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「上記のとおりMEの結果併せて説明す。入院手術と申しておきましたが仕事多忙のことを申し(庁……?)と申してる。早い方が可の説明す。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、翌日、防衛医大で診察を受けたところ、子宮等に異状は全く認められないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「卵巣が両方腫れていて子宮が筋腫だから、すぐに切らないと命にかかわる、とにかく命にかかわるから早く手術をするように、命が惜しかったらすぐ入院しなさいなどと告げられ、入院の上早く手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫と子宮膣部びらん症もある、入院検査の上、手術した方がよいと思うが、よく考えてみて下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査で子宮筋腫だけではなく卵巣嚢腫もあることが判明したため、秘書を通じてB医師にその旨報告すると、同医師が卵巣の悪いことも患者に告げて欲しいと指示したので、患者に卵巣の悪いことを伝え、入院して手術した方がよいと話した。患者に対しすぐに手術をしなければいけないとか命にかかわるなどとは言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年三月二八日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、ME検査の結果を告げ、入院手術をすすめた旨の記載があるので、被告人が捜査段階において供述しているように、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、右患者のME所見記載の病状・病名のうち卵巣のう腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

なお、被告人は前記のとおり公判廷においてB医師よりコンサルの再指示を受けたと述べ、B医師も被告人が撮影したME写真コピーを見て、被告人に電話で卵巣のう腫の疾患についても患者に告げてコンサルするように指示した旨供述しているが、被告人自身、捜査段階において、本件患者を含む一〇名の患者につき、医事相談指示票にかかれていない病名や症状をME検査で発見したときは、医師に相談することなく、被告人の判断でこれを患者に説明してコンサルをしたと供述し(検察官に対する昭和五五年一〇月三一日付供述調書)、担当医師からの指示に基づかないで患者にコンサルを実施したことを認めているものである。またB医師も多数の患者のうち、本件患者について再指示をしたことを記憶していた理由について必ずしも明確に述べているものではないのみならず、前叙のとおり、C子、H、D子各医師は、いずれも、本件のようにME検査とコンサルを同時に指示した患者について被告人に対しコンサルの再指示ないし追加指示をした事実はないと明確に述べ、またC子医師は、富士見産婦人科病院では、被告人がME検査の結果新たに判明した患者の病名・病状についても担当医師に相談することなく被告人の判断により患者に告げて入院外交することを当然のこととして容認していた旨一貫して述べているものであり、しかもこれらの供述は関係証拠とも符合し十分信用できるものと認められる。以上のとおりで、前記被告人及びB医師の公判供述は措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・症状等につき子宮筋腫、卵巣のう腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣が両方腫れており、子宮も筋腫である。早急に手術をするため、すぐ入院したほうがよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(10) 訴因番号10の患者について

ア 患者(別表番号10の患者)は、他の病院で胎児死亡の疑いがある旨診断されたことから、その正否を確認してもらうため、昭和五三年一月二三日富士見産婦人科病院を訪れ、C子医師の診察を受けたが、同医師の診察の結果、胎児の心音が明確でなかったため、同医師も胎児死亡の疑いを抱き、同日患者を同病院に入院させた。

その後同月二七日、北野医師が患者に対し死産の手術を行い、またC子医師が同年二月二日掻爬(子宮内清掃)手術、同月一六日再度掻爬手術をそれぞれ行い、同月二七日患者を退院させたが、このときのC子医師の内診所見は、「子宮は、前傾やや左に傾く、小鵞卵大で硬い、圧痛なし、附属器は触れない。頸管分泌物は、異状なし。」というものであった。

患者は、同年三月六日より便秘の治療等を求めて通院していたが、同月二九日におけるC子医師の内診所見は、「子宮は、前傾前屈でやや大きめで硬い、圧痛はややある。両側附属器は触れない、子宮膣部は、大体異常なし。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「①一月二七日胎児死亡で死産し、その後長期子宮収縮状態が悪くて入院していました。②二月二七日退院し、外来で様子をみて来た人です。最近やっと正常状態にもどった様ですがME上如何でしょうか。③日常生活やその他の事色々お話し聞いて下さいませ。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同月二九日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、凸状の多い筋腫で両側卵巣嚢腫、図表の様な肥大量。子宮は特大ではないが筋腫で硬く段々のある状態となっている。左卵巣は鶏卵小型大で炎症多い。右も同型ですがやや小型、但し右卵管の炎症強度で通過性を危ぶる様な状況に炎症強い。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し、本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「卵巣は非常に良くない。先生も心配してたが前回退院する時もこれは解っていたが余りショックを与えたくないため先生も余りその事にふれてなかったが、これは精神が安定して来たら申し添える事にしてた様だ、漸く安定した時ですから主人とも相談して早い時期に卵巣手術としてはどうかと申しておきました。本人も相談し三〇才だから早く一人でも欲しいと思ってます。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同年四月三日、同病院に再入院し、同月一四日に左右卵巣の一部摘出と盲腸の手術を受けた。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「ME写真を示し、図解しながら、子宮筋腫と卵巣嚢腫で、特に左の卵巣が悪い、普通の人より子宮が大きい、手術した方がよいなどと告げられ、入院の上手術を受けるよう勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、胎児死亡死産后、長期子宮収縮が悪く、担当の先生も慎重に経過観察していたようですが、状態もよくなかったようだし、今後のことについて担当医ともう一度よく相談して下さい、子供がほしいなら、卵巣手術という方法もあるので、よくご主人とも相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判において、「C子医師から、患者は、一月二七日胎児死亡で死産し、その後長期間子宮収縮状態が悪く、入院のまま経過を観察していた、二月二七日退院し、外来で様子を見てきたところ、最近やっと正常状態に戻ったようだが、子宮収縮状態が悪いのは、二月二三日のMEを見ると卵巣嚢腫があり、子供が欲しいなら卵巣手術という方法もある、とコンサル指示を受けた。そこで患者には、胎児死亡後、長期間子宮収縮状態が悪く、担当医のC子先生も慎重に経過を観察していたようですが、卵巣は非常によくない、C子先生が大変心配しており、子供が欲しいなら早い時期に卵巣手術という方法もあるので、ご主人とよく相談して下さいと話しただけである。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年三月二九日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、卵巣が非常によくないこと、早い時期に卵巣手術をしてはどうか等を告げた旨記載されているところ、右患者の病状については、被告人の前記ME所見に記載があるが、担当医師作成の前記医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお被告人は前記のとおり、C子医師は患者の卵巣嚢腫の疾患について、二月二三日のME所見により知っていたのであり、本件コンサルに際し右の点についても医師からコンサル指示を受けたと供述するが、C子医師の前記医事相談指示票による本件コンサル指示には被告人が供述するような指示がないのみならず、C子医師自身右のようなコンサルの指示をしたことはないと明確に供述しているものであって、右被告人の公判供述は措信できない。

そこで被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、本件患者を含む一〇名の患者につき、「コンサル指示に書かれている以上のことを超音波検査で発見したときは、そのことをコンサルで患者に説明してやりました。ですからME所見を見てもらえば、大体その通りのことを患者に言っているハズです。今まで話した通り、超音波検査やコンサルした際、前にも後にもカルテはいっさい見ていませんし、医師と相談したりした訳では在りません。超音波検査の結果を私独自で診断し、コンサルで患者に説明してやったのです。私がこのようなことをしたのは、今までお話しした通り、医師たちから超音波検査であらたに発見した病気や症状は一々医師に断りなしにコンサルで患者に話していいと言われていたからです。」などと述べている(検察官に対する昭和五五年一〇月二九日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・病状等につき子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫と卵巣嚢腫があり、卵巣は非常によくない。早い時期に卵巣手術をした方がよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(11) 訴因番号11の患者について

ア 患者(別表番号11の患者)は、不正出血があったため、昭和五三年四月一日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてB医師の診察を受け、その内診所見は、「子宮前傾右屈、大きさやや大きい、硬さほぼ正常、両側附属器触知困難、リビド色(±)、ビラン(+)、分泌物出血性やや増量、ゴナビス検査(-)。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「(1)月経遅延後の出血、(2)一応ゴナビス(-)ですが……。(3)ME御依頼、file_7.jpg上記で御相談お願いいたします。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右B医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「稽留流産の疑い及び両側卵巣嚢腫、妊初の状況もあり、但し妊は流産で、更に右卵巣鶏卵大ののう腫で、左は鳩卵大型の血溜腫で肥大している。外妊の様にも描き出され、重要検査必要。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「稽留流産の状況あり、早急入院し検査し、卵巣のう腫あり、手術必要の条件ある事を説明し、本日午後二時までに入院とす。※四月一日午後二時入院しました。『妊の場合はAUS』でない場合は卵巣手術とす。又AUS後も卵巣は手術する。」等と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同日同病院に入院し、同月一三日卵巣の手術を受けた。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「卵巣嚢腫で右の卵巣が正常の七倍位腫れている、それに子宮外妊娠の疑いがある、とにかくすぐ入院して手術をするようになどと告げられ、さらに夫を連れて再度来院した際にも、黒板に図解しながら同趣旨の説明を受け、もしかしたら今日中に手術をした方がいいかも知れない、手術をするには検査が必要だ、検査をしてみないと判らないと告げられ、早く入院して手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、稽留流産という担当医の診断で、明日子宮内容清掃します、そのあとで卵巣の手術については先生とよく相談して下さい、明日御主人と来て下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査をしてその余白に所見を記入し、B医師に戻すと、同医師から、稽留流産、卵巣嚢腫で手術が必要と思われるから、至急入院して検査をして欲しいという連絡があった。そこで、この指示にしたがい、患者に対し、稽留流産、卵巣嚢腫というのが担当医の診断であり、早急に入院し検査するように、卵巣嚢腫があり手術の必要があると話した。患者に右の卵巣が正常の七倍位に腫れているとか、子宮外妊娠の疑いがあるなどとは言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年四月一日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、かなり詳細な記載があるものの、その記載内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、右患者のME所見記載の病状・病名のうち稽留流産及び子宮外妊娠の疑いや卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、稽留流産の疑いや卵巣嚢腫があることを患者に告げたのは、ME写真コピーを見たB医師からその旨の追加指示があったからであると述べ、B医師も公判廷において、内診により稽留流産の疑いを持ち、また被告人から回されたME写真コピーによって卵巣嚢腫の所見を得たので、被告人にこの点についても追加して説明するよう指示したと供述しているが、被告人自身、捜査段階において、医師からはコンサルの再指示や追加指示を受けずに自らの判断でME検査結果を患者に告げていたことを明確に認めており、またC子、D子、H各医師もこれに沿う供述をしているものである。加えて、本件医事相談指示票の記載文言は、稽留流産、卵巣嚢腫についてのB医師からの追加指示をそのまま患者に伝えたというより、被告人が、同医師が診断していない患者の病名・病状等について同医師に報告したものと見るのが自然であって、以上の諸点を考えると、前記被告人及びB医師の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、本件患者を含む一〇名の患者につき、「コンサル用紙に書かれていない病名や病状を超音波検査で発見したときは、私独自の判断でそれを診断したうえ、コンサルで患者に説明してやりました。」と述べている(検察官に対する昭和五五年一〇月三一日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・病状等につき、稽留流産、子宮外妊娠の疑い、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣嚢腫と稽留流産及び子宮外妊娠の疑いがある。右の方の卵巣が腫れ上がっている。早急に入院し検査する必要がある。卵巣嚢腫で手術の必要がある。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(12) 訴因番号12の患者について

ア 患者(別表番号12の患者)は、昭和五一年八月に帝王切開手術を受け、その後避妊をしていたが、妊娠を希望してその可否の診察を求めて、昭和五三年四月五日富士見産婦人科病院を訪れ、C子医師の診察を受けたが、同医師の内診所見は、「子宮は、前傾前屈、やや大きめで硬い。両側附属器は触れない。子宮膣部及び膣内容物は異状なし。」というものであり、同医師は、右内診所見により特にはっきりとした病名・病状は診断できなかったものの、患者が月経不順であるということから、子宮、卵巣の状態をME検査で調べることとし、医事相談指示票に、「①S五一・八、帝切(お茶の水、三楽病院)后ベビー一〇日目で死亡。(解剖で副じん出血?)、②メンス不順です。次回は良いベビーをとの事で精査に来院しました。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、癒着がおおく両側卵巣嚢腫、右鶏卵半型大の丸い肥大、左はやや小型右より炎症多い。子宮は上部筋腫様凸状、子宮本体は大きくない。」などと記載し、また右ME検査直後、同室において、患者に対し、本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「本人は小供が上記の様に欲しいと願っている。卵巣手術及癒着修整などするか否か相談する様に申しておきました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同月一〇日同病院に入院し、同年四月二〇日C子医師から両方の卵巣の一部切除の手術を受けた。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「両方の卵巣が悪く腫れているが、特に一つすごく腫れている、前に帝王切開した手術のあとの子宮も悪くメチャクチャになっている、このままでは妊娠しても、すぐ流産してしまう、早く入院して手術をすれば、子供が産まれる可能性があるなどと告げられ、早く入院して手術を受けるよう勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、前回の子供が死亡しているので、よい子供を作るためには、卵巣の手術という方法もあります、よく相談していらっしゃい、但し、手術については、入院検査してから、担当医とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果、子宮筋腫と卵巣嚢腫の所見を得たが、これをそのまま患者に告げたのではなく、良い子供を作るために検査結果如何によっては卵巣の手術をする必要があり、また、この患者の場合、過去に帝王切開分娩をしており、癒着が生じている可能性もあるので、癒着修正をする必要があるかもしれないと話し、手術の必要性は入院検査してから担当医と相談して決めるようにと話したにすぎない。患者に子宮が前の手術でメチャクチャになって、これでは子供ができても流産してしまうなどとは言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年四月五日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、右患者のME所見記載の病状・病名のうち子宮筋腫については担当医師の内診所見にこれを疑わせるような記載があるものの明確な病状の記載はないし、卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票及びME指示票の各指示にも、また内診所見にも全く記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんについては所見からみて前回の手術の癒着がある事、左右の卵巣嚢腫がある事、子宮筋腫のある事を説明したはずです。又、この症状からみてすぐ入院して手術する必要があるという事も説明しているはずです。問 患者は理事長から、卵巣が両方悪い、子宮が前の手術でメチャメチャになっている、これでは子供が出来ない、すぐ入院して手術しなさいと説明されたというがどうか。答 この様に患者に説明しているはずです。症状からみてもそのとおりです。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二八日付供述調書)、また「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、両側卵巣嚢腫、前回の手術の癒着、という病気あるいは異状が発見されたことがわかります。」「そこで、私は、これらの病気などの症状を、ひきつづいて行われたコンサルの際、患者に説明したうえ両方の卵巣の部分切除手術をすすめているハズです。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病気や症状を患者に説明したり、入院・手術をすすめたのも、私独自の判断によるもので、医師などと相談したうえでのことではありませんでした。コンサルの際、この患者は入院することを承諾し、その侭入院手続きを済ませて帰ったと思います。」と述べている(検察官に対する同日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・病状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「両方の卵巣が悪く腫れている。特に一つはすごく腫れている。前に帝王切開した手術のあとの子宮もメチャメチャになっている。これでは子供が出来ない。すぐ入院して手術を受けなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(13) 訴因番号13の患者について

ア 患者(別表番号13の患者)は、妊娠しているか否かを確かめるため、昭和五三年三月二七日富士見産婦人科病院を訪れ、C子医師の診察を受けたが、同医師の内診所見は、「子宮は、前傾前屈、やや大きく、柔らかい。両側附属器は触知し得ない。子宮膣部はリビド色プラス、ビランプラス・マイナス。膣内容物は白色性、少量。」というもので、妊娠三か月との診断結果であった。その後患者は、腹痛を感じたため、同年四月七日、同病院で再度C子医師の診察を受けたが、この時の内診所見は、「子宮は、前傾前屈で、手拳大より小さめ、圧痛あり、頸管分泌液は異状なし。子宮膣部はリビド色プラス、子宮口は閉じている。性器出血はない。」というものであり、同医師は、出血がなく、前置胎盤の症状については、これを何ら疑う状況がなかったものの、一応切迫流産防止の観点から、医事相談指示票に、「①妊三か月(中)。二~三日前から下腹痛あります。出血(-)。②切流防止で、安静入院すすめて下さいませ。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「前置胎盤、胎児正常。完全な前置胎盤です。但し胎児の成長良好。胎心も可。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し、本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「前置胎盤に依早急入院とす。本日午後二時入院とす。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、夫と連絡を取った上、直ちに同日同病院に入院し、同月二六日子宮縫縮手術を受けた。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「紙に図解しながら、前置胎盤です、このまま放っておくと、子供がだめになってしまう、すぐ入院して手術しなければならないなどと告げられ、早く入院して手術を受けるよう勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、切迫流産ですので安静のため入院治療が必要です、現状では胎盤は前置の状態です、入院安静とし、時期をみて縫縮手術をしておいた方が安全でしょう、入院後、手術については担当医とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「コンサル指示と同時にME検査の指示も来ていたので、私はまずME検査をしてそのME写真の余白に所見を記入し、C子医師に戻したところ、C子医師から前置胎盤だから至急入院させて欲しいとの連絡があった。それで私は早速そのとおり患者にコンサルしたものである。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年四月七日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、前置胎盤の手術を早急にする必要があるから入院するようにと告げた旨記載されているところ、右患者の病状・病名については、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、コンサル指示と同時にME検査の指示があり、まずME検査をしてME写真コピーの余白に所見を記入し、これをC子医師に戻したところ、同医師より前置胎盤であるから至急入院させてほしいとの連絡があったので、そのとおり患者にコンサルしたと供述しているが、前叙のとおり、C子医師は被告人からME検査結果の連絡を受けてコンサルの再指示をしたことはないと明確に供述し、被告人も捜査段階において、本件患者につきME検査の結果を担当医師に連絡せずに患者に告げたと一貫して述べているものであって、右被告人の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、この患者に対しては、「所見からみて、完全な前置胎盤で、胎児の成長が良、胎心も良と言うことが判定出来た訳で、この事を患者に対し説明したはずであります。問 患者さんは理事長から前置胎盤です、このまま放っておくと流産のおそれがある、すぐに入院し手術の必要があります、手術は子宮を縛っちゃうと言う様な説明をされたと言っていますが、この点についてどうですか。答 この様に患者に説明したはずです、ME検査の結果からもそのとおり判ったからであります。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月五日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・病状等につき、前置胎盤の疾患がある等と診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「前置胎盤である。このまま放っておくと流産のおそれがある。すぐに入院して手術する必要がある。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(14) 訴因番号14の患者について

ア 患者(別表番号14の患者)は、避妊リングを入れてもらうため、昭和五三年四月七日富士見産婦人科病院を訪れ、C子医師の診察を受けたが、同医師の内診所見は、「子宮は、肥満体のため大きさがはっきりしない。両側附属器は触れない。子宮膣部はビラン軽度あり、膣内容物異状なし。」というものであり、同医師は、リングを装着するに際し、子宮の形状や子宮筋腫の有無、状態を確かめる必要があると考え、医事相談指示票に、「①リング希望して来院しました。②肥満の為子宮の大きさ不明ですが、リングはどうしましょうか。子供は三人おり、今迄コンドーム使っていたそうです。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮筋腫及(左卵巣嚢腫)。左側は悪性的要素あり、切除したのは右の様ですが、左はとにかく内容悪く、検査必要。癒着は多く重要査」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「入院全摘ですが、内容重要と申し伝え入院早急が可と申しておきました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後夫と相談して国立西埼玉病院ほか一か所で診察を受けたところ、手術を必要とする異状はない旨診断されたため、富士見産婦人科病院には入院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「前に受けた手術のあとが癒着していて、糸も沢山残っている、それに子宮筋腫で赤ちゃんの頭くらいになっている、悪性の腫瘍もあるから、内臓の三分の一くらい切り取ってしまわないと、三か月と持たない、切らないとブクブク太ってくる、来週の月曜日に入院しなさい、費用を持って御主人と一緒に来て欲しいなどと告げられ、入院して手術を受けるよう勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、あなたの場合は、リングを入れるより、手術をしてしまった方がよいかも知れないので、担当の先生とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査をして、その余白に所見を記入し、C子医師の方に戻したところ、すぐにC子医師から、子宮筋腫、卵巣嚢腫があり、簡単なことではなさそうだから、早急に入院させて欲しい、なるべく早く検査をしてその結果次第では全摘ということになるかも知れないので、よく話して欲しいという連絡があったので、この指示に基づいてコンサルをした。その内容はリング云々の話ではなく、子宮・卵巣に悪いところがあるようだから、なるべく早く入院するように、早く入院してよく検査してみましょう、事情によっては全摘という場合もありうるが、それは担当医とよく相談して決めるとして、まず入院して精しく検査をしてみましょうと話しただけである。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年四月七日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、右患者のME所見記載の病状・病名のうち子宮筋腫、左卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、患者について、ME検査後、C子医師からコンサルの再指示を受けたと述べているが、前叙の理由により、C子医師が本件コンサルの再指示をしたとは認められず、右被告人の公判供述は措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんには所見からみて、子宮筋腫がある事、左の卵巣嚢腫のある事、癒着のある事を説明したはずです。又症状からみて入院手術の必要があると云っているはずです。問 患者は理事長から、前の手術をした糸が残っていてくさっている、子宮筋腫で子供の頭位になっている、三分の一位を切らなければならない、三か月ももたない、取らなければブクブク太ってしまう、悪性の筋腫と癒着があるので切りますと説明されたと云うがどうか。答 糸が残っている事は云っていますが、くさっているとは云っていないと思います。子供の頭位の筋腫があるとは所見からみても云っていません。取らなければ筋腫が太るという事で体が太るという意味ではありません。したがってこの患者さんには、子宮筋腫がある事、左の卵巣嚢腫のある事、癒着がある事、筋腫はこのままにしておけばもっと大きくなってしまう事、左卵巣はもっと検査する必要があるという内診を説明しているはずです。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二八日付供述調書)、また「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、左卵巣嚢腫で、悪性の疑いという病気が発見されたことがわかります。そこで、私はひきつづいて行なわれたコンサルの際、これらの病気や症状を患者に告げたうえ、子宮と卵巣の全摘手術をすすめているハズです。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病名や病状を患者に教えたり、入院・手術をすすめたのも、私独自の判断によるものでした。このようなコンサルの後、この患者に、もう一度入院の相談にくるように伝えてその侭帰ってもらっているハズです。」と述べている(検察官に対する同日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、左卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫と左卵巣嚢腫がある。筋腫はこのままにしておけばもっと大きくなってしまう。前に受けた手術のあとが癒着していて糸が残っている。左卵巣は更に検査する必要がある。早急に入院して、全摘手術をしたほうがよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(15) 訴因番号15の患者について

ア 患者(別表番号15の患者)は、陰部に痛みがあるなどしたため、昭和五三年一月二八日から富士見産婦人科病院に通院し、同年四月一一日には、外来患者としてB医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、大きさは手拳大、硬さは柔らかい。両側附属器触知困難、リビド色あり、膣内容物白色性。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「(1)妊六か月初、(2)胎心音がききとりにくいのでME検査御依頼、(3)胎児の発育及胎盤の状態お願いいたします。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右B医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「前置胎盤、正常位、左側から胎盤は子宮上部から子宮膣部方向へ突き出て、内口前部分を閉いで居る。前置低置と全く定められたようにはいっている。胎児は子宮の上部に仰位で上がってるので、ドップラーは入りにくい。筋腫あり。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「入院するか主人来院を待ち決定するよう主人を来訪する様に申し渡す。※主人来院、午後四時来院したのでME報告の通り説明し、明日入院mc手術七~一〇内としましたので御配慮下さい。」等と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、翌日同病院に入院し、同月一三日子宮縫縮手術を受け、同月二一日に退院した。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「黒板に図解しながら、片方の胎盤が下がっている、そのために足が痛いんだ、このまま放っておくと胎盤がおなかが大きくなるにつれて下がっていき、母子ともに命が危ない、すぐ手術しなければいけない、二、三日後に入院して縫縮手術をしなさいなどと告げられ、夫も同様の説明を受け、早く入院して手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、心音が聞きとりにくいので、入院安静とし様子をみた方がよい、縫縮手術をすればより安心と思う、手術については担当医とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「B医師のコンサル指示は、胎児の発育と胎盤の状態に問題があると思われるので、安静と検査のために入院するよう勧めて欲しいということであると理解した。ME検査をしてその所見を写真の余白に記入し、これをB医師に戻すと、同医師から、縫縮手術が必要と思われるので、患者にこのことを話して入院するよう勧めて欲しいという連絡を受けたので、この指示にしたがい、患者に、児心音のこと、胎盤の状態などを説明し、さらに縫縮手術の必要があることを伝えて入院するよう勧めた。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年四月一一日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、ME報告のとおり説明したことなどが記載されているので、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、右患者のME所見記載の病状・病名のうち前置胎盤、子宮筋腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、子宮縫縮手術が必要であると患者に告げたのはME写真コピーを見たB医師よりその旨のコンサルの追加指示があったからであると述べ、同医師も、ME写真を見て多分電話で被告人に入院して縫縮手術を受けるよう勧めてもらいたいと追加して指示をしたと供述しているが、右B医師の供述は具体性に欠けるうえ、被告人自身捜査段階において、担当医師からコンサルの追加指示を受けることなくME検査の結果に基づいてコンサルを実施した旨一貫して明確に供述し、C子医師らも前叙のとおりこれに符合する供述をしているものであって、右被告人及びB医師の公判供述は措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、この患者には、「所見からみて、前置胎盤がありますから入院した方がよいですよ、子宮の口を縛っておいた方がいいですよ、筋腫もありますねと言う様な内容のことを説明しているはずです。問 患者さんは、あんたは胎盤が下がっている、このまま放っておくと母子ともに駄目になるから手術しなければなりませんね、だんなさんがいたら呼びなさいと言う様なことを言われたと申しておりますがどうですか。答 母子ともに駄目になると言う様なことは言ってないと思いますが、その他のことは所見からみて申し上げていると思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月五日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・病状等につき、前置胎盤、子宮筋腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「胎盤が下がっている。すぐ入院して手術しなければならない。子宮の口を縛っておいた方がよい。子宮筋腫もある。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(16) 訴因番号16の患者について

ア 患者(別表番号16の患者)は、肩凝り、下腹痛のため診察を求めて、昭和五三年四月一九日富士見産婦人科病院を訪れ、C子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮は、前傾前屈、ほぼ鵞卵大、筋腫様、両側附属器は抵抗あり、子宮膣部は肥大し、ビランがある。膣内容物は白色性、子宮膣部から膣壁にかけて、ひきつって突っ張っている感じあり。」というものであり、同医師は、子宮筋腫の有無などを調べるため、医事相談指示票に、「①肩こり、めまい(?)、下腹痛の訴えで来院、子宮大きく、かたくて、筋腫と思われます。よろしくお願いします。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、癒着、子宮筋腫でfile_8.jpg状で長く肥大し、その周囲は癒着強度、右卵巣は鶏卵半型大の嚢腫で、この当りは一面の癒着。左卵巣同型で炎症、膀胱中央部の映像は悪性の映像が起る癒着のためかも知れないが要重要検。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「本人は子宮も何も悪くない。唯々肩こりであると申しているので手術をするかどうかは自分で定めればよい。但し子宮筋腫や卵巣の悪い事は事実で、更に癒着は全く強度である。当方としては早く手術を決断することが望ましいという事だけは申し上げておくと申しておきました。本人は拒絶的の為、内容は確かに悪いのにこまった人です。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後防衛医大で診察を受けたところ、何らの異状もない旨の診断結果であったため、富士見産婦人科病院へは通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から「子宮筋腫もあるけど、卵巣が腐ってぐしゃぐしゃで、膿が一杯たまっている、だからお腹が痛いのだ、すぐ入院して手術しなさい、手術しないと、夏休みまでもたない、病院から帰るまでも保障できない、二、三日中に入院して、一週間内に手術をすることになるだろうなどと告げられ、早く入院して手術を受けるよう勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫があるが、手術するかどうかは、主治医と相談し早く決めた方がよいと思うが、自分の健康のことですから、自分でよく考えて決めて下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果をそのまま患者に説明したのではなく、認否書記載のような話をしただけである。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年四月一九日付相談課説明内容欄には、前記のとおりかなり詳細に記載されているものの、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見記載の患者の病状・病名のうち子宮筋腫については、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示や内診所見では筋腫を疑わせる記載内容であって、ME所見のように子宮筋腫があると断定していないし、また両側卵巣嚢腫については何の記載もないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、両側卵巣嚢腫、腹部全般的な癒着という病気、あるいは異状が発見されたことがわかります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、患者にこれらの病気等の症状を説明したうえ、子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめているハズです。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病気や症状を患者に説明したり、入院・手術をすすめたのも私独自の判断によるもので、医師などと相談したうえでのことではありませんでした。コンサルの際、この患者は、入院・手術も渋ったため、よく考えて欲しいということで、その侭帰したハズです。」と述べている(検察官に対する昭和五五年九月三〇日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・病状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫、癒着等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫がある。両側卵巣嚢腫で、腹部が全般的に癒着している。すぐ入院して手術をしなければならない。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(17) 訴因番号17の患者について

ア 患者(別表番号17の患者)は、生理が遅れていることから、妊娠の有無を診察してもらうため、昭和五三年四月一四日富士見産婦人科病院を訪れ、C子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮は、後傾後屈、やや大きく、柔らかい、両側附属器は触知し得ない。子宮膣部は、ビラン状、リビド色プラス・マイナス。膣内容物は白色性、増量、妊娠回数に比し小さい(妊娠しているとした場合)。」というものであり、妊娠反応検査の結果は、プラス・マイナスで妊娠の疑い、ということであった。同医師は、妊娠の有無を確認するため、患者をME検査へ回そうとしたが、MEが故障のため、患者に対し、一週間後の四月二一日に尿持参の上、来院するよう指示するとともに、同日、ME検査とコンサルに回すこととした。

そこで患者は、同月二一日、同病院で同医師の診察を受けたところ、この時の妊娠反応はプラスで、妊娠していることは明確になったが、同月一七日から不正出血が続いていたことから、同医師は、切迫流産の疑いを抱き、この点を明確にするため、医事相談指示票に、「①妊娠三か月、一七日から少量づつ出血つづいております。②切迫流産の為入院、安静必要ですのでよろしくお話し下さいませ。」と記載して、患者に対するME検査とコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「稽留流産の疑い(子宮筋腫)、子宮筋腫は凸状の多い子宮、内容物は血液状で妊娠の確立状況の子宮内ではなく内容悪い、左卵管妊娠の疑いもある。特に左卵巣付近は炎症度が高く、嚢腫と判定難い異物アリ。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「ミス妊娠又は外妊の疑いもあり、早く入院検査と申して置きました。明日入院と申したが、本来は即時入院の所、本人小供が居ると申しているので。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、富士見産婦人科病院への入院手続きをとらずに帰宅し、翌日、聖母病院で診察を受け、以後富士見産婦人科病院へは通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「胎児の姿が見えない、子宮外妊娠の疑いがある、片方の卵巣が腫れている、とにかくすぐ入院しないと子供がもつかどうか分からない、今日か明日の朝入院しなさい、受付で入院手続きをすませるようにと告げられ、早く入院するよう勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、妊娠して出血がつづいているのは切迫流産であり、場合によっては、外妊ということもあるので、早く入院検査して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師から、切迫流産のため入院安静が必要だから入院するよう話して欲しいという指示を受け、患者には、お医者さんが流産のおそれが切迫しているから入院して安静にする必要があるといっているので、早急に入院するように話しました。そのとき切迫流産の原因としては、異状妊娠、また子宮外妊娠ということもあり得るので、入院してよく検査して貰ったらよいと説明したところ、患者は、それでは明日入院すると行ったが、切迫流産で入院安静という指示があったので、そういうことだと急ぎますので、本来ならすぐ入院するのがよいと言って勧めた。しかし、結局患者の希望で翌日入院となった。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年四月二一日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、ミス妊娠又は外妊の疑いもあり、早く入院し検査するよう告げた旨記載されているところ、右患者の病状・病名のうち、子宮外妊娠の疑いについては、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この私の所見からみて、患者に対し、異状妊娠の疑いのある事、あるいは左卵管妊娠(これは外妊と同じ)の疑いのある事、子宮筋腫のある事、これらからみて危険である事から入院を勧めた事を患者に伝えているはずです。問 患者は理事長から子宮外妊娠の疑いがある、子供がみえない、片方の卵巣が腫れている、すぐ入院しなさいと説明されたというがどうか。答 そのとおりの事を患者に云っているはずです。外妊の場合は卵巣が腫れている様に見えるので卵巣が腫れていると云っていると思います。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二七日付供述調書)、また「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、左卵管妊娠(子宮外妊娠)の疑い、左卵巣付近に高度の炎症という異状が発見されたことが判ります。」「そこで私はひきつづいて行われたコンサルの際、患者に、これらの病名を告げたうえ、できるだけ早く入院するようすすめているハズです。問 入院をすすめた理由は何か。答 子宮外妊娠の疑いが強かったため、入院検査をしなければならないと思って、すすめたのです。この患者の子宮筋腫の大きさは、今写真を見ただけでも五・五センチ位ありますが、まだ若い人であるうえ、妊娠による子宮の肥大であるかどうかわからなかったため、この患者には、この場では手術をすすめていないと思います。このように超音波検査の結果あらたに判明した病名や症状を患者に告げたり、入院をすすめたのも、C子先生からのコンサル指示に加えて、私独自の判断によるもので、C子先生などの医師と相談したうえでのことではありませんでした。コンサル用紙の指示欄を見ても、切迫流産のため入院させて欲しいと書いてあるだけで、子宮筋腫や子宮外妊娠、卵巣の炎症などの異状は、私が超音波検査した結果だけを基にして、私独自で診断して、患者にその病名や症状などを教え、入院をすすめたのです。私のこのコンサルの内容は、コンサル用紙の説明内容をみても判ります。」と述べている(検察官に対する同日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・病状等につき、子宮筋腫、子宮外妊娠の疑い等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「胎児の姿がみえない。子宮外妊娠の疑いがある、片方の卵巣が腫れている。できるだけ早く入院しなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(18) 訴因番号18の患者について

ア 患者(別表番号18の患者)は、不妊の検査を受けるため、昭和五三年四月一七日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮後傾後屈、やや大きく硬い、可動性よくない、圧痛なし。両側附属器は触知し得ない。腹緊・子宮膣部ほぼ所見なし。膣内容物は白色性で少量。」というものであり、同医師は、子宮の状況を明らかにするため、医事相談指示票に、「①S四九・一〇結婚以来妊娠しないとの事で国立病院その他でケンサ治療うけたそうです、②精査治療の必要ありますのでお話し下さいませ。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同月二一日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、完全な子宮筋腫、肥大量多い。凸状多い(三か所)、左卵巣の肥大細長く炎症している。腹水をもたらす。(アリ)。右file_9.jpg胞硬く肥大し、左に同じ程度の肥大、炎症はしていない。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「子宮筋腫の増大があるので、卵巣手術を行っても万が一である。然し希望のあるべき努力しないと駄目であるし、と言って此の子宮は大変であるから早急入院検査の上手術か否か決定する事が望ましいと上記の様に申した。入院して来たら可」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後聖母病院等で診察を受けたところ、子宮等に異常は全くないとのことであったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「こんな状態でよく今までいられましたね、卵巣嚢腫で水ぶくれでぶよぶよしている、それに子宮筋腫で小さいのや大きいのがうじょうじょある、放っておくと癌になってしまうなどと告げられ、四人位子供が欲しいと申し出ると、すぐに入院して悪いところを取ってしまえば、あるいは子供もできるかも知れないから即刻入院するようにいわれ、入院の上、手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、不妊症には子宮筋腫、卵巣嚢腫のある場合があるから、入院精査治療した方がいいでしょうと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師のコンサル指示は、精しく検査し、治療するために入院するように話せということであったため、患者に、不妊症にはいろいろな場合があり、子宮に筋腫がある場合も、卵巣の悪い場合もある、手術をしても妊娠するとは限らないが、しかし希望をもって努力しなければ駄目だ、結婚して三年半たってまだ妊娠しないということなら、入院して精しく検査し、治療した方がよいと話しただけである。ME検査の所見を直接患者に告げたことはなく、医師に対するコンサル内容の報告である相談課説明内容には、私がME検査をした所見から考えられること、つまり、子宮筋腫の増大があるから、卵巣の手術をしても妊娠の可能性は少ないと思うが、子宮の状態がよくないようだからよく検査して卵巣の手術をするかどうか考えて欲しいとの私の意見を書いたものである。患者に、子宮筋腫で小さいのや大きいのがうじょうじょあり、放っておくと癌になるとか、すぐに手術をして悪いところを取ってしまえば子供ができるかも知れないから、即刻入院するようにとは言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年四月二一日付相談課説明内容欄には、前記のとおり詳細な記載があるが、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づき実際どのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫については、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示や内診所見では筋腫を疑わせる記載内容となっており、ME所見のように完全な子宮筋腫があるとは断定していないし、また卵巣嚢腫については記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この所見からみて、患者さんに、子宮筋腫が非常に大きい事、卵巣の手術を行なっても子供が出来るのは万の内の一つだ、供子(子供)を産む努力をしなさい、いそで(いそいで)入院して卵巣の手術を出来るかどうか決定した方がいいでしょうと説明しているはずです。問 患者は理事長から、ひどい状態だ、卵巣嚢腫と子宮筋腫がある、卵巣は水ぶくれでブクブクしている、子宮は大きいもの小さいものがごちゃごちゃしている、すぐ手術すれば何んとかなる、妊娠したら産まれるまで入院する必要がある、このままじゃ癌になると説明されたというがどうか。答 すぐ手術すれば子供が出来るとは云っていないと思います。又癌になるとも云っていません。症状からみてもそうです。それ以外の事は患者が云うとおりの事を説明しています。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月三〇日付供述調書)、また、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、両側卵巣嚢腫、腹水という病気や異状が発見されたことがわかります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、これらの病気などの症状を患者に説明したうえ、両方の卵巣嚢腫の部分切除手術をすすめているハズです。又腹水があることから、あるいは、患者に癌に移行することがあるかも知れないということぐらいは言っているかも知れません。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病気や症状を患者に説明したり、入院・手術をすすめたのも、私独自の判断によるもので、医師などと相談したうえでのことではありませんでした。コンサルの際、この患者は、入院することを承諾して、事務局で入院手続きの説明を受けて帰ったと思います。」と述べている(検察官に対する同日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・病状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「ひどい状態である。卵巣嚢腫と子宮筋腫がある。卵巣は水ぶくれでブクブクしている。子宮は大きいもの小さいものがごちゃごちゃしている。すぐ入院して手術を受けなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(19) 訴因番号19の患者について

ア 患者(別表番号19の患者)は、不正出血があったため、昭和五三年四月二五日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてB医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮後傾後屈、大きさは鵞卵大で、硬さは硬い。両側附属器触知困難、リビド色なし。ビランあり。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「(1)子宮筋腫、子宮膣部ビラン症。(2)上記のためME御依頼。(3)入院手術どうするか御相談願い上げます。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右B医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮は特大ではないが、筋腫、やや後屈状である。左卵巣これも特別肥大の量は少ないが、嚢腫(血溜)炎症、右も大体同系の嚢腫。子宮内には異物アリ、内膜状の筋腫の疑い。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「即入院は出来ない。主人と小供のみで、小供を預け見てくれる人がないため、手当のつき次第上記の様に入院・手術と申している。手当のつく迄は毎週(火)午前外来通院治療のこと申したので御配慮下さい。」と記載してこれを医師に回付した。なお、患者は、その後東京医科大学で診察を受けたところ、単なるただれとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「子宮も悪いけど、卵巣の方はもっと悪い、そんなものをおなかの中に寝かせていたら癌になる、五月中に手術をしなさい、手術の費用は五〇万円位かかるなどと告げられ、入院の上手術を受けるよう強く勧められ、また夫と相談したいと申し出たのに対し、事情があるなら後日返事を下さいと言われた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫、入院手術した方がよいが、家庭の事情があれば、毎週火曜日外来通院して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、また、その後の公判廷においては、「ME検査をしてその余白に所見を記入し、患者には、B医師のコンサル指示にしたがって説明をしたところ、患者は、子供を預けておくところがないので、その手当てのつき次第、入院・手術することになり、その旨B医師に報告した。ME検査の結果、卵巣嚢腫もあるとの所見を得たが、それは患者に告げていないし、卵巣の方がもっと悪い、そんなものをおなかに寝かせていたら癌になる、五月中に手術しなさいとは言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年四月二五日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

なお、B医師は、公判廷において、本件患者についてME検査結果について被告人に電話連絡により再指示をした旨供述するが、被告人自身ME検査後同医師から再指示があったと述べておらず、前記C子、H、D子各医師らの供述に照らし措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫様、子宮後屈、左右卵巣嚢腫という病気、あるいは異常が発見されたことがわかります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、患者にこれらの病気などの症状を説明したうえ、子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめているハズです。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病気や症状を患者に説明したり、入院・手術をすすめたのも、私独自の判断によるもので医師などと相談したうえでのことではありませんでした。コンサルの際、この患者はたしか入院を承諾して、その侭帰ったはずです。」と述べている(検察官に対する昭和五五年九月三〇日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫・卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮が悪いが卵巣の方も悪い、子宮と両方の卵巣をとった方がよい。」旨告げたことは明らかであり、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(20) 訴因番号20の患者について

ア 患者(別表番号20の患者)は、尿が出ず、苦痛を感じたため、昭和五三年四月二七日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受け、導尿処置をされたが、その内診所見は、「妊娠悪阻、ドップラー(心音)BBB、部分的にやわらかく、部分的に固い。子宮膣部なめらか。」というものであり、同医師は、尿閉の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①妊四か月(中)、ドップラーfile_10.jpgですが、子宮やや大きめです(後屈file_11.jpg)。②昨夜九時以后尿が出なくなり、腹部圧迫感訴えて朝五・五〇頃来院しました。③尿閉の原因を確かめる為にも安静入院すすめて下さいませ。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、一旦帰宅した患者を呼び寄せ、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「前置胎盤、胎児正常、胎児の活動胎心などは正常です。※胎盤は前置子宮膣部開大の状況(無力)」などと記載し、また右ME検査終了後、同室において、患者とその夫に対し、本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「四月二七日午後二時迄に入院とす。mcope必要申し伝えました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、直ちに同日同病院へ入院し、同年五月二日北野医師から子宮縫縮手術を受け、同月一五日退院した。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は、「ME写真を示しながら、前置胎盤という病気だから放っておくと大出血する、少しでも早く縫縮手術をした方がよい、このまま放っておくといつ悪くなっても知らないよなどと告げられ、入院して子宮縫縮手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者は、妊娠四か月にしては子宮がやや大きめです、尿が出なくなったのは何故か、原因を確かめるため入院して下さい、入院安静縫縮手術も必要だと思いますが、手術については入院の上担当医と相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「この患者に前置胎盤で縫縮手術が必要だということや前置胎盤がどういうものかということを告げたと思うが、この点は、ME検査結果を見たC子医師から追加して指示されたと記憶している。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年四月二七日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、マクドナルド手術(頸管縫縮手術)が必要である告げた旨記載されているところ、右患者において前置胎盤で縫縮手術が必要であることについては、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、前置胎盤の疾患は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、前置胎盤で縫縮手術が必要であることについては、ME検査後C子医師からコンサルの再指示を受けたと思うと述べているが、被告人の捜査段階における供述及びC子医師の供述等に照らしとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんに対しては、見所からみて、子宮の経管部が広がっていること、前置胎盤の要素のあること、尿閉の問題があることなどを告げ、入院をすすめていると思います。問 甲山一子さんは、理事長から、前置胎盤ですね、これは放っておくと大出血して大変なことになります、そうならないうちに入院して縫縮手術をしたほうがよい、そうしなければどうなっても知らないよ、と言う様なことを言われたと申しているが、この点についてはどうですか。答 どうなっても知らないよと言う様なことは言っていないと思いますが、その他の点は、ME検査の所見からして言っていると思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月五日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・病状等につき、前置胎盤の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「前置胎盤である。放っておくと大出血して大変なことになる。そうならないうちに入院して縫縮手術をした方がよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(21) 訴因番号21の患者について

ア 患者(別表番号21の患者)は、角岡産婦人科病院で流産止めの処置を施され、昭和五三年四月一七日同病院で頸管ポリープの切除手術を受けたが、出血が止まらなかったため流産を心配し、同年四月二八日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮後傾後屈、約鵞卵大、ところどころやわらかい。子宮内には少量の異物があるのみで、両側附属器不触知、子宮膣部ビラン、膣内容物出血性、粘液性少量。」というものであり、同医師は、出血の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①妊三か月、出血file_12.jpgです(少量)。四月一七日、他医(カドカワ医院とか)で頸管ポリープ切除しその時からかたまりやら出血やらあり、流産してしまったのかどうか、本人心配して来院しました。②子宮はやゝ小さめです(三か月末にしては)。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「切迫流産、卵巣嚢腫、子宮筋腫、子宮内には少量の異物あるのみで、両側卵巣嚢腫あり、炎症性筋腫があり、方向凸状。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者と同人の夫に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「内容除去を行う必要と申しておき、入院検査卵巣など申し添え、本日午後三時入院とす。内容除去の場合でもラミにてという説明しておきました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、直ちに同病院へ入院し、同月二九日北野医師から掻爬手術を受け、同年五月一日退院した。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から「ME写真等を示しながら、卵巣も子宮も悪いから、お腹の子供を始末した後、検査のための入院が必要だ、卵大くらいのかたまりがあって、それを手術しないかぎり何回妊娠しても流産を繰り返すなどと告げられ、入院した上、掻爬手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、妊娠三か月にしては子宮が小さいという担当医の意見です、出血しているし、ばあいによっては子宮内容除去を行う必要あり、また掻爬後、流産の原因について卵巣の検査の必要があるかも知れません、入院後、よく担当医と相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果、すでに流産しているように見受けられたので、C子医師に連絡したところ、同医師から、内容除去をしないといけないし、原因を調べたいから入院してもらってくれと指示されたため、患者を呼んで、もう流産している、子宮の内容物除去(掻爬)が必要だし、流産の原因、卵巣などの検査をしたいから入院するようにと話した。ME写真コピーの余白に記載した内容は、患者に告げていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年四月二八日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、子宮の内容物除去(掻爬)や卵巣などの検査が必要であることを告げた旨記載されているところ、右患者の子宮内容物除去や卵巣検査の必要性については、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、掻爬や検査が必要であることについてはME検査後C子医師から再指示があったと述べているが、被告人自身、捜査段階において、C子医師から再指示などなかったことを明確に認めており、またC子医師も、切迫流産の疑いがあるということでME検査、コンサルに回したが、子宮筋腫や卵巣嚢腫の所見は内診段階ではなかった、ME写真コピーに記載されている病名・病状は、被告人がME検査で新たに発見したものであり、子宮の内容除去や卵巣検査は私の指示によるものではなく、被告人の判断で患者に告げたことであると供述しているものであって、右被告人の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・病状等につき、流産の状態で、入院の上掻爬手術を実施する必要があり、卵巣嚢腫、子宮筋腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「流産しており、入院のうえ内容除去を行う必要がある。卵巣も子宮も悪い。卵巣など検査するため入院が必要である。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(22) 訴因番号22の患者について

ア 患者(別表番号22の患者)は、下腹部に痛みと陰部にかゆみを感じたため、昭和五三年五月一日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮後傾後屈、やや大きい、硬い、圧痛(±)。両側附属器は触知し得ない。頸管分泌物正常。膣内容物白色性。左附属器あたりほぼ所見なし、圧痛(-)。」というものであり、同医師は、腹痛等の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①膣炎で外来治療中です。初診時(五月一日)から下腹痛(左側)訴えており、精査希望しておりますので、よろしくお願いします。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同月八日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮は肥大し後屈し、両側卵巣は鶏卵半型大の炎症で、腹水少量アリ。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「筋腫、卵巣嚢腫の手術については早く行った方が可と説明。主人とも相談の上、来院する様もうしておきました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同月一一日同病院に入院し、同月一九日北野医師から子宮及び卵巣の全摘手術を受け、同年六月七日退院した。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「あなたの卵巣が普通の人より四倍に腫れています、水も溜まっている、その水がいつかあなたの体の中で爆発して体全体に回って、癌やその他の病気になるから命も保証できない、できるだけ早く切った方がいいですよ、御主人に連絡がつきますかなどと告げられ、入院の上、子宮及び卵巣の全摘手術を受けるよう強く勧められ、さらにその翌日にも、夫とともに呼ばれて同様の説明と勧誘を受けた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、一応子宮筋腫、卵巣嚢腫がありますので、精査のため、入院、手術した方がよいと思うが、これについては入院検査の上担当医と相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判廷においては、「C子医師のコンサル指示に下腹痛とあったので、同医師が子宮か卵巣の異常を考えているものと理解し、患者に、子宮か卵巣の異常が疑われるので、精査のため入院した方がよい、悪ければ手術は早く行った方がよい、具体的には入院検査の上、担当医と相談して下さいと話した。患者に実施したME検査の結果、子宮筋腫と卵巣嚢腫が見られたが、その検査結果を直接患者に告げてはいない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年五月八日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、子宮筋腫、卵巣嚢腫の手術は早く行った方がよいと告げた旨記載されているところ、右患者の病状・病名については、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見(但し、子宮筋腫を疑わせるような記載がある)にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査より初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者の所見からみて、子宮筋腫がある事、卵巣嚢腫がある事、腹水がある事を説明する一方、入院して手術しなさいという事を話しているはずです。問 患者は理事長から、お腹に水が溜まっている、子宮がかなり腫れている、卵巣が普通の人の四倍位に腫れている、命にかかわる、このままにすると卵巣がパンクする、すぐ取らなければ命が危ないと説明されたというがどうか。答 この中で命が危ない、卵巣がパンクするという事は云っていないと思います。その他の事は話しています。問 患者は理事長に対し、どうしても取らなければだめかと質問した際、取らなければだめだと説明したというがどうか。答 取らなければだめだという事でなく、取った方がいいでしょうと説明しているはずです。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月七日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・病状等につき、子宮筋腫及び卵巣嚢腫、腹水等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣が普通の人の四倍位に腫れている。水もたまっている。子宮筋腫もある。入院して卵巣を取った方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(23) 訴因番号23の患者について

ア 患者(別表番号23の患者)は、陰部から不正出血があったため、昭和五三年五月一一日富士見産婦人科病院分院を訪れ、外来患者としてD子医師の診察を受け、その後通院し、同月一七日には分院で北野医師の診察を受けたが、同医師の内診所見は、「子宮前傾前屈、大きさはやや大きい、硬さは硬い、両側附属器は触知し得ない。分泌物白色性、ビランあり、一月ほど前にぼたりと出血、膣かららしい。子宮筋腫(子宮体部癌の疑いあり)。」というものであり、同医師は、同月一七日、医事相談指示票に、「子宮筋腫と思いますが、出血の状態から体部癌も否定できませんので、入院検査の上必要あれば手術した方がよいと思います。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右北野医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮は大きくないが、丸く硬く筋腫で、右卵巣は二段の肥大で一部嚢腫で、その下部は水包肥大となっている。鶏卵大はある。左は右程の肥大はないが嚢腫。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「午後三時三〇分主人来院した。上記の様に説明す。本人は最初に診てもらった先生は虫が入った出血であるから、当分外来に通院すれば治ると申されたと本人は主張し、患者特有の大した事はないと申された方を取りたい気持大で……良く説明し、検査する事が望ましく手術が必要であれば行う事。尚悪性状況が現れば、場合は、専門を紹介する等話しておいた。(連絡又は入院して来たら当方へ)」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後国立癌研究所で診察を受けたが、ホルモンのバランスが崩れただけで、子宮等に異常はないとの診断結果であったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「子宮がガタガタで悪性の腫瘍などと告げられ、さらに夫とともに、子宮筋腫と卵巣嚢腫である、すぐ手術した方がいいなどと説明を受け、夏休みまで待ちたいと申し出ると、医師として責任が持てない、ほかのお医者さんにみてもらってもいいですよ、ここのような機械や設備はないからなどと告げられて、早く入院して手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫と思いますが、出血の状況から悪性の場合もあるという先生の意見ですので、入院検査して下さい、検査の上必要があれば手術ということもありますと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判において、「ME検査の結果をそのまま患者に告げたのではなく、患者には、認否書記載のように話しただけである。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年五月一七日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、同指示票の様に説明したことなどが記載されているだけであるから、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対し実際にいかなることを告げたか明らかでないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見記載の患者の病状・病名のうち卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者の所見からみて、子宮筋腫がある事、左右卵巣嚢腫のある事を説明する一方、症状からみて入院、手術を勧めた事を云っています。問 患者は理事長から子宮筋腫で卵巣もクチャクチャ、手術しなくてはだめだと説明を受けたというがどうか。答 そんな説明をしています。しかしそのものずばりで卵巣がグチャグチャとは説明していないと思います。話しの中でその様な事を云ったものと思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月九日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫と卵巣嚢腫がある。入院して手術をしなくてはだめだ。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(24) 訴因番号24の患者について

ア 患者(別表番号24の患者)は、陰部から不正出血があったため、昭和五三年五月二二日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮後傾後屈、やや大きい、圧痛なし。両側附属器触知し得ない。子宮膣部ビランなし。頸管分泌物出血性、粘液性のもの少しあり。」というものであり、同医師は、出血の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①二〇日より不正子宮出血訴えて来院。腹痛(-)です。②子宮後屈で、大きさははっきりしませんが、やや大きいようです。ビラン(-)です。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫と両側卵巣嚢腫。子宮は左側曲って肥大し、左卵巣は鶏卵半型大で二段の肥大、丸く長い。右は皮包硬くこれも二段肥大。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「筋腫、卵巣嚢腫の説明す。主人早く来院し、肥大量も多いので全摘が可と申しておきました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後、栃木県小山市内の小野産婦人科病院で診察を受けたところ、子宮等には全く異常がないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「黒板に図解しながら、子宮筋腫があるので、すぐに取らないと危ない、子宮の大きさは拳大だ、放っておくと大変なことになる、疲れやすくなるなどと告げられ、さらにその翌日、同室において、夫とともに、子宮筋腫だけでなく、卵巣嚢腫もあるから、すぐ手術をするように、子宮と卵巣は全部取ってしまった方がいいなどと告げられ、入院の上、子宮及び卵巣の全摘手術を受けるよう強く勧められ、同月二四日、再び夫とともに同様の説明を受けた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮後傾後屈で子宮も大きい、入院、全摘がようようですが、手術については入院してからよく検査して主治医と相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師のコンサル指示に、子宮出血、子宮後屈でやや大きいとあったので、同医師が子宮筋腫を疑っているものと理解し、患者に、子宮後屈で、子宮が大きい、全摘手術もあり得るので、入院してよく検査をし、手術については担当医とよく相談して下さいと話し、子宮筋腫や卵巣嚢腫の一般的なことについて説明した。患者に実施したME検査の結果、子宮筋腫と卵巣嚢腫が認められたが、その検査結果を直接患者に告げてはいない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年五月二二日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、子宮筋腫、卵巣のう腫の説明と記載されているところ、右患者の病状・病名については、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、子宮後屈、両側卵巣のう腫という病気や異常が発見されたことがわかります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、これらの病気などの症状を患者に説明したうえ子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめているハズです。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病気や症状を患者に説明したり、入院・手術をすすめたのも、私独自の判断によるもので、医師などと相談したうえでのことではありませんでした。コンサルの際、この患者はご主人と又相談にくるということでその儘帰って行きました。」と述べている(検察官に対する昭和五五年九月三〇日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、両側卵管嚢腫等の疾患があり、入院の上、子宮及び卵巣の全摘手術を実施する必要があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫がある。入院して全摘手術をした方がよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(25) 訴因番号25の患者について

ア 患者(別表番号25の患者)は、癌の不安があったため、昭和五三年五月二七日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてB医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮はやや後傾後屈、大きさやや大きい、硬さは硬い。両側附属器触知困難、リビド色なし、ビランややあり。分泌物は出血性。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「(1)五月二九日(月)午前九時ME予約の方。(2)子宮に筋腫様、卵巣異常疑い(閉経後の少量出血)。(3)上記の上よろしく御相談願い上げます。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右B医師の指示を受けた被告人は、同月二九日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮は極度の後屈し、筋腫のみが残って居る状況。両側の卵巣はのう腫、炎症性、卵巣の内容は悪い。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「MEでも上記の通りでした。良く説明す。なるべく早く手術する事が希ましいと申しておき、主人来院したら説明してくれとの事。主人専修大学教授(化学)との事。来院したら当方。」などと記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後防衛医大で診察を受けたところ、子宮等に全く異常はないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「ME写真を示しながら、大きいなあ、水がたまっているな、この大きさだと子宮筋腫があるからすぐ手術を受けるようになどと告げられ、手術は夏休みまで待ちたいと申し出ると、自分の身体を放っておくのか、右の卵巣が開いているから水がたまって肥大している、大変だから入院してすぐ手術しなさい、卵巣と子宮をとった方がよい、子供は三人いるからもういらないでしょう、急いで取らないと命にかかわる病状だ、筋腫をそのまま放っておくと癌に移行するなどと告げられ、早く入院して手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫、卵巣異常がある、なるべく早く手術した方がよいと思うが、手術については担当医とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判において、「ME検査でもB医師の初診と同じ子宮筋腫、卵巣異常が認められたが、このME結果とコンサルとは直接関係はない。コンサルはあくまでコンサル指示に基づいて行ったもので、B医師のコンサル指示にしたがい、患者に、子宮筋腫、卵巣異常の疑いがあるので、検査入院した方がよい、担当医とよく相談のうえ、検査の結果では手術した方が望ましいと話しただけである。患者に、大変だからすぐ手術しなさいとか、筋腫を放っておくと癌に移行するなどとは言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年五月二九日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、MEでも同指示票記載のとおりで、患者によく説明したと記載されているが、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対し実際にいかなることを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が搜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち子宮筋腫と卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示や内診所見では、筋腫様及び卵巣異常の疑いと記載されているだけで、右各疾患があると断定までしていないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この所見からみて、私は患者に対して、子宮は筋腫で後屈している事、両側の卵巣がのう腫である事、早く手術を受けた方がいいでしょうと云った事を説明しているはずです。問 患者は理事長から、右の卵巣に水が溜まっている、子宮筋腫もある、すぐ入院しないと大変な事になると説明されたというがどうか。答 そのようなことは云っているはずです。ただ大変だという事は云っていないと思います。問 又夏休みまで待てないかと聞いたら、とんでもない、すぐ入院しなさいと云われたと云うがどうか。答 待てないという事ではなく、早く入院した方がいいと云ったと思います。問 子供が三人居るのじゃ子宮と卵巣を取った方がいいと云われたと云うがどうか。答 そういう事も云っているはずです。症状からみて、両方とも取った方がよくなるから云っているわけです。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二七日付供述調書)、また、「この患者には、超音波検査の結果、子宮筋腫、両側卵巣のう種、極度の子宮後屈、という異常が発見されたことが判ります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、この患者に、これらの病名を告げたうえ、治療方法として子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめているハズです。」「この患者の子宮筋腫の大きさは、手拳大よりやや小さい程度、両側卵巣のう腫の大きさは、いずれもピンポン玉位であることが、今、写真を見ただけでも判りますので、患者が四九才であるということを考慮すれば、手術をすすめるのは当然だと思います。このように、超音波検査の結果判明した病名や病状を患者に告げたり、入院・手術をすすめたのも、私独自の判断によるもので、B先生などの医師に相談したうえでのことではありませんでした。コンサル用紙の指示欄には、子宮筋腫様、卵巣異常と書いてあるだけで、確たる病名や治療方針は何も書いてありませんでしたから、私が超音波検査した結果を基にして私独自の判断で、この患者に、今申したような病名や病状を教え、入院・手術をすすめたのです。」と述べている(検察官に対する同日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「右の卵巣に水がたまっている。子宮筋腫がある。いますぐ入院して手術をうけた方がよい。子供が三人いるのでは子宮と卵巣を取ってしまった方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(26) 訴因番号26の患者について

ア 患者(別表番号26の患者)は、流産の疑いがあったため、昭和五三年六月一日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてD子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮鵞卵大、硬さ柔らかい。子宮膣部リビド色(+)、子宮膣部小さく、ビランなし。」というものであり、同医師は、子宮や卵巣の状態を確認するため、医事相談指示票に、「1)昨夜卵膜様のもの排出し、持参されました。残余ある様にてラミナリア(子宮頸管拡張術)必要と思います。2)子宮と卵巣の状態如何でしょうか?」記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右D子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、ME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「卵巣嚢腫。残アリ、卵巣のう腫鶏卵半型大。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「清浄術を行うと申しておきました。五時までに入院するとの事。三日間程度と申しておきました。尚、卵巣のう腫ありも説明するも仲々理解出来ない様子。青森から大工の主人と出張してるとの事。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、直ちに同日、同病院に入院し、翌六月二日D子医師により子宮内清掃を受けて、同月六日に退院したが、その後国立西埼玉病院で診察を受けたところ、卵巣に異常はないとの診断結果であったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「卵巣が卵大に腫れているので、切らないうちはいくら妊娠しても流産する、すぐ入院し手術をしてきれいに掃除しなければならない、卵巣の方もきらなければならないなどと告げられ、入院の上手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、流産後まだ内容が残っているようですので、内容除去のため入院して下さい、入院は三日間位で、子宮と卵巣の状態は当分外来通院して先生に診てもらって下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「D子医師は内診の結果、子宮、卵巣の異常を疑っていたと思う。ME検査の結果、卵巣嚢腫の所見がみられたので、D子医師にその旨報告すると、同医師が卵巣の状態についてもよく説明して欲しいと指示したので、この指示にしたがい、患者に認否書記載のように伝えて清掃とラミナリア挿入のための入院を勧めただけである。卵巣と子宮の検査が必要であると話したが、すぐ手術だなどとは言っていないし、卵巣が卵大に腫れているので、すぐ手術をしなければならないとも言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年六月一日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、卵巣のう腫があることを説明した旨記載されているところ、右患者の病状・病名については、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、D子医師は内診の結果、卵巣の異常を疑っていたと思うし、同医師から卵巣の状態についてもよく説明するよう再指示があり、これに従って患者に告知したと述べているが、同医師の内診所見は前記のとおりであって、患者に卵巣のう腫の疾患があるとの診断をしておらず、同医師も、「卵巣については、特に異常はなかった。コンサル指示の内容につき、被告人から問合わせとか確認の連絡はなかった。卵巣嚢腫は被告人が検査で新たに発見したものである。」旨証言して、被告人に対する再指示を明確に否定し、被告人も、捜査段階で、あらかじめ担当医から再指示があって、その指示に基づいて患者に告知したものではないことを認めているものであり、右被告人の公判供述は、とうてい、措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「コンサル指示に書かれている以上のことを超音波検査で発見したときは、そのことをコンサルで患者に説明してやりました。ですからME所見を見てもらえば大体その通りのことを患者に言っているハズです。」「超音波検査やコンサルした際、前にも後にもカルテはいっさい見ていませんし、医師と相談した訳ではありません。超音波検査の結果を私独自で診断し、コンサルで患者に説明してやったのです。」と述べている(検察官に対する昭和五五年一〇月二九日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、卵巣のう腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣が鶏卵大に腫れている。子宮内清掃などをするのですぐ入院して下さい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(27) 訴因番号27の患者について

ア 患者(別表番号27の患者)は、流産後の処置を受けるため、昭和五三年六月八日富士見産婦人科病院分院を訪れ、外来患者としてD子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮超鶏卵大、硬さは柔らかい、リビド色(+)、大きなビランあり。左附属器圧痛あり。出血あり。」というものであり、同医師は、附属器の状態を確認するため、医事相談指示票に、「1)前回妊娠時腫瘍指摘されたそうです。月経不規則にて卵巣腫瘍かと思います。2)五月末より出血あり、六月初旬凝血排出、現在は止血してます。完全流産であったかと思いますが、まだ下腹痛がとれないそうです。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右D子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮はさほど肥大の量は少ないが、硬く内容の悪い筋腫。両側卵巣は双方とも肥大している鶏卵半型大の水包性。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「子供が欲しいとの願いですが一寸検査必要、なを筋腫もある子宮だから子供は一寸むりかも知れないと、検査の上どの様にするかは定めるため入院した方が可と申しておきました。来週6/12(月)主人と来院とす。相談」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同月一三日同病院に入院し、同月二三日北野医師により子宮及び卵巣の全摘手術を受け、同年七月一三日に退院したが、その後防衛医大において、富士見産婦人科病院で撮影した写真に基づいて診察を受けたところ、子宮は正常であり、卵巣の片方に嚢腫の疑いがあったかも知れないが、もう一方の卵巣は摘出する必要はなかったとの診断結果であったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「卵巣がひょうたんのような形で大きく腫れ上がっており、子宮はボールの形で大きくなって腫れ上がっているから、卵巣のう腫、子宮筋腫だから、命が危ないから手術しなさいなどと告げられた。もう一人子供が欲しいと申し出ると、馬鹿なことを言ってはいけない、命が危ないんだから、すぐ御主人を呼びなさいと言われ、夫と連絡が取れないと答えると、御主人とよく相談してくるように、明日にでも入院できますからなどと告げられ、入院の上手術を受けるように強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、卵巣腫瘍が主体にあり、子宮も筋腫があるようだが、まず入院検査の上、手術については担当医とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「D子医師の指示は、月経不規則で卵巣腫瘍かと思われ、精しく検査してしかるべき措置をとる必要があるので、入院するよう勧めて欲しいというものであり、子供が欲しいと言う患者に、そのためにも検査が必要だ、以前に腫瘍ということを言われたそうだが、流産したというのは検査してみると子宮に筋腫があるかも知れない、子供子供といっても無理なこともあるし、何しろ検査してみることが先だから検査のため入院した方がよいと話しただけである。患者の卵巣がひょうたんのような形をしていることは、六月二三日に手術してはじめて判ったことであり、それ以前の六月八日に、卵巣がひょうたんのような形で腫れあがっているなどと患者に告げることができる筈はないし、卵巣嚢腫、子宮筋腫だ、命が危ないからすぐ手術しろなどとも言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年六月八日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、右患者のME所見や相談課説明内容欄記載の病状・病名等のうち子宮筋腫の疾患や妊娠が無理かも知れないという診断については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、本件患者を含む一一名の患者につき、「コンサル用紙の医事相談指示票に書かれていない病名や症状であっても、私が超音波検査した結果、あらたに病名や症状を発見したときは、コンサルでそれらの患者にその病名や症状を教えてやっているハズです。」「ME所見に書かれた内容は大体その儘患者さんに伝えているハズです。」と述べている(検察官に対する昭和五五年一〇月二〇日付供述調書)こと等を合わせて考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫と卵巣嚢腫である。卵巣は腫れている。検査のため入院した方がよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない(なお、患者は、前記のとおり、本件コンサルにおいて、卵巣はひょうたんのような形で大きく腫れ上がっていたと告げられた旨供述するが、診療録によれば、六月二三日付の記載に右のような記載があり、所論指摘のように本件コンサル後に告げられたことを本件コンサルにおいて告げられたものと混同した疑いがあるので、本件コンサルにおける告知内容として認定できない)。

(28) 訴因番号28の患者について

ア 患者(別表番号28の患者)は、以前左卵巣の摘出手術を受け、術後の経過が不調で、月経が不順の上頭痛や腰痛を感じたため、昭和五三年六月二六日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、やや大き目、硬くて圧痛あり。両側附属器触れない。子宮膣部ビランあり。膣内容物白っぽい。手術痕跡あり。」というものであり、同医師は、月経不順等の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①三年前から腰痛があり、整形外科では異常ないと言われたそうです。月経過多(+)、月経不順(+)。②子宮はやや大き目で圧痛(+)です。第一子妊娠中(四か月)に左卵巣の手術しており、本人はホルモンのバランスが悪いからしらべてほしいと云っています(少し神経質のようです)。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫で右卵巣嚢腫。右卵巣は鶏卵半型大の水包性で炎症し、左卵巣附近にも肥物卵管水溜腫の状況の小物アリ。子宮は炎症的で大きい、尚を前回手術の癒着は可成大。」などと記載し、また右ME検査中及び終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「出来る限り手術前剔も可と説明し、主人も来院してたので、当方で行う場合は相談して早くと申しておきました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同月二八日同病院に入院し、同年七月一四日北野医師により子宮及び卵巣の全摘手術を受けたが、頭痛や腰痛が完治しないまま、同年八月一二日に退院し、その後も同五四年三月二七日まで同病院に通院した。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「図解しながら、子宮筋腫だ、前の手術したところが癒着している、糸も取れていない、もう一つの右の卵巣は油で包まれている、すごいな、これではもたないよ、八月まではもたないよなどと告げられた。」「さらに夫とともに、前の手術のところが癒着して糸が取れていない、子宮筋腫で大きくなっている、もう一つの卵巣が油で取り巻かれてグチャグチャになっている、すぐ手術をするように、手術をしないと死にますよ、三か月はもたない、夏までもちませんよ、手術をすれば頭とか腰の痛み、目まいがするというのは全部取れるからなどと告げられ、入院の上、子宮及び卵巣の全摘手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮は大きいし、前回手術の癒着がひどいので、子宮と残っている卵巣の手術をした方がよいと思うが、入院精査の上、手術については担当医とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師のコンサル指示に、腰痛、月経過多+、月経不順+、子宮はやや大きめで圧痛+と明らかに子宮の異常(特に子宮筋腫)を表す記載があったので、同医師が検査に止まらず手術を含めた入院治療を考えてコンサルに回したものと理解し、患者に、入院精査の上、全摘ということもありますから、担当医とよく相談して下さいと話した。患者に実施したME検査の結果は直接患者に告げていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年六月二六日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見記載の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫については担当医師の内診所見にこれを疑わしめる症状の記載はあるものの、子宮筋腫と診断していないし、卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんは所見からして、子宮筋腫のある事、卵巣のう腫のある事、手術のゆ着がある事を説明して、症状からみても手術の必要があるので、手術を勧めた事があるはずです。問 患者は理事長から、子宮筋腫だな、前に切った所がゆ着している、卵巣が油で巻かれていてグチャグチャ、手術の糸が残っている、手術しないと夏までもたないよ、死んじゃうよ、手術すれば頭の痛いのもすっきりすると説明を受けたというがどうか。答 手術しないと夏までもたないとは云いません。その他の事は私の所見からもはっきりしているので説明しています。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二四日付供述調書)、また「この患者には、子宮筋腫、右卵巣のう腫、左卵巣附近に肥大物、卵管水溜腫の状況の小物あり、子宮炎症性、前回手術のゆ着大というような異常が認められました。」、そのため、「私は、この患者に、コンサルの場で、私独自の判断で、入院したうえ子宮と卵巣の全摘手術をすすめていると思います。問 手術を必要と判断した理由は何か。答 今、写真を見ただけでも、子宮筋腫は手拳大の大きさ、左卵巣のう腫はピンポンの玉位の大きさですので、当然全摘手術すべき症例ですので、そのようにすすめたハズです。このように、この患者の病名や症状などを診断して患者に教えたり、入院・手術をすすめたのも、私が独自に判断したことによるものでC子先生など医師と相談したうえでのことではありませんでした。又、相談課説明内容を見ると、やはり、私が患者に、全摘手術をすすめており、このようなコンサルをしたことや所見をだしたことで、あとからC子先生にクレームを付けられたというようなことはありませんでした。」と述べている(検察官に対する同月二六日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があり、入院の上、子宮及び卵巣の全摘手術を行う必要があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫である。前に切った所が糸で癒着している。卵巣が油で巻かれてグチャグチャだ。手術の糸が残っている。手術すれば頭の痛いのもすっきりする。すぐ入院しなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(29) 訴因番号29の患者について

ア 患者(別表番号29の患者)は、妊娠の有無を確認するため、昭和五三年七月一四日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者として北野医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、大きさは超鵞卵大、硬さは硬い、両側附属器触知し得ない。分泌物白色性。ビラン強度。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「子宮筋腫、要入院手術、四週間。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右北野医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫及両側卵巣のう腫。更に溜水腫がある。子宮には凸状物がつき出ている、右側へ。」などと記載し、また、右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「来週(月)七月一七日午前一〇時入院主人来院の事、全摘目的、主人と両親が来院して具体的に話しを伺いたいとの事にて全摘に対する説明を良く話した。大変良くきき、了解し是非宣しく御配慮下さいとの事。来院したら当方。」等と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同月一七日同病院に入院し、同月二五日子宮及び卵巣の全摘手術を受けて、同年八月一二日に退院した。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「ME写真を示しながら、あんたは大変だよ、片方の卵巣は風船のようにふくらんで、片方の卵巣はぶどう状になっていて、そのぶどう状になっている方は穴が開いて腹膜に血膿がたまっている、早くしないと死んでしまう、一、二週間の命だ、今すぐこの場で入院しなさい、子宮筋腫、卵巣嚢腫だなどと告げられ、さらに同月一七日、夫とともに、同様の説明を受けた上、癌になってもいいのかなど言われて、早く入院して手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫があるので手術した方がよい、一応全摘目的と思うが、手術の内容については、入院検査の上担当医とよく相談してすることになりますと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「患者には、認否書記載のように子宮筋腫についてのみ話しただけで、卵巣が風船のようにふくらんでいるとか、卵巣がぶどう状になって穴が開いているなどとは告げていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年七月一四日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、卵巣のう腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、本件患者を含む一一名の患者につき、「コンサル用紙の医事相談指示票に書かれていない病名や症状であっても、私が超音波検査した結果あらたに発見したときには、コンサルでそれらの患者に病名や病状を教えてやっているハズです。それは医事相談指示票に書かれた内容と写真のコピーの余白に私が書いたME所見を比べてみればハッキリするハズです。ME所見に書かれた内容は大体その儘患者さんに伝えているハズです。」と述べている(検察官に対する昭和五五年一〇月二〇日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫と卵巣嚢腫がある。溜水腫がある。今すぐ入院し全摘手術を受けた方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない(なお、患者は、前記のとおり、本件コンサルにおいて、被告人から、卵巣の片方がぶどう状で穴があいて血膿がでて腹膜に血膿がたまっている旨つげられたと供述するが、診療録によれば、本件コンサルの段階では卵巣がぶどう状であるとか、腹膜に血がたまっていることは判明しておらず、その後の七月二五日に行われた手術により明らかになっているので、患者が右手術以後に告げられたことを本件コンサルにおいて告げられたものと混同している疑いがあり、右の点については本件コンサルにおける告知内容として認定できない)。

(30) 訴因番号30の患者について

ア 患者(別表番号30の患者)は、昭和五三年七月一〇日富士見産婦人科病院分院を訪れ、外来患者としてD子医師の診察を受け、妊娠している旨診断されたが、同月一五日、不正出血があったため同病院で再び同医師の診察を受け、その内診所見は、「子宮鵞卵大。子宮膣部肥大、硬さ硬い。左附属器触れない。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「1)流産の疑いです。四六年に右卵巣剔出して居られます。2)本年一月にME予定の所、来院されず、今月一〇日、妊娠反応(+)にて今朝不正出血ありました。ガーゼ、タンポンしております。3)即日入院御指導下さい。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右D子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「残は大分残っている。硬いもの三個程度あり。子宮は筋腫で後屈極度。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「筋腫のある妊娠のため早急入院した方が可と申しておいた。小供が居り仲々入院できないとの、一旦帰って相談すると申している。入院してきたら……。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後国立西埼玉病院で診察を受けたが、子宮筋腫や卵巣嚢腫があるという話は全くなく、流産もしていないと診断されたため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「あなたのおなかの中はめちゃくちゃです、おなかの中には卵巣嚢腫があり、子宮筋腫もこぶし大になっているから、このまま退院したら大出血して倒れる、すぐ入院しなさい、自覚症状が出てからでは手遅れです、精密検査の上手術した方がいい、ともかく大手術だから、明日御主人と一緒にきてすぐ入院するようになどとつげられ、入院の上手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、妊娠で流産しかかっているのですぐ入院して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査で子宮筋腫が見られたので、その旨D子医師に連絡すると、同医師はコンサルで筋腫の説明も加えるように指示したので、患者に対し、妊娠で流産しかかっているし、子宮筋腫もある、早急に入院した方がよいと話しただけである。おなかの中はめちゃくちゃですなどと非常識なことは言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年七月一五日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、筋腫のある妊娠のため早急に入院した方がよいと告げた旨記載されているところ、右患者の病状。病名については、担当医師作成の内診所見にも子宮筋腫の症状を疑わせる記載はあるものの、被告人のME所見のように子宮筋腫と明確に診断していないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、患者に子宮筋腫を告知したことについてD子医師からその旨の再指示があったと弁解するが、同医師は、「私の内診段階では子宮筋腫を認めなかった。コンサル指示の内容につき、被告人から問合わせとか確認の連絡はなかった。」旨証言して、被告人に対する再指示を明確に否定し、被告人も捜査段階において、ME検査の結果を医師と相談せずにコンサルを実施したと供述しているものであって、右被告人の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、本件患者を含む一〇名の患者につき、「コンサル指示に書かれている以上のことを超音波検査で発見したときは、そのことをコンサルで患者に説明してやりました。ですからME所見を見てもらえば大体その通りのことを患者に言っているハズです。」「超音波検査やコンサルした際、前にも後にもカルテはいっさい見ていませんし、医師と相談した訳ではありません。超音波検査の結果を私独自で診断し、コンサルで患者に説明してやったのです。」と述べている(検察官に対する昭和五五年一〇月二〇日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「おなかの中には子宮筋腫がある。すぐ入院した方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(31) 訴因番号31の患者について

ア 患者(別表番号31の患者)は、特に異常はなかったが、子宮癌の有無等の健康診断を受けるため、昭和五三年七月一七日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮後傾後屈、やや大きい、圧痛(-)。両方の附属器触知し得ない。子宮膣部にビラン症あり。膣内容物白色性、増量。」というものであり、同医師は、子宮癌の有無等を明らかにするため、医事相談指示票に、「①昭和四九・九、分娩后妊娠しないとの事で子供が欲しくて来院しました。②筋腫と癌も心配との事です。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮が左側に向き、筋腫は可成り大きい凸状あり。左卵巣は鶏卵大に近い肥大で炎症。右は逆にガム状腫様のう腫。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「卵巣が良くない、また子宮も筋腫あり、卵巣のみの手術を行い、子供が欲しいとの事。二度手術する事は難古しいというなら一回という事に成るが、その場合は全摘手術が可でせうと申しておいた。いづれにせよ相談(主人)をして主人来院する時は当方へと申しておきました。」等と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後国立西埼玉病院で診察を受けたところ、子宮等に異常は全く認められないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「卵巣嚢腫と子宮筋腫で、それはかなり以前から悪く、子供を一人産んだこと自体不思議だ、このまま放っておいたら、人が三〇年生きられるところをその半分位しか生きられないのではないか、この吹き出物は、やはりホルモンのバランスが悪いからで、取った方が良いのではないか、子供を産むことはちょっと無理で、どうしても欲しいなら一年位入院しなさい、今そういう人がこの病院に入院しているからなどと告げられ、さらに同日夕方、同病院を訪れた夫とともに、これと同様の説明を受け、入院の上、卵巣及び子宮の全摘手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫、卵巣嚢腫があるようだ、子供が欲しいなら卵巣の手術をした上で、担当医とよく相談して担当医の指示に従って下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「コンサル指示には記載されていないが、C子医師から卵巣がよくないとの指示があり、ME検査の結果、子宮筋腫と卵巣嚢腫が認められたので、同医師にその旨連絡したところ、同医師から、子宮筋腫と卵巣嚢腫の説明も加えるようにと指示された。そこで患者には、卵巣がよくない、子宮も筋腫があるようだ、子供が欲しいなら卵巣の手術を勧めるが、二度手術することが難しいならば、一回の手術ということになるが、その場合は全摘手術が可でしょう、ともかく入院検査した上で、担当医とよく相談して下さいと話した。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年七月一七日付相談課説明内容欄には、前記のとおりかなり詳細に記載されているものの、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかでないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫、左卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、C子医師から、子宮筋腫と卵巣嚢腫の説明も加えるようにと再指示された等供述しているが、同医師は、被告人がME写真コピーに記載した病状は、被告人がME検査で新たに発見したものであって、私の診断ではない。被告人がコンサル回答として記載したことを患者に告げるように被告人に指示したことはない。」と証言し、右被告人の弁解を明確に否定している上、被告人が記載した前記医事相談指示票の相談課説明内容欄の記載文面をみても、あらかじめ担当医師から前記再指示があったというよりは、被告人が自己の判断で患者に告知した内容をはじめて同医師に報告したものと認めるのが自然であり、被告人自身、捜査段階において、担当医師から再指示を受けずに本件コンサルを実施した旨供述していることをも合わせ考えると、前記被告人の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者の所見からみて、子宮筋腫がかなり大きい事、左右卵巣がのう腫である事を説明する一方、子供が欲しければ卵巣の手術をしなさい、但し子宮筋腫があるから二度手術する必要が生じる、子供が欲しくなければ一度に両方の手術をやった方がいいという事を説明しています。問 患者は、理事長から、子宮筋腫と卵巣のう腫です、子供が出来たのは不思議な位ですと説明を受けたというがどうか。答 これは患者の云うとおりだと思います。問 患者は、じゃ子供は無理かという質問したところ、どうしても欲しければ一年位入院して治療を受けた方がいいと説明されたというがどうか。答 一年位入院とは云わないです。卵巣の手術をした場合は一年位通院治療が必要と云ったものです。又、子供は産まない方がいいという事ですが、この患者は一人子供が居るし、筋腫もある事なので無理して産まない方がいいのじゃないかという事を私が云ったものです。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月一六日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫がかなり大きい。左右の卵巣が嚢腫である。子供ができたのは不思議なくらいです。子供が欲しければ卵巣の手術をしなさい。但し、子宮筋腫があるから二度手術する必要がある。子供が欲しくなければ一度に両方の手術をやった方がよい。どうしても子供が欲しければ一年位通院治療が必要です。でも子供は産まない方がいい。なるべく早く入院した方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(32) 訴因番号32の患者について

ア 患者(別表番号32の患者)は、昭和五〇年三月の結婚以来妊娠しないことから、同五三年七月一七日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、右へ傾いている。両側附属器は不明。子宮膣部は異常なし。膣内容物白っぽいものが少しあり。」というものであり、同医師は、不妊の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①S五〇・三・結婚以来一度も妊娠しないとの事(御主人も一緒に来院)。②不妊の精査必要と思われます。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「卵巣嚢腫。子宮は後屈して筋腫様です。左卵巣は水包性で鶏卵に近い。右もやや小型ののう腫。左卵巣は炎症性で腹水多い。」などと記載し、また右ME検査中及びその終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「明七月一八日午前一〇時入院とす。卵巣手術目的、四週間。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、翌七月一八日同病院に入院し、C子医師により卵巣嚢腫部分の切除手術を受け、同年八月二四日退院し、その後も同五四年一月三一日まで同病院に通院した。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「卵巣嚢腫で、卵巣が三分の一位腐っている、腹水も溜まっていますから、入院して手術した方がいい、このまま放っておくと破裂してしまうからすぐ手術した方がいいなどと告げられ、入院の上、卵巣の摘出手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、不妊の精査のため入院し、精査の結果によっては卵巣の手術をして子供の出来る人もたくさんいるから、卵巣の手術をした方がよいかも知れない、手術については担当医と入院の上相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査で、子宮筋腫、卵巣嚢腫が見られたので、C子医師にその旨連絡すると、C子医師のコンサル指示には卵巣嚢腫のことが記載されていないが、同医師から、子宮筋腫、卵巣嚢腫の説明も加えるようにと再指示されたので、患者に、卵巣がよくない、子宮も筋腫があるようだ、子供が欲しいなら卵巣の手術を勧めるが、二度手術することが難しいならば、一回の手術ということになるが、その場合は全摘が可でしょう、ともかく入院検査した上で、担当医とよく相談して下さいと話した。同日夕方、同患者がご主人と再度来院したので、入院検査の上結論を出す、検査の結果、子宮残せれば希望どおりとし、卵巣と子宮を二度手術するような状況に近い場合は子宮全摘手術となるが、ともかく医師の指示判断に従いなさいと伝えた。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで、検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年七月一七日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか明らかでないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、卵巣嚢腫、子宮筋腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、ME検査後にC子医師から、子宮筋腫と卵巣嚢腫の説明も加えるようにと再指示されたと述べているが、C子医師は、「被告人がME回答やコンサル回答として記載した病名や症状は、私が診断していない内容のものであって、被告人に対し、患者に卵巣嚢腫等の説明をするように再指示したことはない。診療録中の医師指示録『入院要項』欄には、被告人のME所見にしたがってそのまま『卵巣嚢腫、子宮筋腫。卵巣手術目的。』と記載したにすぎない。患者の卵巣手術をしたところ、子宮については、私の初診どおり全く異常は認められなかった。」と被告人の弁解を明確に否定している上、被告人自身も、捜査段階で、本件患者につき、担当医から再指示があり、その指示により患者に告知したことはないと供述しているものであって、右被告人の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんについて所見からみて、左右の卵巣のう腫のある事、子宮後屈している事、筋腫もある様だという事を説明したはずで、症状からみて、やはりすぐ入院しなければだめだという様な事も云っているはずです。問 患者は、理事長から、卵巣のう腫でくさっている、腹水が溜まっている、全体の三分の一がくさっている、入院しないとだめだからすぐ入院しなさいと説明されたと云うがどうか。答 くさっているという言葉は用いていないと思います。その他の事は、症状からみて患者の云うとおり云っているはずです。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二七日付供述調書)、また、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫様、子宮後屈、両側卵巣のう腫、腹水という病気や異常が発見されたことがわかります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、この患者に、これらの病名や症状を説明したうえ、左右卵巣のう腫の部分切除手術をすすめているハズです。このように超音波検査の結果あらたに判明した病名や症状を患者に説明したり、入院・手術をすすめたのも私独自の判断によるもので、医師と相談したうえでのことではありませんでした。このコンサルの際、卵巣手術を目的として、翌一八日に、四週間という予定で入院することが決まり、この患者は、コンサル後その儘入院手続きをして帰ったと思います。」と述べている(検察官に対する同月二八日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮は筋腫様であり、また卵巣嚢腫がある等診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣嚢腫である。腹水が溜まっている。全体の三分の一位がだめになっている。すぐ入院して手術を受けなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(33) 訴因番号33の患者について

ア 患者(別表番号33の患者)は、腹痛があり生理時の出血が多かったため、昭和五三年七月一八日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者として北野医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、大きさは鵞卵大、硬さは硬い、両側附属器触知し得ない。分泌物白色性。ビラン高度にあり。月経困難症。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「子宮筋腫、要入院、手術四週間。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右北野医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮は後屈して肥大している。両側卵巣は鶏卵大の肥大。双方共に肥大している。腹水アリ。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対しコンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「子供が小さいのと心臓が悪いので、女子大に行く(来週)との事、それから入院したいとの事です。若し来週来院したら当方。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後、東京女子医大で診察を受けたところ、子宮が多少大きいものの、手術は必要ないとの診断結果であったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「卵巣が腫れている、卵巣が腫れて大きくなるから、放っておくと腰が動かなくなりますよ、あなたの場合は子宮筋腫というよりも卵巣の方の病気だ、うちの病院にきてよかったですね、うちの病院でこの機械で診たからこそ卵巣が悪いのが判ったのですよ、子宮と卵巣を全部取りましょうなどと告げられて、早く入院して手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫あり、入院検査の上手術した方がよい、入院日数は四週間位になると思いますと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果をそのまま患者に告げたのではなく、患者には、認否書記載のように話しただけである。卵巣について、どうせ筋腫の手術をするのだから、そのときに卵巣も取ってしまうという方法もありますねという話はしたが、卵巣嚢腫があるとは言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年七月一八日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者の所見からみて、子宮筋腫のある事、卵巣のう腫のある事、腹水のある事を説明するとともに症状からみて、すぐ入院して手術を受けた方がいいという事を説明しているはずです。問 患者は、理事長から、卵巣が腫れていますね、卵巣が下がりぎみで大きくなっている、放っておくと腰が動かなくなる、すぐ入院しなさいと説明を受けたと云うがどうか。答 この中で卵巣が下がっているという事ではなく、子宮が後屈していると私が云っているのを間違えているのじゃないかと思っています。その他の事は患者の云っているとおりです。問 患者は、子宮はどうかと聞いた事に対し、筋腫もあるが小さいものだと説明されたというがどうか。答 本確的(本格的)な子宮筋腫なのでむしろ大きいと説明していると思います。問 患者は、理事長から、子宮も卵巣も取った方がいいと説明を受けたというがどうか。答 症状からみて、その様に説明していると思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月九日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、両側卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫、卵巣嚢腫がある。すぐ入院して手術を受けた方がいい。子宮も卵巣も取った方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(34) 訴因番号34の患者について

ア 患者は、生理が不順であったため、昭和五三年七月一九日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、約鵞卵大、堅くて丸い。両側附属器不明。子宮膣部ビラン少しあり。頸管分泌物かっ色粘液性。」というものであり、同医師は、生理不順の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①メンス不順、不正子宮出血を訴えて来院。子宮やや大きめです。②一〇年前に心室中隔欠損症の手術をうけており、子供はあきらめているようです。③本来なら入院治療をすすめたい所ですが、心疾患あるようですし、外来で様子をみましょうか。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮は筋腫である。その上左卵巣嚢腫で炎症性。右は鶏卵半型大の血溜腫肥大。卵巣は、双方共に内容悪い。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「今は多忙である、九月になると時間がとれるのでと申してるので、それ迄で外来とす。来週(水)今度外来にて通常外来を定め、九月迄で様子を見るように申しておきました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後入間市内の中村産婦人科病院で診察を受けたところ、黄体ホルモンのバランスが崩れただけで、子宮筋腫は認められないとの診断結果であったため、富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「四センチ前後の大きさの子宮筋腫で、手術しないと子供はできない、すぐ入院した方がいいなどと告げられ、以前心臓の手術を受けたことがあったので、手術についてちゅうちょしたところ、さらに、手術しないと駄目と言われ、入院の上、子宮筋腫の摘出手術を受けるよう強く勧められたが、仕事が忙しかったので九月まで待ってくれるよう頼み、九月まで外来通院することで被告人の了承を得た。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮は大きめで不正出血があるので、少し外来で様子をみてみましょうと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果、患者に子宮筋腫と卵巣嚢腫を認め、その旨ME写真コピーの余白に記載したが、この記載は、C子医師に報告するためのもので、そのまま患者には伝えておらず、患者には、子宮がやや大きめで、不正出血があるので、九月まで外来で様子をみてみましょうと話しただけである。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年七月一九日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち子宮筋腫及び卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんは、私の所見からですと、子宮筋腫のある事、卵巣のう腫がある事、手術が必要である事を説明したはずです。問 患者は理事長から、子宮だから手術しなければならない、子供が欲しければ手術した方がよいと説明されたというがどうか。答 この患者さんは、卵巣の手術をしなければならないと云われたのと聞き違えているのではないかと思います。子宮を治す事よりも卵巣を治す事の方が子供をつくるのに必要なわけです。問 クスリでは治らないかと聞いたところ、手術でなければだめだと云われたとの事だがどうか。答 卵巣を治すにはクスリではだめなので手術が必要と云ったわけです。どうしてもクスリで治したいのなら、外来の先生に聞いてくれと云ってあります。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二四日付供述調書)、また、「超音波検査をした結果、この患者には、子宮筋腫、左右卵巣のう腫という病気が認められました。」「このような病気が判明したため、私はコンサルの場で、この患者に、私独自の判断で、子宮と卵巣の部分切除の手術を勧めていると思います。問 その手術を必要と判断した理由は何か。答 子宮筋腫の大きさは、写真のコピーを見て、六センチから七・五センチ位の大きさ、卵巣のう腫も両方ともピンポン玉位の大きさであることがわかりますので切除手術以外にないと思われますのでおそらくコンサルの場で、そのようにすすめているハズです。このように患者に病名や症状を教えたり、入院・手術をすすめたのも、私が超音波検査の結果を独自に診断したためで、C子先生など医師と相談したうえでのことではありませんでした。」と述べている(検察官に対する昭和五五年同月二六日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人は、ME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫がある。子供が欲しければ手術した方がよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(35) 訴因番号35の患者について

ア 患者(別表番号35の患者)は、昭和五一年五月の結婚以来子供ができなかったため、同五三年七月二六日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮後屈、やや大きめ。両側附属器不明。子宮膣部大体正常。膣内容物異常なし。」というものであり、同医師は不妊の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①S五一・五結婚以来、妊娠せず、子供が欲しくて来院しました。②S四四頃、一度人工妊娠中絶しております。(今の御主人に内緒との事)③不妊の精査必要と思いますので、お話し下さいませ。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫は差程の肥大の量はないが、硬く後屈して居る。両側卵巣は完全なのう腫で、左が血溜状で卵巣の炎症も強度、右水包性肥大で細く長く肥大している。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「上記の様な次第で、子宮筋腫もあるので、早く可能性を作らないといけないと説明し、卵巣手術に対する説明をしました。主人と相談の上連絡とす。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後、長野県佐久総合病院で診察を受けたところ、卵管が詰まっているため妊娠しにくいものの、卵巣に異常は認められないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「ME写真を示し、図解しながら、卵巣が腫れているので、それをすぐ手術しなければいけない、そのままにしておくと癌になるなどと告げられて、入院の上、早く手術を受けるよう強く勧められた。更に被告人から、相談する時間もない、完全看護だから付き添いの必要もないと入院を急がされたため、同日、入院手続きに必要な用紙までもらって帰宅した。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、不妊の精査が必要なので入院検査して下さい、子宮も悪いようなので、早く妊娠の可能性を作らないとむずかしい、不妊症の治療には卵巣手術という方法もあるが、これは入院精査の上主治医とよく相談して下さい、御主人ともよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果、患者に子宮筋腫と卵巣嚢腫を認めたので、その旨C子医師に報告したところ、同医師から、子宮筋腫及び不妊の原因は卵巣にあることが多いので、卵巣手術の必要があるかも知れないからよく話しておくように言われた。ME写真コピーの余白の記載はC子医師に報告するためのもので、そのまま患者には伝えておらず、患者には、子供ができるように早く可能性を作らないといけない、いずれにしても、入院精査の上、主治医とよく相談して下さい、また御主人ともよく相談して下さいと話し、卵巣の手術のことも説明した。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年七月二六日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、子宮筋腫があることと卵巣手術についての説明をした旨記載されているところ、右患者の病状・病名については、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、ME検査結果をC子医師に連絡したところ、卵巣手術の必要があるかもしれないのでそのことを患者に話しておくよう再指示を受けたと述べているが、C子医師は被告人に対し、右のような再指示をしたことを明確に否定しており、被告人自身、捜査段階において、C子医師の再指示などなく本件コンサルを実施した旨供述しているのであって、右被告人の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんには、子宮筋腫がある事、両側の卵巣のう腫のある事、入院して卵巣の手術が必要、そうでないと子供が産まれにくいという内容を話したはずです。所見からもその様に伝えております。問 患者は、理事長から、奥さん貴女はもうおそいですよ、卵巣が腫れている、手術をしなければだめだ、三か月も放っておくとガンになると云われて絵を書いて、ここが腫れているから取らなければだめだと云われたと云うがどうか。答 もうおそいですよと言うのは年令的に卵巣の修正術はおそいので、おそいですよと云ったのです。卵巣のう腫がある事は所見からもそう云っております。ガンになるという事は放っておけばガンになる可能性もあるので、この様に云ったので、三か月でなるとは云わないと思います。絵を書きながらここを手術すればいいと説明したわけです。この患者のコンサル用紙には医師が診断した病名等は記載がないので、私が超音波検査で発見した病名や病状を医師の判定を受ける事なく患者に説明した事は間違いないのでこの点はまずかったと思います。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二三日付供述調書)、また、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、子宮後屈、両側卵巣のう腫という病気があったことがわかります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、患者に、これらの病名や症状を告げたうえ、子宮後屈の手術、両側卵巣のう腫の部分切除手術をすすめているハズです。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病名や症状を患者に告げたうえ、入院・手術をすすめたのも、私自身の判断によるもので医師と相談したうえでのことではありませんでした。この患者は、コンサルしたところ、ご主人と相談してくるということで、帰って行ったと思います。」と述べている(検察官に対する同月二八日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、両側卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣が腫れている。すぐ入院して手術をしなければだめだ。ほうっておけばガンになる可能性もある。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(36) 訴因番号36の患者について

ア 患者(別表番号36の患者)は、不正出血などがあったため、昭和五三年八月五日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてB医師の診察を受けたが、その内診所見は、「比較的下腹部脂肪沈着、子宮後傾後屈、大きさやや大きい、硬さはほぼ正常。両側附属器触知困難、リビド色なし、子宮膣部ビランほとんどなし。分泌物は出血性で多少増量。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「(1)ME御依頼八月九日(水)午後二時。(2)卵巣状況及子宮内(四月に瀬戸病院でアウス)。(3)以上のうえ御相談願い上げます。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右B医師の指示を受けた被告人は、同月九日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫が拡大しており、子宮内には混入物あり。右卵巣はのう腫で鶏卵大はある(但しこれは筋腫の様の状況もある)。子宮卵巣共に内容は悪い。左卵巣鶏卵大、右炎症状多い。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「本人はナースの2年生との事(学校)、診断書欲しいとの事。卵巣の肥大か筋腫の様か検査必要と申したら、入院、卵巣の場合は手術などして依い、の説明す。検査で一応入院日程診断書出してはどうでしょうか……」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後防衛医大で診察を受けたところ、子宮等に全く異常はないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「図解しながら、これは大変だよ、子宮が普通の人より二倍位大きく、卵巣がくっついていて達磨状に見える、子宮筋腫か卵巣嚢腫らしい、子宮筋腫の一部と卵巣嚢腫になっているところの両方がくっついているので、どっちがどっちだか入院して検査してみないと判らないなどと告げられて、入院するよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮や卵巣が悪いようなので、入院して検査した方がよいと思うが、これについては外来でよく担当医と相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果、子宮筋腫及び卵巣嚢腫との所見を得ているが、そのことは患者に話していない。B医師のコンサル指示にしたがい、患者に、不正性器出血があることから、子宮か卵巣の状態が悪いかも知れないので、入院をして検査をする必要があり、検査結果によっては手術の必要があることを話しただけである。患者に子宮が肥大していて他人の二倍位になっているとか子宮と卵巣がくっついて達磨型になっているなどとは言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年八月九日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫、卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、左右卵巣のう腫という病気が発見されたことがわかります。」「そこで、私はひきつづいて行われたコンサルの際、この患者に病名や症状を説明したうえ、入院と両方の卵巣のう腫の部分切除手術をすすめているハズです。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病名や症状を患者に説明したり、入院・手術をすすめたのも、私独自の判断によるもので、医師などと相談したうえでのことではありませんでした。コンサルの際、この患者は、入院するかどうか家族と相談するということでその儘帰りました。」と述べている(検察官に対する昭和五五年九月三〇日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮が肥大している。子宮筋腫か卵巣嚢腫になっているようで、入院して検査が必要である。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(37) 訴因番号37の患者について

ア 患者(別表番号37の患者)は、出産後の子宮復古不全で出血が止まらなかったため、昭和五三年八月五日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてB医師の診察を受け、同月六日にも通院してD子医師から膣部ビランの治療を受けたが、B医師の内診所見は、「子宮前傾前屈、大きさと硬さはほぼ正常。両側附属器触知困難、リビド色なし、ビランあり。分泌物は粘液性。」というものであり、同医師は、同月一二日、医事相談指示票に、「(1)機能性子宮出血にて先週土曜日来院、三日間連続の注射を指示しましたが、二日しか来院しなかった方。(2)未だ出血していまして子宮は筋腫様で卵巣状況も(?)の方です。(3)ME御依頼。△上記の上よろしく御外交願い上げます。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右B医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮は筋腫状で子宮内に異物混入して居り、子宮内炎症アリ。右卵巣鶏卵大に近いのう腫、左は一般にやや肥大傾向(子宮は復古不全的要素)。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「子宮内に異物もあり、これを除去しなければならないし、卵巣も悪いので検査も必要、相談して手術したくなければ、除去だけでも四、五日入院をする以外はないと申しておいた。出来れば八月一四日入院、五、六日で検査や内容除去手術などを行い炎症を止めて様子を見るよう先生にお願しておくと申しておいたので、御配慮下さい。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後関東中央病院で診察を受けたところ、子宮復古不全以外に異常はないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「子宮内に胎盤が残っている、子宮筋腫で、左側の卵巣のう腫があり、右側の卵巣もよくない、月曜日の朝九時に子宮の中の掻爬をしますから、入院の手続きをしてから帰るように、掻爬した後に左の卵巣を取らないと目まいがしたり、不正出血があったり頭痛がしたりするので、取った方がよいだろう、取らないで放っておくと癌になる、掻爬した後、一週間位入院して検査をし、様子をみて左側の卵巣を取った方がよいなら取りましょう、そんなものは取っても支障がない、いずれ右側の卵巣も取った方がよく、かえってない方がいいなどと告げられ、早く入院して手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、機能性出血、子宮筋腫、卵巣異常の疑いがあるので、入院検査、場合により子宮内清浄の必要もあると告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「B医師のコンサル指示は、まだ出血していて、子宮筋腫、卵巣状況も異常があるので、MEを依頼し、よろしく外交お願いするという趣旨で、ME検査後にも、同医師から、子宮内に異物があるので清掃の必要もあるとの再指示を受けたので、この指示にしたがい、患者に、機能性子宮出血があり、子宮は筋腫様で、卵巣異常の疑いがあるので、入院検査が必要です、子宮内に異物もあり、子宮内清掃の必要もあります、手術したくなければ子宮内清掃だけでもして、その場合は四~五日で検査や子宮内清掃を行い、炎症を止めて様子をみるようB先生にお願いしておくと話した。ME写真コピーの記載は、ME検査の結果をB医師に報告するためのものであり、直接患者には、告げていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年八月一二日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、子宮内に異物もあり、これを除去しなければならないし、卵巣も悪いので検査が必要であること等を告げたと記載があるが、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなることを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫、卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票の指示や内診所見では子宮筋腫の疑いであり、卵巣の状況については疑問を呈示しているだけであるから、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり子宮内清掃が必要であると患者に告げたのは、ME写真コピーを見たB医師からその旨の再指示があったからだと述べ、同医師も、公判廷において、ME写真を見て多分電話で被告人と話し合って指示したと供述をしているが、被告人自身捜査段階において、B医師から右のような再指示を受けたことはない旨明確に述べているうえ、B医師の供述も曖昧なものであり、前記C子医師らの供述に照らしても、右被告人及びB医師の公判供述は措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、復古不全、子宮内容異物、右卵巣のう腫、左卵巣異常という病気あるいは異常が発見されたことがわかります。子宮内容異物というのは、おそらく胎盤だったと思います。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、これらの病気などの症状を患者に説明したうえ、胎盤の掻爬手術をすすめたハズです。又、左卵巣のう腫の部分切除手術もすすめていると思います。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病気や症状を患者に説明したり、入院・手術をすすめたのも、私独自の判断によるもので、医師などと相談したうえでのことでは有りませんでした。コンサルの際、この患者は、入院を承諾して、その儘帰ったと思います。」と述べている(検察官に対する昭和五五年九月三〇日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫があり、左卵巣嚢腫もある。右卵巣もよくない。子宮内に胎盤が残っているからアウス手術を受けなさい。左卵巣をとった方がよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述は措信できない。

(38) 訴因番号38の患者について

ア 患者(別表番号38の患者)は、左足が痛くて歩行が困難となったため、昭和五三年八月二九日富士見産婦人科病院分院を訪れ、外来患者として、D子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮鶏卵大、硬さは硬い。両側附属器触知し得ない。小さなビランあり。」というものであり、同医師は診察後、同患者をME検査及びコンサルに回したが、書面によるME指示及びコンサル指示はしなかった。

患者を回された被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫で後屈している。左卵巣は、鶏卵大に近く、水包状で肥大している。右はやや半型に近い(左の)が肥大している。腹腔内に血状アリ。……何の指示も出さずにMEへ回されるのはクランケに指導出来ず、また再来日も指定出来ず、と言って方向を決められませんので『此の様なことは致さぬ様御配慮下さい』※本人には上記のME通り申しておきました。手術が必要の事説明す。」などと記載するとともに、同室において、患者に対し本件コンサルを実施した。D子医師は、被告人から、コンサル指示を出さないまま本件患者をME検査に回してきたことを前記のとおり指摘されたため、その後、医事相談指示票に、「1)右ソケ部、右下肢がつかれる。腰椎に異常があると言われ、現在防衛医大で整形外科受療中ですが、婦人科に関係があるのでは?と来院されました。2)当書類が前后しまして失礼しました。」と記載してこれを被告人に送付し、また被告人は、医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「自分の事は自分で定めて下さいと申してある。家の都合、小供の学校等を申てるので。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、翌日防衛医大で診察を受けたところ、子宮後屈で右に腫瘍ができているが手術の必要はないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は、「紙に図解しながら、ここが悪い、左の卵巣嚢腫と子宮筋腫、それにおなかに水が溜まっているからすぐ入院した方がいい、このままにしておくと命取りになるから手術しなさいなどと告げられ、一旦同室を出たところを呼び止められ、五〇メートルか一〇〇メートル走ったらバタンと倒れておしまいになってしまうなどと告げられ、入院の上、早く手術を受けるよう強く勧められたが、とにかく考えさせて下さいと返事して帰宅した。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、婦人科的に異常があるようだが、入院検査については、自分のことは自分で決めて下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「患者がME室に連れられてきたとき、私の手許に廻ってきたのは分院用のカルテのみで、MEなのかコンサルなのか判らず、D子医師の指示内容も判らなかったので、同医師に電話で問い合わせて注意するとともに、指示表の届くのを待ってME検査をした。その結果、子宮筋腫等の異常が認められたので、同医師にその旨連絡すると、同医師は、MEに出たことはそのとおり患者に話すように指示した。そこで私は、患者にMEに出た映像の概略を説明し、場合によっては検査の結果で手術も必要になるかも知れませんと告げたところ、患者が家庭の都合などと言うので、自分のことは自分で定めて下さいと言った。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで、先ず、本件医事相談指示票が被告人のもとに回された時期について検討すると、被告人は、前記のとおり、本件ME検査の前には届いていたと述べているが、D子医師が、右の点につき、被告人がME写真コピーに「何の指示も出さずにMEへ廻されるのはクランケに指導できず、また再来院には指定出来ず。」「此の様な事はなさぬよう御配慮下さい。」と記載していることからみると、被告人は医事相談指示票を受け取る前にME検査及びコンサルを実施したものと思うと述べているうえ、被告人が右ME写真コピーの余白に記載したD子医師への注意は、D子医師が前記医事相談指示票において、被告人に対し謝罪する前になされたものであり、また被告人は、医事相談指示票が手許になかったために本来なら同票の相談課説明内容欄に記載すべきコンサル回答をME写真コピーの余白に記入したものと認められるものであって、これらを合わせ考えると、被告人はD子医師のME検査及びコンサルの具体的な指示のないまま患者に対し本件ME検査及びコンサルを実施したことは明らかである。

また、本件ME写真コピーの余白には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、MEの通り話し、手術が必要なことを説明した旨記載されているので、被告人が捜査段階において供述しているように、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながらコンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、本件コンサルにおいて患者に子宮筋腫等の疾患を告知したのは、D子医師からその旨の再指示があったからであると述べるが、同医師は、「私の内診段階では、子宮筋腫や卵巣嚢腫を認めなかった。コンサル指示の内容につき、被告人から問い合わせとか確認の連絡はなかった。」旨証言している上、被告人自身捜査段階において、D子医師の指示によらずにコンサルを実施したことを明確に供述しているものであって、右被告人の公判供述は採用の限りでない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんには私の所見から、子宮筋腫で後屈している事、右卵巣は鶏卵大に近く肥大している事、左は右の半分位の肥大である事、腹腔内に血液状ある事であるため、すぐ入院して手術した方がいいという事を説明したと思います。問 患者は、理事長から、左の卵巣が腫瘍、お腹に水が溜まっている、放っておけば命取りになる、すぐ入院しなさいと説明を受けたというがどうか。答 私の所見では、左右とも卵巣が肥大しているので、卵巣腫瘍があると云っています。腹腔内に血液状のものがあるのでお腹に水が溜まっていると云っています。したがって入院して手術する様に勧めたはずでありますが、すぐ入院しなさいという事は云っていないと思います」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二三日付供述調書)、また、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、子宮後屈、左右の卵巣のう腫、腹腔内に血と水が混じった腹水ありという異常が発見されたことが判ります。」「そこで、私は、この患者に、ひきつづいて行われたコンサルの際、この病名を告げたうえ、治療方法としては、子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめているハズです。問 そのような手術を必要と判断した理由は何か。答 今、見せてもらった写真や所見をみると、この患者の子宮筋腫は、手拳大、左の卵巣のう腫は、その半分位の大きさであることが判りますので、手術をすすめて当然だと思います。このように、私が、この患者に超音波検査の結果判明した病名や症状を告げたり、入院・手術をすすめたことは、コピーの所見の一番下に、私が、本人には上記のMEの通り申しておきました、OPE(手術)が必要のこと説明す、と書いてありますので、間違いありません。その上のところに、コンサル用紙などをまわさない儘患者を送ってきたD子先生に、そのようなことはしないよう注意を書いています。このように、超音波検査の結果、判明した病名や症状を患者に告げたり、入院や手術をすすめたのも私独自の判断によるもので、D子先生やB先生などの医師に相談したうえでのことではありませんでした。この場合コンサル用紙が届いていなかったのですから、私が超音波検査をして判断したうえで、患者に話したのです。」と述べている(検察官に対する同月二七日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫、腹腔内に血状がある等と診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣嚢腫と子宮筋腫がある。お腹に水が溜まっている。入院して手術を受けた方がよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(39) 訴因番号39の患者について

ア 患者(別表番号39の患者)は、人工妊娠中絶を受けるため、昭和五三年九月一一日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮は、高度の後傾後屈、膣内容物白色増量(膣炎?)、両側の附属器は触知し得ない。」というものであり、同医師は、子宮の状況を明らかにするため、医事相談指示票に、「①妊娠二か月(?)。人工妊娠中絶希望しております。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮膣部筋腫、妊娠。子宮内は妊娠二か月初めの状況で活動している。尚、子宮膣部が大きく硬い、これは子宮膣部筋腫で、頸管の中間まで突き出している状態です。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「一般的中絶は危険が大であるから出来ない。筋腫や子宮の内容が悪いので此の際入院し検査して其の後の方向を決める事が望ましいと説明し、主人とよく相談して返事をしました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同月二五日同病院に入院し、C子医師により掻爬手術を受け、同月二九日退院したが、その後西埼玉病院で診察を受けたところ、卵巣に異常は認められず、子宮筋腫も進んでいないとの診断結果であったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「黒板等に図解しながら、卵巣が倍になっている、すぐに手術した方がよい、手術しないと一〇年後に命がなくなるから早く、子宮筋腫もあるね、ご主人と相談して成るたけ早く手術した方がよい、費用は五〇万円などと告げられて、入院の上、子宮筋腫部分の切除手術を受けるよう強く勧められたが、人工妊娠中絶の話はなかった。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、人工妊娠中絶後、筋腫があるのでこのまま入院治療したらどうか、よく担当医と相談して、一応退院するなら外来で経過みてもらって下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師のコンサル指示には記載されていないが、患者の年齢から考えて、この年齢層の患者には子宮筋腫を併発していることがよくあり、その場合、特に妊娠中絶をすることは危険なので、その前提として入院精査を勧めるよう指示されたと思った。ME検査を実施したところ、子宮膣部筋腫との所見を得たので、その旨C子医師に報告すると、同医師が子宮の状態についてもよく説明して欲しいと指示したので、患者には、中絶は一般的に危険が大きいからできない、筋腫と子宮の内容が悪いので、この際、入院をして子宮の状態を検査し、その後に妊娠中絶をするかどうか決めることが望ましい、今後どうするかご主人とよく相談して決めるようにと話し、卵巣手術のことも説明した。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年九月一一日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、筋腫であり、子宮の内容が悪いので入院し検査して今後の方向を決めるのが望ましいと告げた旨記載されているところ、右患者の筋腫の疾患については、被告人のME所見に子宮膣部筋腫と記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、患者に子宮膣部筋腫のことを告げたのは、C子医師の再指示があったからであると述べているが、C子医師は、被告人が右に弁解するような再指示をした事実はないと明確に述べ、被告人自身も、捜査段階において、担当医師からの再指示に基づいて患者にコンサルを実施した事実のないことを認めているものであって、右被告人の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者の所見からみて、妊娠二か月である事、筋腫がある事を説明する一方、筋腫が頸管部までつき出しているので通常の中絶手術では危険だから、入院して手術を受けなさいという事を説明しているはずです。問 患者は理事長から、貴女は悪いですよ。妊娠しているし、子宮筋腫です、このまま入院して手術しなければ一〇年位しか生きられないと説明を受けたというがどうか。答 おおむね、患者のいうとおりと思いますが、一〇年位しか生きられないという事は私は云っていないと思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月一六日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮膣部筋腫、妊娠等と診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「妊娠二か月である。子宮筋腫がある。筋腫が頸管部まで突き出しているので、通常の中絶手術では危険である。入院して手術を受けなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(40) 訴因番号40の患者について

ア 患者(別表番号40の患者)は、以前二回流産し、生理が不順であったため、昭和五三年七月一〇日から富士見産婦人科病院に通院し、外来患者としてC子医師の診察を受け、膣の洗浄等の処置を施されていたが、同年九月一八日にも同病院に通院し、同医師の診察を受け、その内診所見は、「子宮前傾前屈、やや大きい。両側附属器は触れない。子宮膣部ややビランあり。膣内容物白く増量している。」というものであり、同医師は、生理不順の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①メンス不順です。過去二回自然流産しており、子供はありません。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、ME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「卵巣嚢腫。両側卵巣は完全なのう腫、ピンポン玉大型の肥大。左は特に炎症的水包性の肥大、内容悪い。右、左に同型の様にやや小型ですが、血溜腫の炎症で悪い。※子宮は肥大量すくないが、硬く筋腫的である。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「卵巣が悪いので、卵巣手術が必要の事申し説明す。出来る限り早く入院、主人とも来院する様申しておきました。来院したら当方へ。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同日、入院手続をして帰宅したが、その後、国立西埼玉病院で診察を受けたところ、子宮はやや小さいものの、異常は認められないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「卵巣が悪く、一方は大分前から悪いのではないですか、子供が欲しいなら今すぐ手術をした方がよい、全部取るわけにはいかないから、悪いところだけ切るなどと告げられて、入院の上、卵巣嚢腫部分の切除手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、二回流産しているのは卵巣が悪いかも知れない、入院検査が必要かも知れないので、担当医と相談しておくから、御主人を連れていらっしゃいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果、患者に卵巣嚢腫が見られたので、C子医師にその旨連絡したところ、同医師から、卵巣嚢腫がかなりひどいようなので、手術の点を含めて説明しておくように指示された。そこで患者に、二回流産しているのは卵巣が悪いためだと思われる、出来るだけ早く入院して検査して下さい、結果によっては手術も必要となりますが、その点は担当医とよく相談して下さいと話した。ME写真コピーの余白に記載したことは、そのまま患者には伝えていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年九月一八日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、卵巣が悪いので卵巣手術が必要であることを説明した旨記載されているところ、右患者の病状・病名については、被告人のME所見に卵巣のう腫と記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、C子医師の再指示を受けて本件コンサルを実施したと述べるが、同医師自身コンサルの再指示をしたことを明確に否定し、被告人も捜査段階において同医師の再指示に基づいて患者にコンサルしたのでないと供述しているものであって、右被告人の公判供述は採用の限りではない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんには、両側の卵巣がのう腫である事、子宮も筋腫状と説明したと思います。又コンサル用紙には、相談課説明内容で、卵巣が悪いので卵巣の手術が必要、出来る限り早く入院しなさいという様にコンサルした旨書いてあるので、この様に患者さんに説明しています。問 患者は、理事長から、これじゃ子供が出来ない、両方の卵巣が悪い、子供が欲しければすぐ手術して悪い所を取れば大丈夫だと説明されたと云うがどうか。答 私の所見からもその様に判定出来たのでこの様な事は説明しております。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二三日付供述調書)、また、「超音波検査の結果、この患者には、両側卵巣のう腫、筋腫様子宮という病気が発見されたことがわかります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、この患者に、これらの病気や症状を告げたうえ、両側卵巣の部分切除手術をすすめているハズです。このように、超音波検査の結果、あらたに判明した病気や症状を患者に教えたり、入院・手術をすすめたのも、私の独自の判断によるもので、医師などと相談したうえでのことではありませんでした。この後、この患者は、ご主人と一緒にもう一度相談にくるということで、その侭帰っています。」と述べている(検察官に対する同月二八日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、卵巣嚢腫等と診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「これでは子供が出来ない。卵巣が両方とも悪い。子供が欲しければ、すぐ手術して悪いところを取れば大丈夫だ。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(41) 訴因番号41の患者について

ア 患者(別表番号41の患者)は、帯下があり、子宮癌の不安を抱いて、昭和五三年一〇月二日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮は後傾後屈、やや大きく硬い、圧痛あり。両側附属器は触知し得ない、頸管ポリープ(+)、子宮膣部ややビラン症あり、膣内容物白色。」というものであり、同医師は、子宮の状態を明らかにするため、医事相談指示票に、「①メンス不順(二~三か月~八か月に一回)。②帯下の訴えで来院しましたが、子宮がかたくて大きいようですし、頸管ポリープがあります。③出来れば入院精査した方がよろしいかと思われます。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮筋腫及び両側卵巣嚢腫、左は鶏卵に近い肥大で炎症多い。右はピンポン大の肥大で嚢腫、子宮は極度に後屈して肥大している。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「入院精査、全摘目的と説明す。本人は他院診断を行ってもらっている。所沢斉藤病院では一般の医者なら切られてしまいますよと申されたとの事。この事は本当に申したかは解らないが手術必要性に対する説明は短に切れてしまうなどの軽率のものではない事を説明す。相談して自分が手術しよう検査しようと思ったら来院する様に申しておいた。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後防衛医大で診察を受けたところ、子宮等に異常は全く認められないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「ME写真を示しながら、子宮筋腫が大分大きくなっていて、卵巣も両方とも腫れて大変悪くなっている、卵巣が卵大の大きさになっている、このまま放っておいたら三か月で歩けなくなってしまう、早く入院して手術した方がよいなどと告げられ、入院の上、子宮筋腫と卵巣嚢腫の全摘手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮がかたくて大きいようだし、入院検査の上全摘した方がよいと思う、一応手術の必要性をお話ししておきますが、担当医とよく相談し、ご自分で入院する気になったら来院して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師の指示内容は、子宮が硬くて大きいようで頸管ポリープがあり、子宮筋腫の疑いがあるので、入院精査を勧めて欲しいとのことであったため、その指示に従い、患者に、その旨説明して結果いかんでは全摘手術もありうることを話し、御主人や担当医と相談して、自分で入院する気になったら来院して欲しいと話した。ME検査の結果、両側の卵巣嚢腫であるとの所見を得て、ME写真の余白に記載しているが、これは担当医に報告するためであり、そのまま患者には伝えていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一〇月二日付相談課説明内容欄には、前記のとおり記載されているが、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫については、担当医師の内診所見では子宮筋腫の疑いであり、右ME所見のように子宮筋腫と断定しておらず、また卵巣嚢腫については何らの記載もないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんの所見からみて、子宮筋腫のある事、卵巣嚢腫がある事、子宮が後屈している事を説明するとともに病状からみて、入院・手術が必要である事を説明しているはずです。問 患者は理事長から、卵巣は両方ともだめだ、子宮筋腫が大きくなっていると説明されたというがどうか。答 症状からみてそのとおりの事を説明する一方、全摘手術した方が貴女の為にもいいですよという事も話しています。問 患者がそんなに悪いんですかと質問したところ、もう三か月もたてば歩けなくなるよと説明されたというがこの点はどうか。答 悪化するという事は云っていると思いますが、歩けなくなるという事までは云っていないと思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月一六日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・病状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫が大分大きくなっていて、卵巣も両方とも腫れていて大変悪くなっている。左の卵巣が卵大の大きさになっている。早く入院し、全摘手術をした方がよい。このまま放っておくと悪化する。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(42) 訴因番号42の患者について

ア 患者(別表番号42の患者)は、帯下があり、癌の検査を受けるため、昭和五三年一〇月三日富士見産婦人科病院を訪れ、B医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、大きさ超手拳大、硬さ硬い。両側附属器触知困難、妊娠着色なし、ビラン少々あり、分泌物白色性。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「(1)子宮筋腫及卵巣嚢腫(子宮膣部ビラン症の疑い)。(2)ME検査御依頼、過去いろいろの病気をしており大変なケースです。△上記の上御話し合い御願いたします。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右B医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮は後屈して筋腫で凸状多い。両側卵巣は水包状の肥大で、子宮上部で肥大し、五・八~六・二センチ大の大きさで、その周囲は腹水が溜まって居り、左卵巣の卵管から卵巣の付け根部分に悪性状の映像があり、内容は最高悪い状況。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「上記の様に種々の病気を行っている。一応入院して検査を行って置いて見るが、その状況で手術が決行出来るか否かお相談することが可と申しておきました(内容は卵巣OVの様です)。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後防衛医大で診察を受けたところ、子宮筋腫は認められるものの、卵巣は異常は認められないし、水が溜まっている事実もないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「ME写真を示されながら、あなたはおなかに水が溜まっているし、子宮がよくない、卵巣も悪い、子宮筋腫ができている、入院した方がいいね、などと告げられて、入院するよう勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫、卵巣嚢腫があるが、いろいろ病気があるので入院して検査した方がよいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「B医師のコンサル指示にしたがい、今までいろいろな病気をしているようだし、子宮も卵巣も悪いようだから、入院してまず検査をしてみましょう、その状況で手術した方がよいかどうか担当医とよく相談してみることがよいと話しただけで、腹水がたまっているとは告げていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一〇月三日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、腹水については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者には、子宮筋腫、両側卵巣嚢腫、子宮後屈、腹水、左卵巣にがんの疑い、という病気あるいは異常が発見されたことがわかります。」「そこで私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、患者にこれらの病名や症状を説明したうえ、入院検査をすすめているハズです。このように超音波検査の結果あらたに判明した病気や症状を患者に説明したり、入院をすすめたのも、私独自の判断によるもので、医師などと相談したうえでのことではありませんでした。」と述べている(検察官に対する昭和五五年九月三〇日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫の疾患のほか腹水が溜まっている等診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮と卵巣が悪い。おなかに水がたまっている。筋腫もできている。精密検査のため入院して下さい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(43) 訴因番号43の患者について

ア 患者(別表番号43の患者)は、妊娠の有無を確認するため、昭和五三年一〇月一三日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、超鵞卵大、下手拳大、両側附属器触知し得ない、頸管内容物異常なし、子宮膣部小さい、リビド色(±)。」というものであり、同医師は、妊娠の状態を明らかにするため、医事相談指示票に、「①妊二か月(末)にしては子宮が大きいようです。筋腫合併しているのでしょうか。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、妊娠、妊娠の状態は、二か月約半に入ったばかりで、胎心は未だ発信しない。あと七日後程度で発信の状態、体位などの確立は良好の状況にあり、妊娠は正常と見て可。◎但し図表の様に筋腫様が子宮膣部上下に肥大し、特に下部に在る筋腫は四・五センチ~六・二センチ大の肥大となり、その上部に妊娠し、子宮は増大して居る。◎子宮内口の開大があります。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「上記の様に筋腫合併し子宮は異様に増大して居る。子宮内口の開大がある。そのため患者の年代が年代のため、切流防止入院の説明をしておきましたが、再び外来に戻しますので、入院明日一〇月一四日午前一〇時と予定しましたのでご配慮下さい。入院許可指示下さい。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その翌日青山病院で診察を受けたところ、妊娠しているが流産の心配はないし、入院の必要もないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「黒板に図解しながら、子宮筋腫です、流産しそうですからすぐ入院しないと子供か母親のどちらかが死んでしまうなどと告げられ、入院の上、手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、妊娠月数に比しては子宮が大きい、筋腫合併が原因のようだ、年齢も考えて切防(切迫流産防止)のため入院した方がよいと思うが、入院についてはもう一度外来にもどって担当医と相談して指示を受けて下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「相談課説明内容欄の上記のように筋腫合併し、子宮は異様に増大しており、子宮内口の開大があるとの記載部分は、患者に話した内容ではなく、ME検査の所見を私の意見として書いたもので、C子医師に宛てたものである。患者に、子宮筋腫ですなどと病名を断定的に告げてはいないし、すぐ入院しないと死んでしまうなどと患者を混乱させるようなことは言っていない。また、コンサル前C子医師と特に打合わせをしたかも知れない。」などと述べて、患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一〇月一三日付相談課説明内容欄の記載から、被告人が患者に切迫流産を防ぐため入院するように告げたことは明らかであるが、その余の記載事項については、これを患者に告げたかどうか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫については、担当医師は子宮が大きいことから子宮筋腫が合併しているのではないかという疑いを抱いたものであり、右ME所見のように子宮筋腫があると断定したものではなく、また、切迫流産については内診所見にも何の記載もないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、本件コンサル前にC子医師と特に打ち合わせを行ったかのような供述をしているが、同医師の供述、被告人の捜査段階における供述等に照らし、とうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「患者さんには、この検査の結果を医師の判定を受けないで、私だけの判定で病名や症状、治療方針等を説明したのです。この患者の所見からみて、子宮筋腫がある事、子宮経管部が開大しているので、その手術が必要である事を説明しているはずです。問 患者は理事長から、子宮筋腫ですよ、妊娠している子供は入院して手術しなくてはならないかも知れない、とり合えず入院しなさい、入院しなければ子供か親のどちらかが死んでしまいますよと説明されたというがどうか。答 この中で一点だけ私は患者に云っていない事があります。それは『親が死ぬ』という点であります。流産すれば、子供がだめな事はあたりまえな話です。親まで死ぬ事はありません。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月一五日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、正常妊娠とみてよいが切迫流産のおそれがある等と診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫がある、妊娠している子供は入院して手術しなければならないかもしれない。とりあえず入院しなさい。入院しなければ子供が死んでしまう。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(44) 訴因番号44の患者について

ア 患者(別表番号44の患者)は、不正性器出血があったため、昭和五三年一〇月二五日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師から診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、やや大きく丸い。圧痛(+)。両側附属器触知し得ない、子宮膣部ビランあり、頸管分泌物出血性、リビド色(±)。」というものであり、同医師は、不正出血の原因等を明らかにするため、医事相談指示票に、「①メンス全く不順で一〇月五日から不正出血続いています。九月(-)、八/一三~六日(メンス)、腹痛(-)。②過去七回位人工妊娠中絶くりかえし子供ありません(未婚です)。③子宮やや大きめで丸く圧痛(+)です。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮内には異物が混入して居り、左卵巣は嚢腫様ですが、外妊の疑いもある映像が浮かぶので要注意。子宮は筋腫もありますが、炎症的で内容は悪い。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「入院・検査する様申しておきました。外妊とか卵巣嚢腫とか左側や子宮も悪いので結論は出せない、入院検査が良いでしょうと申しておきました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、翌二六日、同病院に入院し、同月二八日再度被告人からME検査を受け、同月三〇日退院したが、その後防衛医大でME検査を受けたところ、卵巣には異常が認められないとの診断結果であったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「左の卵巣が腫れている、子宮外妊娠だ、手術をしないとあなたの命はない、明日入院しなさいなどと告げられ、入院の上、手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、一〇月二五日に、出血の原因は、結論はなかなかむずかしいので入院検査して下さいと告げ、同月二八日には、稽留流産のようですので、子宮内清浄のため、承諾書と同意書を下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師のコンサル指示の内容から、この患者は多分に子宮外妊娠及び子宮筋腫等の疑いがあるので、入院精査を勧めるためにコンサル指示をしたものと理解した。ME検査を実施したところ、左側の卵巣嚢腫の所見を得たので、この結果をC子医師に報告してコンサルで説明するかどうか尋ねると、卵巣の状態についてもよく説明して欲しいとのことであったため、患者に、子宮外妊娠の疑いがあり、また卵巣嚢腫の疑い、特に左側の卵巣が悪く、子宮の状態も悪いので、入院して検査を受けるように説明した。患者に、子宮外妊娠であると断定的に告げていないし、精査する必要があると言って入院を勧めたのであり、手術をしなくちゃ命がなくなると言って入院を勧めたことはない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一〇月二五日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、子宮外妊娠の疑い、卵巣嚢腫の疑い、左側卵巣、子宮も悪いので入院して検査を受けるように告げた旨記載されているところ、右患者の病状・病名のうち、子宮外妊娠の疑いや卵巣嚢腫の疑いについては、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、C子医師の再指示にしたがって本件コンサルを実施した旨供述するが、同医師自身、「内診の結果では外妊だとか卵巣嚢腫で左側の子宮が悪いという所見はなく、被告人に具体的な病名・病状あるいは治療方針等を指示していない。ME写真コピーに記載されている病名・病状は、被告人がME検査により新たに発見したものである。」旨供述して、被告人に対して再指示したことを明確に否定し、被告人も、捜査段階で、本件コンサルについてC子医師から再指示を受けなかったことを認めているものであり、右被告人の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんには、子宮筋腫がある事、子宮外妊娠の疑いがある事、卵巣嚢腫がある事を所見からみても説明しています。又この様な状況ですとすぐ入院して検査する必要があるので、入院しなさいと勧めたはずです。問 患者は、理事長から、左の卵巣が腫れている、子宮外妊娠かも知れない、このまま放っておくと死んでしまう、検査の為明日入院して下さいと説明されたというがどうか。答 おおむねこんな事を云っているはずですが、子宮外妊娠の場合は生命も危なくなるので、子宮外妊娠であれば死んでしまうと云ったと思います。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二四日付供述調書)、また、「お示しのコピーに書いた私の所見を見ると、この患者には、子宮内異物混入、左卵巣嚢腫、子宮外妊娠の疑い、子宮筋腫があったことが判ります。」「このような病気が発見されたため、私は、相談課説明内容に書いてある通り、この患者に、これらの病気のことを説明して、入院検査をすすめました。又、検査の結果、手術をした方が良いとすすめています。もし、この患者が、その侭入院もしなかったら子宮外妊娠の場合、生命にかかわりますが、そのことも患者に説明して入院をすすめていると思います。このように病名や症状を患者に説明したり、入院をすすめたのも私が超音波検査した結果を独自に判断したうえでのことでした。コンサルをするうえで、C子先生などの医師には相談もしない侭、患者に病名や症状を教えたり、入院をすすめたりしました。又場合によっては手術した方が良いと言っています。」と述べている(検察官に対する同月二六日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、卵巣嚢腫の疑い、子宮筋腫、子宮外妊娠の疑い等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「左の卵巣が腫れている。子宮外妊娠かもしれない。子宮外妊娠であれば死んでしまうでしょう。明日入院しなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(45) 訴因番号45の患者について

ア 患者(別表番号45の患者)は、不正出血があったため、昭和五三年一〇月二六日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてD子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮筋腫、子宮膣部ビラン、子宮鶏卵大、硬さ硬い、大きなビランあり、子宮膣部と子宮が同じ大きさに肥大。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「(1)子宮筋腫(+)、子宮膣部ビラン。(2)二一日より三日間不正出血があったそうです。子宮膣部のビランがひどくて、子宮と同じ位に肥大して居ます。入院精査が望ましい方です。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右D子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮筋腫及両側卵巣嚢腫、左ピンポン大の嚢腫、右はやや小型ですが、炎症的で皮包は硬いが嚢腫、子宮は本体の上に筋腫が凸状に肥大している。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「上記の通り、なおMEでも同様にて説明す。手術については、しておいた方が良いでしょう、但し入院検査の上と申しておいた。また入院検査の決心つかない場合はビランにて毎日外来通院が可と申してあります。御配慮下さい。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後防衛医大でME検査を受けたところ、子宮等に異常は全くないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「子宮筋腫と卵巣嚢腫だからすぐ入院して手術をするように、それに手術をすれば肌もきれいになるし、いい機械も入っているからなどと告げられ、入院の上手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫、子宮膣部ビラン、ビランもかなりひどいので、入院検査が望ましい、入院検査の上、手術については担当医と相談した方がよいと思うが、入院の決心がつかなければ、ビランの治療だけは外来通院した方がよいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「D子医師の指示にしたがい、認否書記載のように話しただけで、ME検査によって判明した卵巣嚢腫のことは、D子医師から指示がなかったので直接患者に告げていない。「患者に対し、すぐ入院しなさいなどとは言っていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一〇月二六日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、右指示票の指示のとおり、なおMEでも同様にて説明すと記載されているものの、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対し具体的にいかなることを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「コンサル用紙に書かれていない病名や病状をME所見に書いてある通りコンサルで患者に説明してやりました。勿論今までと同様、一々医師と連絡を取り合ってコンサルしたのではなく、私独自で診断した結果をその侭コンサルで患者に説明してやったのです。」と述べている(検察官に対する昭和五五年一一月二日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫及び両側卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣嚢腫である。すぐ入院して検査のうえ手術を受けた方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(46) 訴因番号46の患者について

ア 患者(別表番号46の患者)は、妊娠の疑いがあったため、昭和五三年一〇月二八日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてB医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾右屈、大きさ鵞卵大、部分的に硬く、部分的に柔らかい。両側附属器触知困難、リビド色なし、ビランあり、分泌物暗赤色、ゴナビス検査(-)。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「(1)子宮筋腫及卵巣嚢腫の疑い、子宮膣部ビラン症―出血少々。(2)ME御依頼file_13.jpgちなみにゴナビス(-)でしたが「妊」の方も?。△上記の上入院精査御外交御願い致します。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右B医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮筋腫及両側卵巣嚢腫、左卵巣は三・四センチ大の嚢腫の様ですが、血溜多く、炎症的で、ややもすると外妊の疑いも他かならない。なを子宮内には異物混入、これは血液状です。右卵巣は特に肥大していないが、一般状態ではない嚢腫。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「一応入院検査の上でと申しておきました。カラテ初段、道場経営などで練習多く、何んでもないと思っていたとの事ですが…一応事実は事実で、それに基いて検査の上でどうするかは決めてもらうように(先生)と申しておきました。」等と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同月三一日、同病院に入院して検査を受けたが、手術を受けないまま、同年一一月三日に退院し、その後防衛医大で診察を受けたところ、子宮や卵巣に異常はないとの診断結果であったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「子宮、卵巣が腐っている、子宮筋腫があって普通の人よりひどい、瘤みたいのができて回りが普通の筋腫よりひどい、入院をして詳しく検査した方がよい、うちには沢山よい機械があるから、とにかく検査をしなさいなどと告げられて、早く入院して手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮膣部ビランがあるようだ、一応入院検査をし、検査の結果担当医とよく相談して、先生にどうするか決めてもらったらよいと思うと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「B医師のコンサル指示は、子宮筋腫、卵巣嚢腫の疑い、子宮膣部ビラン症で出血少々あり、精査のため入院を勧めて欲しいという趣旨であり、この指示にしたがい、認否書記載のように患者に話しただけである。ME検査の結果、B医師の初診と同じく子宮筋腫と卵巣嚢腫がみられたが、MEの結果とコンサルの内容とは直接関係がない。患者に、腐っているとか、瘤みたいなのができてなどとは言っていない。」などと述べて、患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一〇月二八日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫及び卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にもその疑いとの記載があるものの、右ME所見のように子宮筋腫及び卵巣嚢腫の疾患があると断定まではしていないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「コンサル用紙には、子宮筋腫、卵巣嚢腫の疑いと主治医のB先生から連絡があり、精密検査の為に入院を勧めて下さいという内容でしたが、私がこの患者さんに対し超音波検査した結果、子宮筋腫のある事、両側の卵巣にも嚢腫のある事、左は血溜多く炎症的という事、外妊も疑わなければならないという事、子宮内には血液状の異物が混入している事が確認出来たので、これを医師に判定してもらわず、その場でこの内容をコンサル用紙に書いてある以上に説明したわけです。先生は疑いという事だったのですが、私がはっきり判定して伝えてしまった事はまずかったと思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年九月二二日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮に筋腫があり、両側の卵巣に嚢腫がある。すぐ入院して検査をした方がよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(47) 訴因番号47の患者について

ア 患者(別表番号47の患者)は、生理不順と腹痛があったため、昭和五三年一一月二日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、高位、やや大きめで固い。両側附属器触知し得ない。子宮膣部ほぼ所見なし、ややビランあり、膣内容物白色性、少々出血。」というものであり、同医師は、子宮の状況を明らかにするため、医事相談指示票に、「①下腹部重苦しいこととメンスが二週間も続く(一か月毎に)との訴えで来院。②子宮やや大きめのようですが、かなり上方に位置していてふれにくいです。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施したが、機械取り付け工事のため検査を途中で切り上げた上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮は後屈して前屈の状態に見えるのは筋腫様で凸部本体は筋腫で極度に下がって居て、左卵巣は炎症性でピンポン大型大。右は卵管溜水腫の一種があり、それに連なって嚢腫で炎症は弱いが、肥大は左よりやや大きい。」などと記載し、また右ME検査を打ち切った後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「来週今一度外来に来院して先生とも相談するよう申しておきました。なを子宮筋腫及両側卵巣嚢腫あり、入院検査が良いと思いますが先ず一応来週来院して先生からの指示で相談をした方が良いと申しておきました。ME中工事の人が居り、その上秘書が二人前に出て見て居り何んとなく気分が悪く成って感情的に成っておこり出したが、良く申して気を鎮めて説明す。file_14.jpgこれもあと三〇分待ってくれるようお話したが時間の都合あり待てないとの事にて、急いでやって上げたら途中でおこり出した。ME室に入る前から顔色おかしく入りましたが、OVの関係かも知れません。最終的には了解して帰った。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同月一三日、三楽病院で診察を受けたところ、卵巣等に異常は認められないとの診断結果であったため、同日再度富士見産婦人科病院を訪れ、C子医師の診察を受けて確認すると、異常は認められないとの結論であったため、以後同病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「半分しかやっていないけれど、子宮筋腫と卵巣嚢腫だから入院して早く手術をしなさいなどと告げられ、夏休みにして欲しいと申し出ると、そんなに待っていたら大変だ、子宮が腐る、腰が曲がってビッコを引いて道を歩いている女の人のようになる、午後疲れるでしょう、イライラするでしょう、そういうのは全て卵巣・子宮筋腫からきているといわれ、入院の上、手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮が大きいようなので、入院検査した方がよいと思うが、来週もう一度外来に来て担当医と相談してみて下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師のコンサル指示から、子宮筋腫を疑っていることが判った。ME検査の結果子宮筋腫と両側卵巣嚢腫を認め、相談課説明内容欄にもその旨記載したが、これはC子医師に対して報告したものであって、その内容は患者に告げていない。あくまでMEはME、コンサルとは別のものである。患者には、来週もう一度外来に来て担当医と相談してみて下さいと話しただけであり、子宮筋腫と卵巣嚢腫だから入院して早く手術をしなさいとは言っていないし、子宮が腐る、夏休みまで待ったら大変だなどと言う筈がない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一一月二日付相談課説明内容だけからは、子宮筋腫及び両側卵巣嚢腫の疾患について患者に告げたかどうか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫については担当医師の所見にはその疑いを抱かせる記載があるものの断定はしておらず、また卵巣嚢腫については何らの記載もないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者の所見からみて、子宮筋腫で後屈している事、卵巣(両方)嚢腫である事、卵管に溜水腫がある事を説明する一方症状からみて、手術する必要がある事を説明しているはずです。問 患者は、理事長から、卵巣嚢腫と子宮筋腫ですぐ入院しなければ駄目だと説明を受けたというがどうか。答 患者の話しているとおりの事を説明しているはずです。問 更に患者は、来年の夏休みではだめかと質問した事に対し、子宮が腐っちゃう、命も危ないと説明されたというがどうか。答 腐ってしまうとか、命が危ないとずばり云ったのではなく、悪化するという意味合いの事を云ったのだと思います。問 更に患者は、冬休みではどうですかと質問した事に対し、いやそれほど待たない方がいいと云ったというがどうか。答 患者は、いろいろ話しをしている間に極度に興奮するので、卵巣からでも来ているのじゃないかと思ったので、早く手術した方がいいと思ったのでその様に云ったものです。この患者を検査中、電気工事人が入って来た為に、患者がおこったので、私もよく覚えている患者です。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月一九日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・病状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫、卵管溜水腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣嚢腫と子宮筋腫である。すぐ入院しなければだめだ。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(48) 訴因番号48の患者について

ア 患者(別表番号48の患者)は、生理不順と下腹部に膨張感があったため、昭和五三年一一月四日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、ほぼ手拳大、可動性不良、圧痛(+)。子宮膣部正常。」というものであり、同医師は、子宮の状況を明らかにするため、医事相談指示票に、「①メンス遅れて(九月二二日から七日)下腹部つっぱる感じで来院。②過去二回帝切分娩(S三九、S四三)しており、S四三卵管結紮しておりますが、本人メンス来ないので心配しています。③子宮は癒着の為か上方に上って大きめです。癌も心配との事、精査(内膜その他)の為入院必要と思われますが……。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮筋腫及び両側卵巣嚢腫。左卵巣は鶏卵大型大の嚢腫。右はピンポン大の肥大嚢腫。子宮筋腫は中程度ですが、その周囲は癒着多い。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「一一月八日(水)主人と説明伺いに来て相談するとの事です。一応上記の様に説明手術しておきました。(午前中)来院したら当方。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後国立西埼玉病院で診察を受けたところ、子宮及び卵巣に異常は認められないとの診断結果であったため、以後、富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「子宮筋腫、卵巣の中間が腫れている。進んでいるから一週間内に手術した方がよい、現在は悪いが、入院して手術すれば顔色が良くなるなどと告げて、早く入院して手術を受けるよう勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、癒着がひどいので入院し、内膜検査も必要ですと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「患者には、C子医師から指示された内容を説明して、特に癒着がひどいので、入院の上検査をした方がよく、検査結果では手術があり得ることを告げただけである。患者に子宮筋腫であるとは言っていないし、入院して検査をした方がいいとは言ったが、一週間以内に手術をした方がいいとは言っていない。また、ME検査の結果卵巣に異常が認められたが、患者には告げていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一一月四日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫については担当医師の内診所見ではその疑いを抱かせる記載があるが断定しておらず、卵巣については疾患があるとの記載が全くないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんについては所見からみて、子宮筋腫のある事、両方の卵巣嚢腫のある事、子宮の周囲に癒着がある事を説明しているはずで、病状からみて、すぐ入院して手術しなければならないと説明していると思います。問 患者は、理事長から、子宮筋腫がある、卵巣の中間が腫れている、すぐ手術しなければならない、手術すればきれいになる、入院は一か月位かかると説明されたというがどうか。答 卵巣の中間が腫れているという事は所見からみてもそのような様子がないので云っていないと思います。その他は患者の云うとおりの事を云っています。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二八日付供述調書)、また、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、両側卵巣嚢腫という病気が発見されたことがわかります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、この患者に、これらの病気や症状を告げたうえ、子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめているはずです。患者に、このように超音波検査の結果判明した病気や症状を教え、入院や手術をすすめたのも、私独自の判断によるものでした。この患者は、私に入院・手術をすすめられた後、ご主人と一緒にもう一度相談にくるということで、その侭帰って行ったことが、コンサル用紙の説明内容でわかります。」と述べている(検察官に対する同日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫で卵巣嚢腫である。すぐ入院して、手術しなければならない。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(49) 訴因番号49の患者について

ア 患者(別表番号49の患者)は、昭和五三年一〇月一六日に富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者として診察を受けたところ、妊娠二か月半との診断結果であり、その後同月三〇日及び同年一一月一三日同病院に通院してC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、同年一〇月一六日付が、「子宮後傾後屈、やや大きく柔らかい。両側附属器触知し得ない。子宮膣部ビランあり、リビド色(+)。膣内容物白色性。」、同月三〇日付が、「子宮後傾後屈、鵞卵大、両側附属器は触れない、圧痛なし。子宮膣部ビラン症。」、同年一一月一三日付が、「昨日より腹痛あり。子宮前傾前屈、超鵞卵大、圧痛なし。妊三か月(一〇週六日)。」などというものであり、同医師は、同年一一月一三日、腹痛の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①妊三か月(中)でドップラーfile_15.jpgです。昨日から腹痛ありとの事、臍部中心の痛みのようで子宮とは離れていますが、ビランから出血もあります。②自宅安静にするようお話し下さい。不可なら入院した方がいいでしょう。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、ME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「正常妊娠、右側卵巣嚢腫、胎児胎盤の状況は一般的で胎心の活動も正常、右卵巣は鳩卵大型大の嚢腫あり、炎症の状況がある、妊娠の状態は正常の発育。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「入院は不可のようで、上記の様に家で安静し、来週(月)外来再としました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同月二八日C子医師より子宮縫縮手術を受け、同年一二月九日退院したが、その後、平間病院で診察を受けたと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「ME写真を示し、黒板に図解しながら、卵巣が腫れています、入院した方がいいなどと告げられた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、一一月一三日に、腹痛やビランからの出血もあるので安静が必要、自宅安静がむずかしければ入院した方がよい、自宅安静とするなら来週担当医の外来にきて指示を受けて下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師の指示どおり患者にコンサルを実施したところ、患者は、入院は出来ないから何とか自宅で安静にしていると言うので、それではそのとおりにして来週外来に来て下さいと話しただけである。コンサル当日ME検査を実施したが、このME検査の結果を患者に話したのではなく、C子医師のコンサル指示にしたがった話しをしたにすぎない。患者に、卵巣が腫れているとは告げていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一一月一三日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち右側卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、正常妊娠であるが、右側卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣が腫れている、入院した方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(50) 訴因番号50の患者について

ア 患者(別表番号50の患者)は、避妊リング挿入のため、昭和五三年一一月一六日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師から診察を受けたが、その内診所見は、「子宮後傾後屈、やや大きく圧痛なし、両側附属器触知し得ない、子宮膣部強度ビランあり、膣内容物は白色性で増量。」というものであり、同医師は、子宮の状況を明らかにするため、医事相談指示票に、「①避妊リング希望して来院。今迄コンドームで避妊して来たとの事です。子供二人あります。ビランfile_16.jpg。②腹キン強くて子宮の大きさはっきりしません。MEで異常なければ、リング挿入しましょうか。出来れば異物は入れない方がいいと思いますが、どうでしょう。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮は筋腫ですが、肥大量は特大でなく中程度で極度に後屈して居る。両側卵巣は嚢腫、特に右卵巣鶏卵大に近く肥大し、左はやや小型ですが水包性肥大。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「手術する様な気持は今はありませんので、一応外来通院し、ビランの治療等で様子を見て載くよう説明す。来週(木)外来としましたので、当分外来治療をすすめてみて下さい。卵巣、筋腫などの説明しておきました。リングは挿入しない方が可、筋腫もあるので等説明す、ご配慮下さい。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後防衛医大で診察を受けたところ、子宮等に異常は全くないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「右ME検査を実施するに先立ち、同室において、いきなり、何も知らないのですか、子宮筋腫なんですよといわれ、さらに同検査終了直後、子宮筋腫と卵巣嚢腫です、卵巣は鶏卵大で、すぐ手術をしないと体がガリガリに痩せてしまい、血圧が高くなって脂肪だけになり、寿命が縮まる、リングは体によくないし、子宮筋腫だからそんなものは必要ないなどと告げられ、入院の上、子宮及び卵巣の全摘手術を受けるよう強く勧められ、手術せずに治療する方法を尋ねると、食餌療法とか光線治療があり、外来でくるようにといわれた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、筋腫もあるようなのでリングはできれば挿入しない方がよい、ビランがあるので外来通院しながら今後のことを担当医とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師のコンサル指示の内容から、同医師が、子宮の大きさが判らないし、何か子宮の異常を疑わせる所見を持ってコンサルに回したと理解した。ME検査を実施したところ、子宮筋腫と卵巣嚢腫があるとの所見を得たので、この結果をC子医師に報告してコンサルで説明するかどうか尋ねると、同医師は、ME写真を検討した上、筋腫等の検査入院も外交して欲しいとのことであったため、患者に、認否書記載のように話した。しかし患者に卵巣嚢腫のことは伝えていないし、すぐ手術をしないといけないと言ってはいない。ME検査の結果をそのまま患者に告げた訳ではない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一一月一六日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、卵巣・筋腫などの説明をした旨記載されているところ、右患者の病状・病名については、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、ME検査直後、C子医師が自らME写真を検討した上、筋腫等の検査入院も外交して下さいとの連絡があったと述べているが、C子医師は、「被告人に指示したことは、避妊リング希望ということだけで、被告人に対するコンサル指示は、いつものように、ME検査において内診で判らなかった異常が判明した場合には、被告人の判断でそれを患者に告げて入院を勧めてもいいという趣旨であった。内診の結果、子宮筋腫の疑いを持ったが断定できなかったし、卵巣嚢腫については、被告人がME検査の結果新たに発見したものである。」と述べて、同医師が再指示をしたとの被告人の弁解を明確に否定し、また被告人も、捜査段階で、C子医師の再指示に基づいて患者に告知したものではないことを認めているものであり、前記被告人の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫があり、卵巣が卵くらいに大きくなっている。すぐ手術した方がよい、筋腫もあるのでリングは挿入しない方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(51) 訴因番号51の患者について

ア 患者(別表番号51の患者)は、不正出血があったため、昭和五三年一二月四日富士見産婦人科病院分院を訪れ、外来患者としてM医師の診察を受けたが、同医師の内診所見は、「子宮前傾前屈、大きさは鵞卵大、硬さは硬い、両側附属器触知し得ない、分泌物は粘液性、子宮膣部ポリーブ。」というものであり、また翌五日再来院してD子医師の診察を受け、その際同医師は子宮膣部からポリーブ四つを検査のため切除した。患者はその後同月六日、再度分院を訪れ、北野医師の診察を受けたが、同医師は医事相談指示票に、「閉経後の出血、頸管ポリーブ、MEの上・検査と治療のため一週間位入院するよう外交して下さい(手術ではない)。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「卵巣が異常(嚢腫)、子宮は縮小している。但し筋腫はあるように凸状で小さい。◎左卵巣は水包性の鳩卵大の嚢腫、右は嚢腫でもガム状腫で左よりやや小型。◎左右中間にピンポン大の血溜状の肥大物がある。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「手術などはしなくて可いか……との最初からの問。一週間検査必要入院と申しておきました。検査ですから大した事はないといっておき、本人はびっくりしてた。何んで入院検査かとの再度の問いですから、左の卵巣少し肥大してるからでないかと申し、五年前外科でハレてると申されたのがそれだといっていたか。入院して検査とす。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同月一一日ころ、妹とともに再び同病院を訪れて被告人と面会したところ、被告人から癌研究所を紹介され、その後防衛医大で診察を受けたが、卵巣等に異常はないとの診断結果であったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「卵巣が腫れている、入院した方がいいなどと告げられ、入院するよう勧められ、同月一一日に夫を連れてくるようにいわれた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、主治医から癌研への紹介状を渡し、本人が眼の前に来てしまったので癌ということは言わず、癌研増渕先生への主治医からの紹介状を渡し、卵巣が少しはれているという言い方にした。但し、よい先生を紹介するので是非行くよう勧めた。」と述べ、またその後の公判においては、「この患者については、特別によく記憶しております。私は、昭和五三年一二月六日、患者について、北野医師からコンサル指示を受けました。医事相談指示票によりますと、六五歳、閉経後の出血、頸管にポリープがある、ME検査をしたうえで、検査と治療のため一週間位入院するよう(手術ではない)に話すようにということであり、さらに直接口頭で、子宮か卵巣かまではわからないが、どこかに癌があることは間違いないから、是非入院するように説得して欲しい、ただ癌のことだけは絶対に言わないようにともいわれました。そこでME検査をした上で、患者に入院するように説得したのですが、もう怖がってしまい、手術などしなくてよいのかとのっけから聞かれるような始末で、大変コンサルがやりずらかったのですが、手術ではない、検査と治療だ、一週間入院しなさい、たいしたことはない、と言ったのですが、本人はビクついてしまって、何で入院検査が必要かと、もうしつこく繰り返して聞くので、左の卵巣が少し肥大しているからではないかと逃げを打ったものです。この患者は、組織検査の結果、癌ということで、その後癌研を紹介しました。そうしたこともあって、相談課説明内容を見ると、当時のことが鮮明に思い出されます。いずれにしても、以上がコンサルのすべてでありまして、MEの検査の結果を患者に直接告げたというようなことはありません。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一二月六日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、左の卵巣が少し肥大している旨告げたと記載されているところ、右患者の病状・病名については、被告人のME所見に記載はあるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME連絡票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお付言するに、北野医師は、公判廷において、本件患者については被告人に対し、医事相談指示票による指示のほか口頭により、子宮か卵巣かまでは分からないけれども、どこかに癌があることは九〇パーセント以上間違いないから、患者には癌とは言わないで、検査のためにどうしても入院させてほしい旨指示したと述べているが、右は事実であるとしても、同医師が患者の立場を考慮して癌と告げることをひかえるように指示したものであって、自ら患者について子宮筋腫あるいは卵巣嚢腫と診断したうえ、被告人に対しその旨患者に告げるよう指示したものではない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME連絡票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「私が超音波検査した結果は医師の判定を受けないで私の判定だけでコンサルという形で説明したのです。この患者さんには所見からみて、卵巣が腫れているから一週間位入院しなさい、そして検査を受けなさいと説明したと思います。問 患者は理事長から卵巣が腫れているからすぐ入院しなさいと言われたというがこのとおりか。答 所見からみてもそのとおりの事を話していると思います。卵巣が腫れているという事は私が超音波検査で判定したものであって、医師の判定を受けないで患者に説明した事はまずかったと思います。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二四日付供述調書)、また、「ME所見をみると、この患者には、子宮筋腫、両側卵巣嚢腫、という病気が認められますが、その他卵巣と卵巣の間に癌の徴候が認められました。コンサルの際、私はこの患者に、子宮筋腫と卵巣嚢腫があるので入院しなさいと言っているハズですが、ガンのことはこの患者には何も言っていません。コンサル指示では、閉経後の出血があり、頸管ポリープということで入院外交を依頼されましたが、超音波検査の結果、今申し上げた病気をあらたに発見したため、コンサルでそのうち子宮筋腫と卵巣嚢腫のことだけを説明して入院をすすめています。」と述べている(検察官に対する昭和五五年一〇月二二日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・病状等につき、卵巣嚢腫、子宮筋腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣が腫れているから、すぐ入院しなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(52) 訴因番号52の患者について

ア 患者(別表番号52の患者)は、妊娠の有無を確認するため、昭和五三年一二月一一日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたところ、同医師の内診所見は、「子宮前傾前屈、ほぼ鵞卵大、両側附属器触知し得ない、子宮膣部ビランあり、膣内容物は白色で増量している。」というものであった。また患者は、人工妊娠中絶を希望して、同月一二日、同病院分院でD子医師の診察を受け、同医師の内診所見は、「超鵞卵大、柔らかい。大きなビラン、膣部硬い。」というものであり、同月一四日、同医師により中絶手術を受けたが、更に同医師は、同月二五日、医事相談指示票に、「(1)過日本院よりアウス希望にて紹介された方です。(2)一四日アウス施行しました。子宮内ごりごりしてました。(3)三年前から坐骨神経痛が痛むそうです。メンス中不規則にて卵巣に異常があるのではないかと考え、ME外交致しました。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右D子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮筋腫と卵巣嚢腫、卵巣は炎症的で内容は悪い。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「出来れば早く入院して全摘目的の検査としました。家庭で相談して早く入院する様にしました。」と記載し、これを医師に回付した。

なお、患者は、その後入院しないまま放っておいたところ、腹痛があったため、同五四年一月一三日、再び同病院分院を訪れてD子医師の診察を受けたが、同医師は、同日、医事相談指示票に、「(1)一二月二五日にMEコンサルお願いした方です。手術は夏休み迄待ちたいご希望でした。(2)昨日外出した所又左下腹痛(いつも同じ所)があったそうです。二時間位の立ち仕事でも同じ所が痛むとのこと、腹水でもあるのではないかと思うのですが。」と記載して、患者へのME検査及びコンサルの再実施方を指示し、右指示を受けた被告人は、同日、患者に対し再度ME検査を実施し、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫で両側卵巣は、ピンポン小型大。◎左卵管溜水腫でこれは長さ五・二センチ、巾四・三センチ大の肥大。」などと記載するとともに、患者に対しコンサルを実施した。患者は、同月一七日同病院に入院し、同月二四日子宮及び卵巣の全摘手術を受けて、同年二月一〇日に退院した。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「子宮も大人のこぶし大に腫れているし、卵巣もかなり大きくなっているから、すぐ切らなければいけない、このまま放っておいたら一、二年の命だよ、破けて死んでしまうからすぐ入院して切りなさいなどと告げられ、入院の上、早く手術を受けるよう勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮がごりごりで、卵巣にも異常があると思われるので、入院検査の上、結果によっては全摘した方がよいかも知れないが、手術については入院の上、担当医とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「D子医師の指示にしたがい、認否書記載のように話しただけで、患者に子宮が大人の頭ぐらいに腫れている、卵巣も腫れていて、このまま放っておくと一、二年で破けてしまい、死んでしまうなどとは告げていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一二月二五日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、出来れば早く入院して全摘目的の検査としたと記載されているだけであって、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫、卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「所見からしてこの患者には、子宮筋腫と卵巣嚢腫のあること及び卵巣が炎症しているところから入院を勧めていると思います。問 この患者は、理事長から、昭和五三年一二月二五日MEを受けたときに、子宮が腫れてるなー、子宮が大人のこぶし大に腫れている、卵巣も腫れている、このまま放っておくと一~二年しかもたない、死んでしまう、手術した方がよいと言われたと言うがどうか。答 一~二年しかもたないと言うことは言わないはずですが、その他の言葉は言っていると思います。問 昭和五四年一月一三日理事長にME検査をされたとき理事長から、子宮筋腫でピンポン玉位に腫れている、卵巣に水が溜まっている、最初のMEのときよりだんだん腫れている、すぐ入院しなければだめだと言われたと言っているがどうか。答 今、昭和五四年一月一三日私が行ったME写真を見せてもらっていますが、その所見に書き込んである内容からその様なことを言ってると思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月一八日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮が大人のこぶし大に腫れている。卵巣も腫れている。入院して手術した方がよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(53) 訴因番号53の患者について

ア 患者(別表番号53の患者)は、腰痛があり、生理が遅れていたため、昭和五三年一二月二六日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてB医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、大きさと硬さはほぼ正常、両側附属器触知困難、リビド色なし、ビランなし、ゴナビス検査(-)。」というものであり、同医師は、同日、医事相談指示票に、「(1)御本人は腰痛等で来院いたしました。(2)内診上では特別な所見ない様ですが、ME御依頼いたします。△上記の上御話し合い願い上げました。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右B医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮差程に筋腫肥大していないが、その上に左卵巣鶏卵大の肥大、左は二段に肥大し、炎症強度、右は一般的嚢腫。◎子宮内も炎症あり。◎左卵管妊娠の疑いもあり注意要します。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「MEを見たら卵巣嚢腫、子宮筋腫など外妊の疑いもあるので入院検査をと申しておきましたので改めて御指示下さい。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、同月二八日同病院に入院したが、同日夜退院し、その後松山病院で診察を受けたところ、手術の必要は全くなく、投薬治療で治癒するとの診断であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「あなたの子宮は筋腫が大きくて、卵巣もぶよぶよに腐っているから、半年と命がもたないから早く手術をしなさい、精密検査の結果、もしかしたら異常がないかも知れない、病名がはっきりするでしょうから検査してみましょう、精密検査は一〇日間、その結果子宮と卵巣の摘出手術を必要とする場合は四週間かかる、その間入院が必要だ、子宮外妊娠のおそれもあるので精密検査をしましょうなどと告げられ、入院・検査の上、手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫や卵巣腫瘍の疑いがあるので、入院検査後再コンサルと致しますと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果、子宮筋腫、卵巣嚢腫のほか子宮外妊娠の疑いとの所見が得られたので、ME写真コピーをカルテに貼付してB医師に戻し、コンサル内容について同医師と打ち合わせたところ、同医師から、コンサルでは筋腫・嚢腫等を含め検査のため入院外交して欲しいとの指示があったので、この指示にしたがい、患者に、子宮筋腫、卵巣嚢腫の疑いがある、また子宮外妊娠の疑いもあるので、入院の上検査した方がよいと話した。患者に対し、卵巣もぶよぶよに腐っているから半年と命がもたないとか、早く手術をしなさいなどとは言っていない。」などと述べて、患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五三年一二月二六日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、卵巣嚢腫、子宮筋腫など外妊の疑いもあるので入院して検査をするように告げた旨記載されているところ、右患者の病状・病名については、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME指示表の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、子宮外妊娠の疑いや卵巣嚢腫等が認められると患者に告げたのは、ME写真コピーを見たB医師からその旨の指示があったからだと述べ、また同医師もME写真コピーを見て、被告人に、子宮外妊娠の疑いがあるので、入院検査が必要であると追加して説明するよう指示した旨供述しているが、前叙のとおり、C子医師らの供述に照らし、B医師がME写真を見て被告人に再度指示したことには疑問があるうえ、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄記載の内容は、被告人がME検査により判断した患者の病名・症状を患者に説明したことをB医師に報告し、改めて同医師の指示を待つというものであり、加えて、被告人自身捜査段階において、B医師の再指示を受けずに本件コンサルを実施したことを認めているものであって、右被告人及びB医師の公判供述は措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME指示表の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「検査が終わると私が行った超音波検査結果を患者さんにコンサルという形で説明するわけで、検査終了後ただちに検査室の片すみにあるイスに患者さんを呼び、私の患者に対する超音波検査結果を主治医等の判定を受ける事なく私が判定して患者さんに説明しました。問 患者さんは理事長から、貴女の卵巣は肥大していて二つに分かれている、さわるとブヨブヨしていて内診では動いてしまい、わからなかったんでしょう、他の病院では発見できなかったでしょう、今日ここに来てよかったでしょう、子宮筋腫も肥大しているので取らなければだめだ、他の病院じゃクスリで治すがガンになり後で悪影響も出ると説明されたというがどうか。答 私が超音波検査した結果もこれと同じに判定出来たので患者さんに対しこの様に説明していると思います。患者さんの云うとおり間違いありません。カルテには子宮膣部ビラン症の疑い、子宮及び卵巣異常の疑いとあるのを私が先程所見という事で申した様に卵巣が肥大していて二つに分かれている、ブヨブヨしている、子宮筋腫も取らなければだめだ、クスリで治すとガンになる等と具体的に判定結果を説明した事はまずかったと思います。主治医のコンサル用紙にもこんなに具体的な事は書いてないはずです。超音波検査する前はカルテにも書いてあるように『疑い』という程度です。これを私が具体的に病気を発見して説明してしまったのです。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二二日付供述調書)、また、「超音波検査の画像を見て、私は、この患者に、子宮筋腫、子宮内炎症、子宮膣部びらん症、左右卵巣嚢腫、子宮外妊娠の疑いがあることを発見しました。B先生の内診所見では、コンサル用紙を見るかぎりは、異常ないとのことでしたが、私が超音波検査した結果、右のような病気が判明したのです。患者にこれらの病気があると診断するに当たり、医師の誰とも相談しておらず、私が超音波検査をしただけで、私の経験と知識で、これらの病気を割出して診断し、コンサルの場で、その侭患者にこれらの病気のあることを教えています。更に、私の判断ではこれらの病気を治すためには、子宮と両方の卵巣を全摘手術した方がよいと思いますので、このコンサルの場で、私は患者に全摘手術をすすめているはずです。問 全摘手術を必要と判断した理由は何か。答 今、写真のコピーを見ただけでも、子宮筋腫は手拳大の大きさ、左の卵巣嚢腫は鶏卵大、右の卵巣嚢腫も直径三センチ位の大きさがありますので、当然全摘手術をした方が良いとすすめたはずです。問 この患者に、卵巣が腐っていると説明したことはないか。答 憶えていませんが、卵巣嚢腫を手術する必要性を説明するため、オーバーに、そのような表現を使ったかも知れません。このように、私は、B先生の内診では発見できなかった病気を発見し、それをB先生や他の医師に指示を仰いだり、相談することもなく、私だけの判断で、その病名や症状を教え、入院や手術をすすめました。私が患者に説明した内容は、写真のコピーに私が記入したこととコンサル用紙の相談課説明内容を合わせてみれば大体分かります。このように、私は、この患者の場合もみても分かるように、医師が発見できなかった病気を超音波検査で発見し、その病名や症状を医師の指示を受けることなく、勝手に、患者に教え、入院や手術をすすめました。」と述べている(検察官に対する同月二五日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮外妊娠の疑いがある等診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣が肥大していて二つに分かれている。さわるとブヨブヨしていて内診では動いてしまい、分からなかったのでしょう。子宮筋腫も肥大しているので取らなければだめだ。薬で治すと癌になる。子宮外妊娠のおそれもある。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(54) 訴因番号54の患者について

ア 患者(別表番号54の患者)は、血圧が高く生理も不順であったため、昭和五四年一月一二日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてH医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、大きさ硬さほぼ正常。両側附属器触知し得ない、ビランあり。分泌物出血性少量。膣及び子宮異常なし。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「高血圧症に悩んでいます。加わうるに四~五年前より月経量が少ないという悩みがあります。内診所見は異常なし、又基礎体温も二相性です。恐らく閉経期前症状かと考えますが、一応ME御願いしてます。スメアー内膜ソシキケンサはやっておきました。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右H医師の指示を受けた被告人は、同月二六日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫で映像の通りフクベ型。左卵巣はことに炎症的で肥大、鶏卵小型大。右はガム状態。◎膀胱附近は左右癒着多い。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「本人は外来にて何でもないと申されたと主張し居りますので具体的に説明す。筋腫もあれば左卵巣の炎症も強度の事、指診では不明の時もあるのでMEに廻ってその有無を確かめるのですと申し了解させ、ME報告の様に説明す。国立及び太田医院と当院外来と見てもらって何でもないと言われたのに、ここで筋腫や卵巣悪いとは何でせう……と申している。紹介者はMEを見てもらいなさいと言ったから信用するが……という。※婦人科では何回行っても何でもないと言われてきた(然し、子宮が悪かったと言うのは本当だ、それで血圧が来ているのだと一人言を述べている)。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後中西病院で診察を受けたところ、子宮筋腫ではないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「ME写真を示しながら、子宮筋腫に卵巣嚢腫で子宮の中がめちゃくちゃだ、手術した方がよいなどと告げられて、入院の上手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、閉経期前症状のあらわれのようであるが、子宮や卵巣の状態も関係しているわけだから、具体的に子宮筋腫・卵巣嚢腫の説明をしておきます、内診ではわからないこともあるので、担当医にはME結果を報告しておきますのでよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査で子宮筋腫と卵巣嚢腫の所見を得たので、H医師にその旨報告すると、同医師がME所見についても説明して欲しいと指示したため、患者に、ME検査の結果では子宮筋腫があり、左卵巣の炎症も強度であるとの所見が得られた、また内診では、判らないこともあるので、引き続きMEによって子宮と卵巣の状態を継続的に診たいと説明するとともに、ME検査の結果を担当医に知らせておくので、今後どのようにするか担当医と相談するよう指示した。しかし患者に対し、手術が必要だとは言っていない。どの患者についても、手術の必要性は精査の結果に基づいて担当医が決定するものであり、私の一存で説明することはあり得ない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年一月二六日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、子宮筋腫も左卵巣の炎症もあること、ME報告のように説明したと記載されているところ、右患者の病状・病名については、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右病状・病名は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、ME検査の結果をH医師に報告すると、同医師から再指示があったと述べるが、H医師は、「本件患者についての具体的記憶はないが、一般的に被告人からME検査をした結果について照会を受けたことはなかった。被告人に対するコンサル指示とは、これを依頼した主治医ないし診察者が自分で説明する暇がないときに、被告人にこれを説明してくれと依頼することであり、その説明は、入院・手術だけにかぎらず、診断した結果の説明を含んでいた。私自身はME写真を見ても子宮筋腫、卵巣嚢腫等を判定する能力はなかった。」と供述して、被告人に対する再指示を否定し、被告人も捜査段階において、H医師の再指示など受けずに本件コンサルを実施したと供述しているものであって、右被告人の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、本件患者を含む一〇名の患者につき、「コンサル指示に書かれている以上のことを超音波検査で発見したときには、そのことをコンサルで患者に説明してやりました。ですからME所見を見てもらえば大体その通りのことを患者に言っているハズです。今までお話した通り、超音波検査やコンサルをした際、前にも後にもカルテはいっさい見ていませんし、医師と相談したりした訳ではありません。超音波検査の結果を私独自で診断し、コンサルで患者に説明してやったのです。」と述べている(検察官に対する昭和五五年一〇月二九日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫と卵巣嚢腫である。手術した方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(55) 訴因番号55の患者について

ア 患者(別表番号55の患者)は、生理が不順であったため、昭和五四年三月九日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮は前傾前屈、ほとんど正常の大きさ。腹緊あり。両側附属器は触知し得ない。子宮膣部小さくて短い。子宮膣部ビランややあり。膣内容物は白色性少量。」というものであり、同医師は、同月一三日、生理不順の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①元来月経不順(三三~六〇日型)との事。今回は一一月にあったきりで以后無月経です。ゴビナス(一)、未婚です。②腹キン強く内診所見不明ですが、精査必要と思われます(出来れば入院して不可なら基礎体温をつけながら外来で様子をみます)。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「卵巣嚢腫。子宮はやや硬いが、肥大量は少ない。左卵巣ピンポン大型の血溜腫。右は同型で上部に鶏卵大肥大物あり、下部はピンポン大の水泡性肥大のう腫。子宮は筋腫様。」などと記載し、また右ME検査終了後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「母が分院で手術したとのこと、(卵巣)上記のように申しました。出来る限り入院検査、卵巣も悪い状況が多いので、早い方が可と説明す。母と近日来院する様にしました。来院したら当方へ。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後防衛医大で診察を受けたところ、卵巣不全であるが手術の必要は全くないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「あなたは左の卵巣が腫れているからすぐ入院して手術するように、あなたは骨盤も小さいですね、入院期間は二週間位で済みますなどと告げられ、入院の上、子宮筋腫部分の切除手術を受けるように強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、生理不順、無月経等は卵巣が悪い場合が多いので入院精査が望ましいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果をそのまま患者に告げたのではなく、生理不順、無月経等は一般的に卵巣が悪い場合が多いので、入院が望ましい、担当の先生とよく相談して下さいと話して、検査のための入院を勧めただけであり、卵巣が腫れているからすぐ入院して手術するようにとは告げていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年三月一三日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、卵巣も悪い状況が多いので入院検査は早い方がよい旨説明したと記載されているところ、卵巣に疾患があることについては、被告人のME所見に記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME指示表の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME指示表の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者には、所見からして、左側の卵巣が腫れていること、子宮は筋腫様であること、入院を要するため母親と一緒にきなさいと言うことなどを説明していると思います。問 この患者は、理事長から、左の卵巣が腫れている、すぐ切らなければならない、すぐ入院しなさい、貴女の骨盤は小さいですねと言われたと言うがどうですか。答 だいたい所見をみても判る様に、その様なことを告げていると思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月二三日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、卵巣嚢腫、子宮筋腫の疑いがある等診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「左の卵巣が腫れている。子宮は筋腫様である。入院して検査するのは早い方がよい。あなたの骨盤は小さい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(56) 訴因番号56の患者について

ア 患者(別表番号56の患者)は、生理が不順で不正出血があったため、昭和五四年三月二九日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮軽度の後傾後屈、大きさははっきりしない、脂肪過多。両側付属器触れない。子宮膣部ほぼ正常。膣内容物白い。頸管粘液異常なし。」というものであり、同医師は、同日、生理不順等の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①毎月メンスとメンスの中間頃に二日位出血するとの事です。②排卵期出血かもしれませんが、一応内膜精査必要と思いますのでケンサ入院すすめて下さい。③肥満の為子宮の大きさは、はっきりしません(何んとなく大きい感じはありますが)。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。◎子宮は後屈して筋腫。◎左卵巣は鶏卵大に近い、炎症している。◎右はガム状的に半分硬く、その下部に在るものは血腫の状態で二段に肥大している。◎子宮内には『リング』あり。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「自分だけでは決められないので、近日主人を来院させるので説明してくれとの事です。検査の上筋腫や卵巣の悪い場合は手術はする覚悟が可という説明をしました。義姉はN医長先生に全摘して貰った方のそうです。主人来院したら当方。午後五時その姉来院説明、中絶の障害も多いなどの説明す。成るべく早く入院させるとの事です。主人の代行で来院した。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後西埼玉病院等で診察を受けたところ、子宮が大きいが手術して摘出しなければならないような状態ではないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「子供二人いるから、なければないでいいですねと告げられ、その意味を尋ねると、子宮筋腫と卵巣嚢腫で、すぐ取らないと心臓の方を子宮や卵巣が刺激して、あとになると心臓が弱って手術と言っても責任を持てないからすぐ入院しなさい、普通の人の卵巣はチャボの卵位だが、鶏の卵位だなどといわれ、入院の上、子宮及び卵巣の手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、出血の原因にはいろいろあるので、入院精査、場合により手術の必要もあるかも知れないが、それは入院後担当の先生によく診てもらって決めましょうと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果をそのまま患者に告げたのではなく、認否書記載のようなことを伝え、まず検査が必要であると述べただけであり、子宮筋腫や卵巣嚢腫と病名を具体的、断定的に告げて、すぐ手術を受けなさいなどとはいっていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年三月二九日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち子宮筋腫、卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票及びME指示表の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME指示表の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、子宮後屈、両側卵巣のう腫という病気や異常が発見されたことがわかります。」「そこで私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、この患者にこれらの病気などの名前や症状を説明したうえ、子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめているハズです。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病気や症状を患者に説明したり、入院・手術をすすめたのも、私独自の判断によるもので、医師などと相談したうえでのことではありませんでした。コンサルの際、この患者は、入院するかどうか相談してくるということで、その侭帰って行きました。」と述べている(検察官に対する昭和五五年九月三〇日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫と卵巣嚢腫である。なるべく早く入院し、検査のうえ子宮筋腫や卵巣が悪い場合は全摘手術をしたほうがよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(57) 訴因番号57の患者について

ア 患者(別表番号57の患者)は、膀胱炎の有無を確認するため、昭和五四年四月二七日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者として北野医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾、大きさは極めて大きい、硬さは硬い、両側附属器触知し得ない。分泌物白色性。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「子宮筋腫、要入院手術、三~四週間。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右北野医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫は特に肥大は大型とは申されないが、凸状で双角的子宮筋腫。◎右卵巣はピンポン大の血腫の肥大。◎左は皮包硬いのう腫、右よりやや小。◎右は炎症多くやや腹水あり。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「一応上記の様に申しました。自分は目黒が実家との事で、子供を見てもらう関係上入院は定めるのに相談必要との事、その様相談して下さいと申しておきました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後同病院へは通院又は入院をしなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「ME写真を示しながら、真っ黒で卵巣に水が溜まっている、放っておくと大変なことになる、結婚前から悪かったでしょう、子宮筋腫だから子宮も取る、卵巣も水が溜まっているから全部取るなどと告げられ、入院して手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫で入院手術が必要、三~四週間入院して下さい、但しいずれにしても、五月四日に院長外来にきて、MEの所見結果を詳しく聞いて下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果をそのまま患者に告げたのではなく、患者には認否書記載のように話しただけで、卵巣の話はしていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年四月二七日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、同票の様に告げたとしか記載がないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票及びME指示表の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME指示表の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この所見からみて、私は患者に対し、子宮筋腫がある事、卵巣のう腫が両側にある事、やや腹水が溜まっている事、手術の必要があるので入院を勧めた事等を説明しているはずです。問 患者は理事長から、水が溜まりはじめたので子宮と卵巣を取らなければならない、すぐ入院しなさいと説明されたというがどうか。答 私の所見からみてもそのとおりですから、手術の必要があるので、その様に申しています。コンサル用紙には子宮筋腫の為に入院を要すると指示してきているだけですが、ここで私が検査の結果新たな病名を発見した事を医師の判定を受けずに、患者に説明してしまった事はまずかったと思います。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二六日付供述調書)、また、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、右卵巣のう腫、左卵巣腫瘍という病気が発見されたことが判ります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、これらの病名を患者に告げたうえ、治療方法として、子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめているハズです。問 そのような手術をすすめた理由は何か。答 子宮筋腫の大きさが、直径六センチにもなっており、右卵巣のう腫の大きさがピンポン玉大、左卵巣腫瘍の大きさがピンポン玉の半分位であることが、写真のコピーを見て判りますので、当然全摘手術をすすめました。このように超音波検査の結果、千賀子が内診で診断した子宮筋腫の他、右卵巣のう腫と左卵巣腫瘍があらたに判明し、私は、これらの病気や症状を患者に教えたり、入院・手術をすすめましたが、これも私独自の判断によるもので、千賀子などの医師に相談したうえでのことではありませんでした。」「結局、この患者は、子供の面倒をみてもらう関係で、その後相談にくるということで、帰って行きました。このことは、コンサル用紙の説明内容を見れば判ります。」と述べている(検察官に対する同月二七日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、子宮膣部ビラン、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「卵巣に水が溜まり始めている。子宮筋腫もある。子宮も卵巣も取らなければならない。入院して手術を受けなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(58) 訴因番号58の患者について

ア 患者(別表番号58の患者)は、妊娠の有無を確認するため、昭和五四年五月一日富士見産婦人科病院の分院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮後傾後屈、ほぼ鵞卵大(?)、圧痛なし。両側附属器触知し得ない。子宮膣部リビド色(±)?不明。ビラン(+)少し。膣内容物異常なし。」というものであり、同医師は、同日、妊娠の有無を明らかにするため、医事相談指示票に、「①最終月経一月/二四日、つわり症状(-)、ゴナビス(-)子宮後屈の為大きさははっきりしませんが、やや大きめのようです。本人妊娠かどうか調べてほしいとの事です。腰痛file_17.jpgoHとの事。②内診所見では妊娠らしくない様です。③子供は二人ありますが、もう一人位ほしいらしいですが、年令的にもどうかと迷っています。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫で凸状多く、両側卵巣はのう腫。右卵巣ピンポン大、左はやや小型で炎症性。◎子宮内には異物があり、妊娠の初期の症状はあるが、これは妊娠ではなく異物の様ですが、稽留の発達しない状況とも推考出来ます。◎腹水が映像するので注意必要。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「一応入院検査の上場合により手術も必要となる可能性もありますので早く入院検査が可と申しました。◎子供は欲しくないとの事です。◎明日午前中主人と来院、当方へ。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後防衛医大で診察を受けたところ、子宮や卵巣に異常は認められず、妊娠もしていないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「赤ちゃんは出来ている、腹膜に水がたまっている、子宮筋腫、それと卵巣に小さいころからできていた種瘍がある、それでも産みますか、子宮筋腫は大きく、子宮は後屈でやや大きい、すぐ入院して手術しなさいなどと告げられ、入院の上、子宮及び卵巣の手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮は後屈でやや大きめ、妊娠の確認のためにもできれば入院精査し、場合によって手術も必要になるかも知れないが、手術については担当医師とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師の内診所見によると、妊娠らしくないようであり、腰痛もひどい等、子宮筋腫等も考えられるので、その検査をするために入院を勧めて欲しいというものであったため、患者にC子医師の指示内容を説明し、入院をして検査する必要があり、場合によっては子宮、卵巣等の手術が必要であると話しただけで、それ以上のことは告げていない。本来手術の必要性は、入院をして精査した結果はじめて決定できるものであり、担当医のコンサル指示とME所見のみで、手術をしないと危険であるというようなことが言える訳がない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年五月一日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫、卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票及びME指示表の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME指示表の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんには、子宮筋腫のある事、両側の卵巣のう腫がある事、異常妊娠の疑いがある事、腹水のある事が所見にもあるので、この説明をしています。すぐ入院して検査した方がいいと云ってあるのです。問 患者は理事長から、どうですか産みますか、子宮筋腫も大きい、卵巣腫瘍も大きい、卵巣腫瘍もある、腹膜に水が溜まっていて危険だ、すぐ入院して手術しなければ危険だと説明されたというがどうか。答 子宮筋腫の大きい事、卵巣のう腫のある事、腹膜に水が溜まっている事は申しているはずです。腹水については、このままにしておけば危険だと云ってると思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年九月二四日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫も大きいが卵巣腫瘍もある。腹膜に水が溜まっていて、このままにしておけば危険だ。すぐ入院して検査した方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(59) 訴因番号59の患者について

ア 患者(別表番号59の患者)は、腰痛や不正出血があったため、昭和五四年五月九日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、ほぼ鵞卵大、丸くて硬い、圧痛あり。両側付属器触知し得ない。子宮膣部ビランあり。膣内容物白色性増量。」というものであり、同医師は、同日、出血等の原因を明らかにするため、医事相談指示票に、「①不正出血の主訴で来院しました。子宮大きめでかたく圧痛(+)です。②内膜ケンサその他精査必要と思われますので、入院すすめて下さいませ。③この人は先天性難聴あり、大声で話さないと聞こえないとの事です。よろしく。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「卵巣嚢腫、子宮筋腫。子宮筋腫で凸状です。また両側卵巣はのう腫。◎右卵巣ピンポン大の炎症で、◎左はやや小型ですがのう腫、◎腹水があるようです。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者とその夫に対し本件コシサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「主人も来院したので上記の様に説明す。子宮・卵巣など場合に依り手術も必要かも知れないのでその様な用意で入院するか可。先ず検査入院とす。小供のみてくれる事を相談して来院の事」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後、国立西埼玉病院で診察を受けたところ、子宮がやや大きいが、手術は必要ないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「子宮筋腫と卵巣嚢腫があるから、すぐ切ってしまった方がよい、そのために早く入院するように、卵巣の片一方は完全に活動していないし、残りの方も少し悪くなっているから、いずれ取るようになるので、この際両方切ってしまった方がいい、子宮も切った方がいいなど告げられ、入院の上、子宮及び卵巣の全摘手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これにたいし被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、不正出血で子宮、卵巣が悪い場合があるので、入院検査が必要、場合により手術も必要かも知れないが、その場合は入院してから担当医の指示に従って下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師のコンサル指示にしたがい、不正出血の場合には、一般的に子宮、卵巣に異常があるので、入院して検査をするよう勧め、検査の結果、子宮や卵巣に異常がある場合には、手術をする必要があるかも知れないので、そのような用意で入院するように説明しただけである。ME検査で子宮筋腫と両側卵巣嚢腫との所見を得たが、これをそのまま患者に告げていない。患者に対し、すぐ手術しなければだめだ、子宮と卵巣を全部摘出する必要があるなどとは告げていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年五月九日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の病状・病名のうち、子宮筋腫については、担当医師はその疑いを抱いたものの断定はしておらず、また卵巣嚢腫については、担当医師作成の医事相談指示票及びME指示表の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME指示表の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、両側の卵巣のう腫、腹水の疑いという病気や異常が発見されたことがわかります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、患者に、これらの病気などの名前や症状を説明したうえ、子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめているハズです。このように超音波検査の結果、あらたに判明した病気や症状を患者に説明したり、入院・手術をすすめたのも、私独自の判断によるもので、医師などと相談したうえでのことではありませんでした。コンサルの際、この患者は、子供の世話をしてくれる人を探したうえで入院するということでその侭帰っていると思います。」と述べている(検察官に対する昭和五五年九月三〇日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫と卵巣嚢腫がある。場合によっては、子宮、卵巣を全部とる手術も必要かも知れない。まず検査するため入院しなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(60) 訴因番号60の患者について

ア 患者(別表番号60の患者)は、帯下と下腹痛があったため、昭和五四年五月一〇日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾左屈、疼痛あり、ほぼ鵞卵大、硬い。子宮膣部ビラン高度、出血性、子宮膣部肥大。」というものであり、同医師は、同日、癒着の有無等を明らかにするため、医事相談指示票に、「①かっ色帯下と下腹痛の主訴、子宮鵞卵大、丸くてかたい、子宮膣部肥大し、びらんかなりひどくそこから出血しております。②昭和四一年帝切分娩しており、癒着もありそうですが、内膜やパンチその他精査必要ですので、入院お話し下さいませ。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮はフクベの様に上下に丸く肥大して居る完全な筋腫。◎左卵巣ピンポン大ののう腫、◎右は左の倍の状況で水泡と血溜と二つに分かれて肥大し、◎内容は特別炎症的で悪い。◎癒着膀胱に有り、腹水もある。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者とその夫に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「上記のように申しました。早く入院しなさいと申しておきました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後国立西埼玉病院等で診察を受けたところ、子宮等に異常はないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は、「ME写真を示しながら、子宮も卵巣も腐ってメチャメチャで、すぐ入院しないと死んでしまう、このまま放っておくと卵巣が癌になるおそれがある、子宮と卵巣を取らないと駄目だなどと告げられ、入院の上、子宮及び卵巣の全摘手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮は大きめで丸くて硬い、子宮膣部ビランがひどい、癒着もあるし、内膜やビランの部分の癌の検査も必要なので、精査のため入院して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、また、その後の公判においては、「C子医師のコンサル指示にしたがい、認否書記載のように話しただけである。患者に、腐ってメチャメチャなどと言う訳がないし、癌についてはC子医師の指示にはなく、ME検査でもその所見を得ていないので、癌云々の話しもする筈がない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年五月一〇日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかではないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫については担当医師は疑いを抱いていたものの断定できなかったものであるし、また卵巣嚢腫については内診所見ではわからなかったものであるから、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME指示表の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんについて所見からみて、子宮筋腫のある事、両方の卵巣がのう腫である事、癒着のある事、腹水のある事を説明しているはずです。又、症状からみて入院。手術の必要性も説明しています。問 患者は理事長から、あんたの卵巣はくさってメチャメチャだ、このままじゃ卵巣ガンになる、すぐ入院した方がいい、子宮と卵巣を摘出する必要があると説明されたというがどうか。答 くさっているとかメチャメチャとは云っていないと思います。又、がんになるとも云ってないと思います。患者が私に放っておいたらどうなると聞かれたのでがんになる事もあると云ったのです。とにかく所見のことは説明しています。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二八日付供述調書)、また、「超音波検査の結果、左右卵巣のう腫、子宮筋腫という病気が発見されたことがわかります。」「このように超音波検査の結果、このような病気が判明したため、私は、おそらく、この患者に、ひきつづき行ったコンサルの際、子宮と両側卵巣の全摘手術をすすめているハズです。このように超音波検査の結果判明した病気や症状を患者に教え、入院・手術をすすめたのも私独自の判断によるものです。おそらく、この患者は私と入院に関する相談をして、その侭帰っていると思います。」と述べている(検察官に対する同日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫も卵巣嚢腫もある。このまま放っておいたらガンになることもある。すぐ入院して手術した方がいい。子宮と卵巣を摘出する必要がある。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(61) 訴因番号61の患者について

ア 患者(別表番号61の患者)は、不正出血があったため、昭和五四年五月一六日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮は前傾前屈、鵞卵大、硬く圧痛±α子宮硬く筋腫(+)、ビランあり。」というものであり、同医師は、同日、子宮筋腫と癒着の有無を明らかにするため、医事相談指示票に、「①不正出血の主訴で来院。②子宮大きくかたくて筋腫と思われます。③内膜ケンサその他治療要しますので入院すすめて下さいませ。④S四〇、S四二、二回(他院で)帝切分娩しております。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫及び両側卵巣のう腫、特に癒着多く全面的に広がっている。◎両側卵巣はピンポン大程度で癒着し血溜の状況。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「早く入院検査し、場合では全摘も必要となれば手術の方が可。明日、主人と来院相談とす。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、翌日防衛医大で診察を受けたところ、卵巣に異常はないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「図解しながら、以前帝王切開した傷があり、その傷がグチャグチャになっていて、このままにしておくと心臓に負担がかかり命が危ない、卵巣もグチャグチャだ、すぐおなかをきれいにしてやるから手術をしなさい、入院後手術をして退院するまで一か月位かかる、費用は三〇万円位だなどと告げられ、入院の上、卵巣等の手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮は大きくかたく筋腫のようだ、入院精査し、結果によっては全摘も考えられるが、手術については入院の上、担当医とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師の指示に基づき、患者には認否書記載のように、検査結果によっては手術をする必要があることと、すぐに検査のために入院する必要があることを話しただけである。患者に対し、おなかがグチャグチャだからすぐ手術をするようになどという表現をする訳がない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年五月一六日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、子宮筋腫については担当医師の内診所見にその疑いがある旨記載されているが子宮筋腫とは断定しておらず、また卵巣嚢腫については何の記載もないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME指示表の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんには私の所見を説明しているはずです。子宮筋腫である事、両側卵巣のう腫である事、傷口がゆ着している事、こんな内容を説明しています。この症状ですとすぐ入院して手術する必要があるので、すぐ入院しなさいと勧めています。この患者さんはお腹の中の傷のゆ着がひどく、ぐちゃぐちゃになっておりました。問 患者は理事長から、お腹がぐちゃぐちゃだ、すぐ手術してきれいにしてやると説明されたというがどうか。答 私の所見でもゆ着がひどかったのでこの様な事を話しました。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二三日付供述調書)、また、「超音波検査の結果、この患者には、子宮筋腫、両側卵巣のう腫という病気が発見されたことがわかります。」「そこで、私は、ひきつづいて行われたコンサルの際、これらの病気や症状を患者に告げたうえ、子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめたハズです。又、この患者には、前の手術のときのゆ着が見られましたので、そのゆ着のネバネバを手術できれいにとってやるということも言っていると思います。このように超音波検査の結果、あらたに判明した両側卵巣のう腫やゆ着、それにハッキリとわかった子宮筋腫の病名や症状を患者に教え、入院・手術をすすめたのも私独自の判断によるもので医師などと相談したうえでのことではありませんでした。この患者は、コンサルのときいずれご主人と相談して、又来るということで、その侭帰って行ったと思います。」と述べている(検察官に対する同月二八日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫と卵巣嚢腫がある。卵巣が癒着している。お腹がぐちゃぐちゃだ。すぐ手術しなければだめだ。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(62) 訴因番号62の患者について

ア 患者(別表番号62の患者)は、妊娠の有無を確認するため、昭和五四年五月一七日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてB医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮極度の後屈、大きさ手拳大?、硬さ硬い、右附属器抵抗性あり、圧痛なし、ビランあり。」というものであり、同医師は、医事相談指示票に、「(1)最終月経からは八週二日なのですが、昨日から少量出血しております。(2)ME御依頼(別紙)。(3)子宮筋腫合併と推考。ゴビナスfile_18.jpgと出ています。△上記の上入院精査及外交願い上げます。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右B医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「卵管妊娠の疑い。◎両側卵巣のう腫があり、左右の判定し難いが、多分に右卵管妊娠の状態です。◎子宮は筋腫ですが、子宮内には薄い血液状があり、妊娠の状態は見当たらない。◎右卵管妊娠の疑いは特に濃い。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「現在の主人は二人目との事。即時入院がよいでしょう、先生にその事を申しますからと申しておきました。主人来院するとの事です。主人来院したら当方」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、直ちに同日同病院に入院し、同月二二日卵巣切除手術を受け、同年六月五日に退院した。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況につき、患者は被告人から、「子宮外妊娠で子宮筋腫がある、卵巣もめちゃくちゃで、一歩でも歩くと死んでしまうぞ、すぐ入院しなさいなどと告げられ、早く入院して手術を受けるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫合併の妊娠で、出血の原因確かめるため早く入院精査した方がよい、出血の原因には外妊も考えられるので、その場合は手術が必要です、手術については担当医とよく相談して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査をしてその余白に所見を記入し、B医師に戻すと、同医師から、子宮外妊娠の疑いがあるので、即時入院安静が必要であることも話して欲しいという連絡があったので、この指示にしたがい、患者に、筋腫合併妊娠のため即時入院とコンサルし、同日午後のコンサルの際に子宮外妊娠の疑いがあることも話した。」などと述べて、患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年五月一七日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか窺知することはできないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、卵巣嚢腫、子宮外妊娠の疑いについては、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおり、患者に子宮外妊娠の疑いがあることを告げたのは、ME写真コピーを見たB医師からその旨の再指示があったからだと述べ、同医師も被告人から回されたME写真のコピーを見て、子宮外妊娠の疑いを持ったので、電話で被告人にこの子宮外妊娠についても追加して説明して入院を勧めるよう指示した旨供述しているが、前記C子医師らの供述に照らし、B医師がME写真を見て被告人に再指示をしたとは認め難いし、被告人自身捜査段階において、あらかじめ担当医師から再指示があり、その指示に基づいて本件患者に告知したものではなく、ME所見をそのまま患者に告知したことを一貫して認めているものであり、右被告人及びB医師の公判供述は措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者に対しては所見からみて、両方の卵巣がのう腫であること、子宮外妊娠の疑いのあること、これ等の点から入院をすすめていることなどを告げているはずです。問 患者は理事長から、子宮外妊娠です、子宮筋腫で卵巣はめちゃめちゃだ、一歩でも歩くと死んでしまう、すぐ入院しなさいなどと言われたと言ってるが、この点はどうですか。答 子宮外妊娠が非常に強かったので、このまま放っておけば大変なことになりますよと言うようなことを告げていると思いますが、一歩でも歩くと死んでしまうなどとは言ってないと思います。所見からも判るように、子宮筋腫があることは説明しているはずです。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月一六日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮外妊娠の疑い等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮外妊娠の疑いがある。子宮筋腫も卵巣のう腫もある。このまま放っておけば大変なことになる。すぐ入院するのがよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(63) 訴因番号63の患者について

ア 患者(別表番号63の患者)は、癌検査のため、昭和五四年五月三一日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてB医師の診察を受けたが、その内診所見は、「筋腫様子宮、子宮膣部ビラン。」というものであり、同医師は、同日、医事相談指示票に、「(1)子宮筋腫及子宮膣部ビラン症。(2)ME御依頼。△上記の上入院手術如何するか御相談願い上げました。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右B医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫で凸状。◎右卵巣鶏卵大の肥大、炎症、左ピンポン大ののう腫。◎腹腔内炎症もあるようです。」などと記載し、また、右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「いずれとしても入院検査が必要と申しました。小供があるため入院は出来ないような事を申して居りましたが……出来る限り主人と相談して入院検査をと申しました。」等と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後日大病院等で診察を受けたところ、筋腫も嚢腫もなく、手術の必要もないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「両方の卵巣嚢腫と子宮筋腫だ、だから一日も早く入院して手術するようになどと告げられ、早く入院して手術を受けるよう勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫と子宮膣部ビランで入院して検査し、場合により担当医の意見によっては手術必要かも知れないと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「B医師の指示にしたがい、子宮筋腫と子宮膣部ビラン症で、いずれにしても入院検査が必要で、担当医の意見によっては手術が必要かも知れない、できるかぎり御主人と相談して入院検査をした方がよいと話した。ME検査の結果、子宮筋腫と卵巣嚢腫がみられたが、ME写真コピーの記載はB医師に対する報告であり、患者に卵巣嚢腫のことは告げていないし、手術のための入院も勧めていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年五月三一日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか必ずしも明らかでないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、右患者のME所見の病状・病名のうち、卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票及びME指示表の各指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME指示表の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「説明の内容は所見に書いてある内容及びコンサル用紙に書いてある事であります。問 患者さんは理事長から、貴女は悪いですね、子宮筋腫がありますね、卵巣のう腫もあります、両方あります、自分の身体だから一日も早く入院しなさいと説明したというがどうか。答 私の所見にも子宮筋腫、左右卵巣のう腫とありますから正にそのとおり説明していると思います。この患者さんは私の云った事をよく覚えています。コンサル用紙には子宮筋腫があるから入院を勧めて下さいとあるだけなのに、私が超音波検査した結果所見のとおり病名や症状が判明した事を医師の判定を受けないで、新たに発見した病名や一日も早く入院しなさい等と説明した事はまずかったと思います。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二三日付供述調書)、また、「B先生の診断した病名の他、私が、あらたに、両方の卵巣のう腫と腹腔内炎症を発見しています。」「このような所見に基づいて、私は、ひきつづいてコンサルの席で、この患者に子宮筋腫と卵巣のう腫を手術した方がよいとすすめているハズです。問 何故、手術が必要なのか。答 今、写真を見ただけでも子宮筋腫や両方の卵巣のう腫がたいへん大きくなっていることが判りますので、当然手術が必要だと思ってすすめたのです。この患者の場合、B先生は内診で卵巣のう腫と腹腔内炎症を発見できなかった訳ですが、私が超音波検査をした結果、これらを発見したため、私独自の判断で、勝手にこの患者に、卵巣のう腫や腹腔内炎症があること、卵巣嚢腫は子宮筋腫とともに手術しなければならないとすすめたのです。このように患者に話しをするにあたって私は、診療録や産婦人科外来病歴は見ていません。」と述べている(検察官に対する同月二六日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫、腹腔内炎症の疑い等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫と両方の卵巣のう腫がある。腹腔内炎症がある。入院して検査が必要である。筋腫と嚢腫の手術をした方がよい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(64) 訴因番号64の患者について

ア 患者(別表番号64の患者)は、不正出血と腰痛などがあったため、昭和五四年八月六日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、やや大きい。両側付属器触知し得ない。子宮膣部ビランあり、肥大。膣内容物白色性。」というものであり、同医師は、子宮内膜等の状況を明らかにするため、同日、医事相談指示票に、「①二週間前から、不正出血訴えております。子宮やや大きめでビランかなりひどくてポルチオ肥大しています。②内膜ケンサその他精査入院要しますのでお話し下さい。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫で凸状です。◎両側卵巣はのう腫。◎左皮包硬い、肥大ピンポン大。◎右血水状の肥大ピンポン大型、炎症あり。※子宮内は妊娠初期の疑いあるような薄い膜状の異物アリ。◎妊の場合は継続して行きたい。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「上記の通り申しました。妊の疑いもないわけでないが先ず内膜の異物でせうからこれを取り、正常に戻すことですが、筋腫も卵巣も異常なので、これをどちらか検査すると申しました。早く入院出来れば早くと申しておきました。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、その後坂戸産婦人科病院等で診察を受けたところ、卵巣が多少大きいが、手術を要するような子宮筋腫や卵巣嚢腫ではないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「図解しながら、子宮筋腫と卵巣嚢腫です、手術をしなければならないようだからすぐ入院して下さいなどと告げられ、入院の上、手術を受けるよう勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮やや大きめで、ビランもかなりひどいので、子宮内膜検査のため入院して下さいと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果妊娠初期の所見が見られ、子宮内に膜状異物が窺われ、かつ卵巣にも異常が発見されたので、その旨C子医師に報告して指示を求めると、患者にME検査の結果得られた所見を説明して入院精査を勧めて欲しいとのことであったため、患者にME所見について説明し、子宮がやや大きめで、ビランもかなりひどいので、子宮内膜検査その他精査のために入院するようにと勧めた。患者に、子宮筋腫あるいは卵巣に異常の疑いがあるのではないかとは言ったが、病名について断定的な言い方はしていない。手術をするかどうかは、諸検査が終了した後に担当医が決めることであって、私がME検査の結果のみに基づいて独断で言えることではない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年八月六日付相談課説明内容欄には、前記のとおり、被告人が本件コンサルにおいて患者に対し、筋腫も卵巣も異常なのでこれをどちらか検査する等と告げた旨記載されているところ、右卵巣の疾患については、被告人のME所見に記載はあるが、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載がないので、被告人が捜査段階において供述しているように、右卵巣の疾患は被告人においてME検査により初めて診察・診断したものであって、他の患者の場合と同様、右ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものと認められる。

なお、被告人は、前記のとおりC子医師の再指示があり、これにしたがって本件コンサルを実施したにすぎない旨述べるが、C子医師は被告人に対して再指示をしたことを否定し、被告人自身も捜査段階において、C子医師の再指示を受けずに、ME検査の結果をそのまま本件患者に告げたことを認めているものであり、前記被告人の公判供述はとうてい措信できない。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「所見からしてこの患者には、子宮筋腫であること、両方の卵巣はのう腫であること、又入院などを勧めていると思います。問 この患者は理事長から、子宮筋腫、卵巣嚢腫です、入院して手術する必要がありますよなどと説明されたと言っているがどうか。答 所見からして全くそのとおりのことを説明していると思います。妊娠している疑いもあったので入院も勧めているはずです。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月一八日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、両側卵巣嚢腫、妊娠初期の疑いがある等診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮筋腫と卵巣嚢腫がある。すぐ入院して手術する必要がある。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(65) 訴因番号65の患者について

ア 患者(別表番号65の患者)は、不正出血があったため、昭和五四年一〇月九日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者として北野医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、大きさは手拳大、硬さは硬い、両側付属器触知し得ない。分泌物白色性。ビラン高度にあり。」というものであり、同医師は、同日、医事相談指示票に、「子宮筋腫、膣部ビラン、要入院手術、三~四週間。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右北野医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫で後屈している。◎右卵巣のう腫、水包性でピンポン大、炎症。◎左はガム状で皮包硬い卵巣(腹水アリ)。」などと記載し、また右ME検査終了直後、同室において、患者に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「上記の様に申しました。防衛大などに再度診断に行ったが、何んでかなどと申されたとの事。二、三の病院を廻っているとの事。◎相談の上早く入院検査と申しておきました。金12日来日するとの事。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、翌日佐々木病院で診察を受けたところ、子宮及び卵巣とも異常はないとの診断結果であったため、以後富士見産婦人科病院には通院しなかったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は被告人から、「子宮が大きいし、それに卵巣も普通の人の二倍位ある、放っておくと三か月位たつと歩けなくなってしまう、ですから手術の必要がありますね、しかし手術するためには検査が必要ですから、入院した方がよいなどと告げられて、入院して手術を受けるよう勧められ、同月一三日にもう一度来院するよう言われた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮筋腫、膣部ビランあり、入院検査、手術が必要、入院期間は三~四週間という担当医の意見です、よく家で相談して入院検査した方がよいでしょうと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「ME検査の結果をそのまま患者に告げたのではなく、患者には、認否書記載のように話しただけで、卵巣の話しはしていない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年一〇月九日付相談課説明内容欄には、前記のとおり同票の指示の様に告げた旨記載されているものの、右記載から被告人が本件コンサルにおいて患者に対し具体的にいかなることを告げたか明らかでないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の患者の病状・病名のうち、卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示にも、また内診所見にも記載が全くないので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者に対しても、検査の結果を医師の判定を受けないで、私だけの判定で病名や病状を説明しているはずですが、所見からしてこの患者には、子宮筋腫で、右卵巣は大きいのう腫状になっており、左の卵巣は逆に縮まっていると言う内容のことを説明していると思います。問 この患者は理事長から、子宮が大きい、卵巣も大きい、子宮が大きいから三ヶ月位すると歩けなくなる、手術する可能性があるから検査の為入院しなさいと言われたと言うがどうか。答 所見からして、その様な内容のことを告げていると思いますが、三ヶ月位で歩けなくなると言う様なオーバーなことは言ってないと思います。」と述べている(司法警察員に対する昭和五五年一〇月一八日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「子宮が大きい。卵巣も大きい。手術することになるかも知れないから、入院して検査を受けなさい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

(66) 訴因番号66の患者について

ア 患者(別表番号66の患者)は、不正出血と腹痛があったため、昭和五四年一一月二日富士見産婦人科病院を訪れ、外来患者としてC子医師の診察を受けたが、その内診所見は、「子宮前傾前屈、やや大きい、圧痛(±)。右附属器あたり触れる(卵巣?)、左附属器は触知し得ない。子宮膣部ややビランあり。頸管分泌物出血性、粘液性。手術痕あり。」というものであり、同医師は、同日、卵巣嚢腫の有無を明らかにするため、医事相談指示票に、「①メンス以外に時々不正出血あり来院。②子宮やや大きめ、左側に卵巣か何かふれます。圧痛少しあり、③精査(内膜その他)要しますので入院すすめて下さい。」と記載して、患者に対するME検査とともにコンサルの実施方を指示した。

右C子医師の指示を受けた被告人は、同日、同病院の超音波検査室において、患者にME検査を実施した上、ME写真コピーの余白に、「子宮筋腫、卵巣嚢腫。子宮筋腫は中程度で凹状で両側卵巣は水包と血腫との合併症。◎右卵巣はピンポン大の二個の肥大。◎左はピンポン大型の水包肥大。」などと記載し、また右検査終了直後、同室において、患者とその夫に対し本件コンサルを実施し、その結果を担当医師に報告するため、前記医事相談指示票の相談課説明内容欄に、「ホルモン治療を続けたとの事、いづれにせよ早く入院して検査、場合で治療通院又は結果では手術もそれは検査してと申しました。入院は相談して早くする様すすめた。」と記載し、これを医師に回付した。なお、患者は、一旦帰宅して親族と相談し、再度同病院を訪れたが、その後防衛医大で診察を受けたところ、ホルモンのバランスが影響しているだけで、子宮等に異常はないとの診断結果であったと述べている。

イ ところで、本件コンサルにおける被告人の患者に対する告知状況等につき、患者は、「ME写真を示しながら、子宮筋腫と卵巣嚢腫がある、卵巣が膿んでいる、すぐ家で相談して入院の段取りを考えてきなさい、腹痛は帝王切開の癒着があるからです、このまま放っておくと癌に移行する確率が高い、入院して一週間位の検査が必要で、その後手術ということになるでしょう、子供が欲しくなかったら、癌に移行しない早い時期に手術した方がいい、子供が欲しいのだったら、早く産んでしまって、それからいずれは癌に移行するおそれがあるのだからやはり手術した方がいい、卵巣にしろ子宮にしろ摘出が必要だから薬だけでは駄目ですなどと告げられ、入院の上、子宮及び卵巣の摘出手術をうけるよう強く勧められた。」と述べ、これに対し被告人は、公訴事実の認否において、「患者には、子宮やや大きめ、左卵巣嚢腫がある、出血の原因を確かめるため入院検査の必要があります、その結果担当医師の意見によっては手術が必要かも知れませんと告げたにすぎない。」と述べ、またその後の公判においては、「C子医師のコンサル指示にしたがい、子宮がやや大きめで左卵巣にも嚢腫のある疑いがあるので、子宮や卵巣等の状態及び出血の原因を確かめるためにも、速やかに入院をして治療を受けるように、仮に入院することができなければ、通院をして治療を受け、検査結果如何では手術も必要であると話しただけである。患者に、卵巣嚢腫の疑いがあるとは言ったが、子宮筋腫だとは伝えていない。帝王切開の癒着があり、そのままにしておくと癌に移行する確率が高いなどと、医師の指示にない事項を私独断で患者に言う訳がない。」などと述べて患者に対する告知内容等を争っている。

ウ そこで検討すると、患者に対する医事相談指示票の昭和五四年一一月二日付相談課説明内容欄には、前記の記載しかないので、右相談課説明内容から被告人が本件コンサルにおいて患者に対しいかなる資料に基づきどのようなことを告げたか明らかでないが、被告人が捜査段階において終始一貫して供述しているように、本件患者についても他の患者の場合と同様に、ME所見を含むME検査結果を説明しながら本件コンサルを実施したものであり、ME所見の子宮筋腫、卵巣嚢腫の疾患については、担当医師作成の医事相談指示票の指示及び内診所見では子宮筋腫の疑い及び卵巣嚢腫の疑いが読み取れる程度の記載内容であるが、ME所見では子宮筋腫、卵巣嚢腫と断定しているので、被告人がME検査により初めて診察・診断したものと認められる。

そこで、被告人の患者に対する告知内容についてみると、前記医事相談指示票及びME指示表の各記載内容、ME所見のほか、被告人が捜査段階において、「この患者さんは私の所見の内容である、子宮筋腫がある事、両側の卵巣のう腫がある事、卵巣はピンポン玉大になっている事を説明し、いずれにせよ入院して検査受けなさい、場合によっては通院治療か手術も検査の結果しなさい、入院は早い方がいいでしょうという事を申したのです。問 患者は理事長から、両側の卵巣のう腫がある、指をまるめて大きさを示した、子宮筋腫もあるがまだ小さい、放っておくと大きくなる、子供が欲しかったら取った方がいいと説明されたというがどうか。答 私の所見でもその様になっていますからその様に申したはずです。ただ子宮の筋腫を取るのではなく、卵巣の手術と患者さんは聞き違えていると思います。」と述べ(司法警察員に対する昭和五五年九月二四日付供述調書)、また、「この患者には、子宮筋腫、左右の卵巣のう腫があることが判ります。コンサル用紙には、このような病気は書かれていませんから、これらの病気は、私が超音波検査をして初めて発見したのです。そして、コンサルのとき、私は、この患者に、子宮筋腫と左右の卵巣のう腫という病名と症状を教えたハズです。又、この患者が、子供が欲しくないと言えば、子宮と両方の卵巣の全摘手術をすすめたハズです。問 そのような手術を必要と判断した理由は何か。答 今、写真を見ただけでも子宮筋腫は手拳大、両方の卵巣のう腫はピンポン玉大位の大きさがあることが判りますので、この侭ではどんどん筋腫やのう腫が大きくなっていきますから、全摘手術をすすめるのは当然だと思います。このように、私がこの患者の病名や症状を診断して入院・手術をすすめたのは、超音波検査に基づく私独自の判断によるもので、患者に、このようなことを告げるに当たり、C子先生などの医師に相談したようなことはありませんでした。このようなコンサルの内容も、相談課説明内容を見れば判ります。」と述べている(検察官に対する同月二六日付供述調書)こと等を合わせ考えると、被告人はME検査により、患者の病名・症状等につき、子宮筋腫、卵巣嚢腫等の疾患があると診察・診断したうえ、本件コンサルにおいて、患者に対し少なくとも、「両側卵巣嚢腫がある、子宮筋腫もあるがまだ小さい。放っておくと大きくなる。子供が欲しくなければ取った方がいい。いずれにせよ入院して検査を受け、手術が必要なら手術をした方がいい。」旨告げたことは明らかであって、以上の認定に反する被告人の公判廷における供述部分は措信できない。

第五違法性の認識について

弁護人は、被告人は本件ME検査及びコンサルを担当医師の指示を受け、その指示の範囲内で実施していたので、これが法に違反するとの認識はなかった旨主張し、被告人も公判廷において右主張に沿う供述をしている。

そこで検討すると、被告人が本件ME検査及びコンサルを担当医師の指示を受けて行っていたことは所論のとおりであるが、被告人は、前叙のとおり、本件ME検査及びコンサルにおいて、弁護人が主張するように単に医師の行う診療の補助あるいは手足としてこれに関与していたというのではなく、自ら独自に患者の病状・病名等を診察・診断したうえこれをそのまま患者に告げて入院外交を行っていたものであって、このような医師の資格を有する者にのみ許された診療行為については、たとえ所論主張のような医師の指示があり、医師においてこれを容認していたとしても、医師法一七条に違反する違法な行為であることは多言を要しないのみならず、前叙のとおり、富士見産婦人科病院におけるME主任管理医師は、被告人の実施していた本件ME検査及びコンサルについて何ら実質的な指導・監督をしておらず、専ら被告人の本件ME検査が無資格者によるものであるとの非難をかわすために任命されていたものであって、被告人自身においても右の点を知悉していたことは関係証拠上明らかである。

ところで、弁護人は、富士見産婦人科病院では、所轄の監督行政機関である所沢保健所にME検査やコンサルについて質問し、被告人がこれを担当してもよいか否か聞いたが特段の注意や指導を受けていない、また、所沢保健所長が富士見産婦人科病院を医療監視した際、被告人がME検査やコンサルを実施するのに立ち会ったことがあるが、同所長より違法であるとの指摘はもとより、何らの注意もなかったものであり、そのため被告人において本件ME検査やコンサルを実施するについて、違法であるとの認識はなく、違法性の認識を欠いたことについてやむをえない事情が存したというべきである旨主張し、被告人も公判廷において同旨の供述をしている。当時の所沢保健所長であった小島哲雄は、被告人が無資格で診療に関与しているなどの情報を受け、昭和五四年及び同五五年の各二月に富士見産婦人科病院を訪れ、被告人がME装置を操作していることを知ったが、違法であるからやめるよう指導しなかったことは所論のとおりである。しかしながら、関係証拠に照らしても、当時、所沢保健所において被告人のME検査を積極的に是認したような形跡は全く存しないのみならず、保健所長において、右医療監視の際に、被告人がME装置を使用して前叙のとおり患者の具体的病名・病状等を診察・診断し、これをコンサルで告知しながら、入院外交を行っている場に立会うなどして、その事実を知りながらこれを容認していたものとはとうてい認められない。加えて、富士見産婦人科病院においては、右保健所長の医療監視後において、被告人が医師の指導・監督のもとにME検査を実施している体裁を作出するために、ME検査に関する経験が殆んどなく、実質的に指導・監督する能力のないことの明らかなH医師がME主任管理医師に任命されていること等を併せ考えると、被告人が本件ME検査及びコンサルの実施について違法性の認識を欠いていたとは認められないし、いわんや違法性の認識を欠くについて相当な理由があったものとはとうてい認められない。所論はいずれにしても理由がない。

なお、被告人は、公判廷において、本件ME検査及びコンサルを、医師からの推挙により、医師の補助者として、医療あるいは患者の健康回復に寄与したいとの気持から実施したものであって、法秩序に違反するとの意識は全くなかったと述べ、また被告人が北野院長の了解を得て本件ME検査及びコンサルを担当し、他の医師らもこれを容認していたことは前認定のとおりであるが、右の事実が被告人の本件無資格診療を何ら正当化するものでないことはいうまでもない。

その他所論が被告人の本件医師法違反事件について違法性の認識あるいはその可能性がないとして主張するところを検討するも、いずれも理由がない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は、医師法一七条、三一条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを全部被告人の負担とする。

(量刑の理由)

本件は、当時埼玉県下で産婦人科専門病院として屈指の設備と規模を有していた医療法人芙蓉会富士見産婦人科病院において、同病院院長の夫であり、医療法人芙蓉会理事長の地位にあった被告人が、それまで医療上の資格も経験も全くないのに、担当医師から患者のME検査及びコンサルの依頼を受けこれを実施した際、ME装置を操作して自ら独自に患者を診察・診断し具体的病状・病名等を判定したうえ、これを患者に告げて無資格診療を行っていたという事犯である。

患者を診察・診断しその具体的病状・病名等を判定することは、患者の生命、健康を預かる医師の職務の中心をなすものであって、医師自ら直接行うべき極めて高度な医学上の知識と経験を必要とする医療行為であり、医師としての資格がない者には絶対に許されない行為である。しかるに、被告人は、本件において、医療上の資格がないのに、ME装置を操作して独自に患者の病状・病名等を診察・診断したうえ、入院を慫慂する目的でこれを患者に告知していたものである。被告人が担当医師の依頼を受けてME検査及びコンサルを実施し、その際右のように患者を診察・診断しその結果を告知するようになった経緯等は前叙のとおりであって、無資格診療を正当化するような理由ないし事情は全く存しないのみならず、被告人が無資格診療を実施していた本件ME検査及びコンサルは、富士見産婦人科病院の診療の予定表にその担当者として被告人の名前が記載され、通常の診療システムの一環に組み込まれて実施されていたものであって、かかる被告人の行為は厳正に施されるべき医療業務を冒涜する許し難い犯行といわざるを得ない。また富士見産婦人科病院を訪れた患者らが、白衣を着た被告人を医師と判断したか診療補助者と判断したかはさておき、被告人から告げられる自己の病状・病名等が医師の診断によるものと信じていたことは関係証拠上明らかであるが、健康に不安を抱いて来院した患者にとっては、告知された自己の病状・病名等をそのまま信じ、これを治療せんがために指示されるまま行動せざるを得ないのが普通であり、実際に本件患者の中には被告人から自己の病状を聞いて狼狽し、指示されるまま直ちに入院、あるいは家族を伴って再度富士見産婦人科病院を訪れて説明を求め、また別の病院で診察を受けるなど相当動揺していたことが認められる。

また、被告人は、当初前任者の担当医師から検査方法などについて指導を受けながらME検査を実施していたものであるが、昭和四八年一〇月ころからは被告人がひとりでME検査を担当し、同五〇年一〇月ころからはME装置を操作して独自に患者の病状・病名等を診察・診断し、これを患者に告げて入院を勧めるようになったものであって、本件起訴にかかる無資格診療は右一連の犯行の一部にすぎない。被告人は医療法人芙蓉会の理事長の地位にあり、しかも医療業務を統轄していた同病院院長の夫であったことから、病院における医師を含む全ての職員の人事権を有していたが、そのためC子医師、D子医師らが明確に供述しているように、被告人が富士見産婦人科病院における経営面のみならず、医療業務についても事実上強い影響力を有し、医師ら医療に従事する者において本件のような不正診療に対し、正面から異を唱えることもできず、右のとおり長期間にわたってこれを継続させる結果になったものと認められる。

更に、本件を含む富士見産婦人科病院における診療に関する不正が、いわゆる富士見産婦人科病院事件として大々的に報道されたこともあって、医療に対する社会的疑惑にまで発展するに至ったが、患者はもとより、医療関係者、世間一般の医療に関する信頼を失墜せしめた被告人の責任も軽視し得ないものがある。

加えて、被告人は捜査段階において本件事実を認め、改悛の情を示していたが、本件が起訴され公判が開始されるや否認に転じ、最終公判の段階においてもなお、ME検査について研究を重ねて専門家に劣らないまでの能力を備え、患者の診療に全力を注いできたものであり、処罰されるようなことは行っていない旨弁解するなど、無資格者である自己の行為が法に触れ、人の生命、健康にかかわる医療の倫理に悖理することの自覚と反省の態度は認められず、これらの事情をも併せ考えると、被告人を実刑に処し、厳しく反省を求めることも考えられないではない。

しかしながら、反面、被告人は病院経営のみを考えて本件犯行を敢行したものとは認められず、また治療行為そのものには全く関与していないこと、被告人に対しME検査を依頼した担当医師らは被告人のME所見をそのまま鵜呑みにして患者の病状・病名等を判定していたのではなく、自らも診断し、治療の要否を含む具体的な治療については担当医師の判断によって行われていたこと、本件病院における診療業務が適正に行われるよう指導監督すべき立場にあった院長、副院長、その他の医師らにおいて、被告人がME検査により患者の病状・病名等を判定・診断し、これを患者に告げて入院を慫慂することを容認していた面があり、被告人に対してのみ厳しく責任を追求することは相当でないこと、本件を含む一連の不正が報道され、既に富士見産婦人科病院は閉鎖されるなど、被告人自身かなりの制裁を受けたものと認められる等被告人にとって有利な事情も存するので、これらをも総合勘案し、被告人に対しては、主文のとおり量定したうえ、その刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三井喜彦 裁判官 羽渕清司 裁判官 山田陽三)

<以下省略>

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